映画ナタリー Power Push - 「劇場版 MOZU」西島秀俊×ビートたけし

1分の出会いが生んだ14年後の激突

羽住さんとたけしさんの間で板挟みになってドキドキした

──倉木とダルマがヘリポートで対峙するシーンは本当に炎に囲まれて撮影されたそうですね。

西島 羽住組は俳優だけじゃなくカメラワークとか炎の大きさも演出して、全部うまくいかないとOKが出ないんですよ。だから俳優の演技がよくてもカメラワークがずれていたら「もう1回」。今回僕はけっこうドキドキしちゃって。たけしさんがこんな特殊メイクして夜中までやっているのに、よくこの人(羽住)は「もう1回お願いします」って言えるなって(笑)。僕は羽住さんも好きだし、たけしさんはもちろん自分にとって恩人みたいな方ですから、もう板挟みみたいな感じでドキドキしました(笑)。でもそれが「羽住組だな」っていう感じはしましたね。もうちょっと気を遣いそうなものですけど、カメラの動きがダメだったからもう1回みたいなことを平然とやる組だし、本番行く前に炎にいちいち燃料を足しているし(笑)。「もういいんじゃないかな」ってぐらいやっていたので、あのシーンはそういう印象が強いです。非常に過酷な撮影でしたね。

ヘリポート上のシーン。バックに見える炎はすべて本物。

たけし 炎の周りは全部ブルー(バック)で囲んでいるわけだから、俺は「炎もCGで作ればいいんじゃねえかな」って思ったんだけども(笑)。でもまあそのへんはこだわりだよね。計算できないんだよ、炎は。街や夜景はすでにあるものだから、それをコンピューターで再現するだけだけど、炎を再現するのは難しくて、実際に焚いたほうがみんな納得できるから。やらされているほうはたまんないけどね(笑)。LPガスに囲まれて「はい火が入ります」、ボボボボって。ローストビーフみたいなもんだから。

西島 燻製とか(笑)。

たけし 俺は全部メイクしてずっと炎の中にいるんだから。「これ、顔が焦げてんじゃねえか」って。

西島 (笑)

日本犯罪史の重大事件を陰で操ってきたダルマ。

たけし それと、病室のシーンで「ベッドに寝ていてください」って言われたんだけど、ぜんっぜん映ってないんだよね(笑)。いなきゃいけないって言われたんだけど、遠くのほうで芝居をやっているだけだから前の日の仕事の影響でいびきかいちゃって。そうしたら「すいません、寝ないでください」って。で、やっと出番が来たと思って「あ、カメラ近付いてきたぞ、いよいよ俺の出番だ」って思ったらまた遠ざかっていっちゃって(笑)。

西島 (笑)

たけし でも羽住監督は面白いね。俺とは違う粘り方をする。納得できないときはやっぱり粘るもんなんだなっていい勉強になったよ。俺は、役者の演技がよほどひどくなきゃ、「俺には編集がある」とかわけのわかんないこと言ってOKしちゃうから(笑)。でもやっぱり基本的には納得のいく映像を撮らなきゃいけないんだなと思った。

日本ではできないアクションがやれるというのは楽しい

──フィリピンロケも含めて、撮影は本当に過酷そうです。

西島 そうですね。本当につらい撮影が好きな組なんですよ(笑)。そういうのが好きな人たちだけでやっているんで。だから俳優も今回吹替(スタントダブル)はほぼないです。本人がアクションをやっています。さすがにたけしさんには吹替の方が用意されるのかと思っていたら、いなかったですもんね。

たけし 俺はたいしてやることなかったもん。

西島 そんな(笑)。

フィリピンで撮影された、トレーラーの爆発シーン。

たけし まあ役者さんはひどい目に遭っているよね。よくこれでけが人が出なかったな、えらいなって思う。俺はフィリピンロケがなくて本当によかった。

──特に印象に残っているシーンはどこですか?

たけし 最初のほうで、西島くんが車のボンネットに乗って敵を投げ飛ばしてるところがすごくカッコいいなって思った。西島くんの相手のスタントもうまかった。リアルな見せ方をしているから、けがするんじゃないかって心配になっちゃうんだよ。撮る側の視点で。逆にビルから落ちそうになった子を手を伸ばして助けたりするようなシーンは、本当はハラハラするんだろうけど、CGだろうなと思うからそんなに危険な感じはしなかった。

西島 あれCGじゃないんですよ。

たけし ええっ!?

西島 (笑)。あれ、本当にビルの5階から身を乗り出してやっているんですよ。

たけし ああやだやだ。

西島 (笑)

空に向かって拳銃を撃つ倉木。

たけし 俺、高所恐怖症だから。完全にCGだと思った。大変だな……。あとはフィリピンのエキストラだか偶然居合わせたかよくわかんない人たちが出ているじゃん。昔マルコス政権の時代にフィリピンへ一度行ったことがあるんだけど、すごいとこだという思いがあって。よくやってきたよね、ロケ。

西島 みんな熱に浮かされたようになっていて。ちょっと瞳孔開いていましたね、興奮して(笑)。本当に危なかったシーンもあったんですけど、それでも日本ではできないアクションがやれるというのはやっぱり楽しいんですよね。

──ドラマ版から劇場版へと派生して、西島さんとしてはもうやりきった感がありますか?

西島 香港映画の「インファナル・アフェア」をリメイクした「ダブルフェイス」というドラマで羽住組と出会って、香川(照之)さんともそれで初めてがっちり共演しました。「ダブルフェイス」はドラマだけだったので、ついに羽住組、香川さんと映画を一緒に撮ることができたという達成感はあります。今回は集大成だと言われたので、ここで全部出しきったつもりです。

たけし でも俺はダルマの次はオカメが出てくんじゃねえかなって思っているんだけど。「ダルマとオカメは夫婦だった」って(笑)。下町に住んでいるんだよ。小津安二郎の世界だ。

西島 (笑)。またオファーされますよ、オカメ役で。

「劇場版 MOZU」2015年11月7日より全国東宝系にてロードショー

「劇場版 MOZU」

都心で起きた「爆弾事件」や「百舌事件」、そして妻子の死の真相を追う中で、警察内部に巣食う深い闇を知った公安捜査官・倉木尚武。そんな折、高層ビルの占拠爆破、ペナム大使館襲撃という大規模テロが同時発生する。これらは犯罪プランナー・高柳隆市と、実行部隊を率いる殺し屋・権藤剛を中心とするグループによる犯行だった。高柳たちが謎の存在“ダルマ”のもとである犯罪計画を進めていることを知った倉木は、灼熱の地・ペナム共和国へ飛ぶが……。

スタッフ

監督:羽住英一郎
原作:逢坂剛「百舌」シリーズ(「百舌の叫ぶ夜」ほか)(集英社文庫)
脚本:仁志光佑
音楽:菅野祐悟

キャスト

倉木尚武:西島秀俊
大杉良太:香川照之
明星美希:真木よう子
新谷和彦:池松壮亮
鳴宮啓介:伊藤淳史
大杉めぐみ:杉咲花
村西悟:阿部力
高柳隆市:伊勢谷友介
権藤剛:松坂桃李
東和夫:長谷川博己
津城俊輔:小日向文世
ダルマ:ビートたけし

西島秀俊(ニシジマヒデトシ)

1971年3月29日、東京都生まれ。1994年に「居酒屋ゆうれい」で映画初出演。1999年には黒沢清の「ニンゲン合格」で役所広司らと共演し、第9回日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞を受賞する。その後も北野武の「Dolls(ドールズ)」、萩生田宏治の「帰郷」、伊勢谷友介の監督第2作「セイジ–陸の魚-」などに出演。イラン出身のアミール・ナデリがメガホンを取った「CUT」では売れない映画監督を演じ、国際的にも知名度を上げる。2012年、「MOZU」シリーズと同じスタッフによるドラマ「ダブルフェイス」に出演した。2016年には黒沢清の新作「クリーピー」、ビートたけしとの共演作「女が眠る時」の公開を控える。

ビートたけし

1947年1月18日、東京都生まれ。ビートきよしとともに漫才コンビ・ツービートを結成し、1980年代初頭の漫才ブームを牽引する。その後もタレントとして数多くのレギュラー番組を持つ一方、大島渚の「戦場のメリークリスマス」、降旗康男の「夜叉」などに出演。1989年には本名の北野武名義のもと「その男、凶暴につき」で映画監督デビューを果たし、長編監督作7本目の「HANA-BI」では第54回ヴェネツィア国際映画祭にて金獅子賞を受賞した。その後も、西島秀俊と菅野美穂を主演に迎えた「Dolls(ドールズ)」、第60回ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞を受賞した「座頭市」と精力的に作品を発表し、俳優としても「バトル・ロワイアル」「血と骨」などに出演。2016年には西島との共演作「女が眠る時」が公開される。

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