「ミスミソウ」山田杏奈×清水尋也×大谷凜香×内藤瑛亮 キャスト & 監督 座談会 / 押切蓮介 インタビュー|雪景色と鮮血のコントラスト…トラウマ復讐劇が実写化

押切蓮介 インタビュー
押切蓮介

やっぱり実写化はうれしい

──試写をご覧になった際、大絶賛の感想をツイートされていましたね(参照:押切蓮介のツイート)。

褒めるところしか見当たりませんでしたからね。だから本当は僕、映画側にあまり出しゃばりたくないんです。こんな不吉なマンガ家は出てこないほうがいいでしょう?

──大勢のファンが押切作品の実写映画を楽しみにしていますよ!

そうですかね……。でもこれまでにも実写化の話は何度もありましたが、ひどい案件ばかりで勘弁してくださいと断ってきて(笑)。「ミスミソウ」に関しては内藤(瑛亮)監督だと聞いて安心してお願いしました。「先生を流産させる会」や「パズル」を観たことがあって、この監督にならお任せしたいと思ったので。

──いざ自身の作品が初めて実写化されるとなると、やはりうれしかったですか?

押切蓮介

「映画化どうですか?」って聞かれると、わくわくして色めき立つものなんですよ。だって自分の描いたマンガが映像になるって、こんなありがたいお話ないですから。でも期待しすぎると、ポシャったときのショックがでかい。だから期待しすぎない感じで「あ、そうなんですか」みたいに冷静にしようと心がけて。でも興味なさそうに余裕ぶりながら、内心は「もしかしたら! もしかしたら!」と淡い期待でいっぱいだったので、やっぱりうれしいですね(笑)。

映画を観て喜び半分、悔しさ半分

──その中で「ミスミソウ」が選ばれたことについては?

自分では「ミスミソウ」が一番(実写化に)近いと思っていたので。「実写化不可能」なんて触れ込みもありましたが、完成した映画を観たら不自然さもないし、こんな感じになるよねという安心感がありました。自分はギャグ作家だったんですよ、ずーっと。でもそれだけじゃないんですと意地を張ったつもりで描いたのが「ミスミソウ」。若者の群像劇であって、わりかしテーマも重い。自分にとっては少し背伸びした作品で。残虐描写だけじゃない、何か感じるものがあればいいなと思って、映画的な発想で生まれた作品だったんです。

原作「ミスミソウ 完全版」(双葉社刊)より。©押切蓮介/双葉社

──確かに心理描写や画の見せ方など実写向きの題材でした。それに、映画はかなり原作に忠実に作られていましたね。

妹が丸焦げになるのもちゃんと描いてくれましたし。原作へのリスペクトがひしひしと伝わってきたので、そこは非常にありがたいなと。でも映画を観て、原作よりいいものができたと感じました。演出なり、構成なり、脚本なり……悔しさすら覚えます。僕はもともと映画を撮りたいと思っていた人間だから。自分が叶えられなかったことを内藤監督が成し遂げてくれて、喜び半分、悔しさ半分といったところです。

──これぞ実写ならではという点で印象に残ったシーンはありましたか?

いろいろありましたが小さい部分で言うと、いじめっ子たちの個々の描写でしょうか。徒党を組むとみんな強がるんですけど、1人ひとりになるとか弱い男の子と女の子たちなんです。その子たちの不安な気持ちや罪の意識が……女の子2人が手をつないで帰る姿だったり。ああいう描写が僕の中では印象に残りました。

常夏を舞台にすればよかった

──撮影現場も見学に行かれたそうですね? そのときのお話もお聞かせください。

2回ほど行きましたが、もう大変でしたよ。大雪の中、軽井沢からさらに1時間ぐらいかかる山奥で。ようやく着いたと思ったらさらに歩く。すると遠くのほうから変な鳥の声が聞こえてくるんですよ。聞いたことのない、ヒヤーッ!みたいな鳴き声が。なんの声だろうと思っていたら、演者の悲鳴だったんです。それがわかったとき、この映画はヤバいと確信して期待値が跳ね上がりました。それにしても役者さんたちが雪の上を転げ回りながら演じている姿を見て、ああ僕はどうして冬を舞台にしてしまったんだろうと後悔が。常夏にしておけば皆さんこんな苦労しなくてよかったのに……。

「ミスミソウ」

──(笑)。でもあの雪景色があるからこその「ミスミソウ」ですよね。

僕はぬくぬくと修正液で雪を描いていただけなので……。でもやっぱり映画では画面に映る色もよかった。登場人物の服も、マンガでは白やクリーム色で雪と同じような色だったんです。それは血を目立たせるためだったんですが。ただスクリーンの中で主人公が赤い服を着ていると引き立ちますよね。白、赤、黒ってわかりやすく気持ちのいい配色でした。

これこそまさに映画に対する素敵なプロモーション

──どこを取っても賛辞しか出てきません。

「ミスミソウ」

僕は本当に、大きな声で「原作者です!」と言いたくないんです。僕はただきっかけを与えただけというか。もう「ミスミソウ」をあげた気持ちでいるんですよ。「僕の息子を大きく育ててあげてください」と渡したら、想像の何倍も大きくなって帰ってきて。だから映画は映画を作った方たちのもの。僕は、いち観客として楽しませてもらいました!って気持ちをいかに伝えるかということだけです。

──なるほど。

用意してきたメモを読み上げる押切蓮介。

今回たくさん取材を受けるにあたって、質問とそれに対する答えを事前に考えてきたんです。(びっしりと文字が書かれた用紙をめくりながら)このコメントを使ってもらってもいいですか? 「これから映画を観る方へのメッセージ」なんですけど。

──はい、お願いします!

では読みます。

観るには覚悟がいるかもしれません。でもこの作品を観たことで世間的に人間としてのステータスが上がるのではないかと思います。まず、この映画を巨大スクリーンで観る勇気。怖くて観に行けず震えている人がきっといます。怖い、気持ち悪い、吐くかもしれない。そういう人たちから、観た人は「どうだった?」と熱いまなざしで見られること間違いない。死のジェットコースターに臆することなく「乗ってやったぜ!」と胸を張れる。観に行けない人も、心の隅に「ミスミソウ」という映画が根強く存在しているはず。そんなときは勇気を出して観に行きましょう。残酷描写で吐くのではないかと心配している方々もいると思いますが、絶対に大丈夫です。映画に出てくる美しい演出や雪の表現、何より美しいキャストの方々の存在で、むしろ感動するのではないでしょうか。花を見て吐きますか? 絶対に大丈夫です(笑)。

以上です。

──ちゃんと「(笑)」まで書いていますね!

花を見て吐く人なんていないでしょう。いい例えだと思うけどなあ。これこそまさに「ミスミソウ」の映画に対する素敵なプロモーションだと思うんですが、どうでしょう?

top
「ミスミソウ」
2018年4月7日(土)公開
「ミスミソウ」
ストーリー

東京から田舎に転校してきた野咲春花は、部外者として扱われ、壮絶ないじめを受けていた。唯一の味方は、同じように転校してきたクラスメイトの相場晄。彼の存在を心の支えに、必死に耐えてきた春花だったが、クラスの女王的存在・小黒妙子の取り巻きによる嫌がらせは日に日にエスカレートしていく。そんなある日、春花の家が火事に遭う。春花の妹・祥子は大やけどを負いながらも助かったが、両親は命を落としてしまった。やがて事件の真相を知った春花は、いじめっ子たちへの陰惨な復讐を開始する。

スタッフ

監督:内藤瑛亮
脚本:唯野未歩子
原作:押切蓮介「ミスミソウ 完全版」(双葉社刊)
主題歌:タテタカコ「道程」(バップ)

キャスト

野咲春花:山田杏奈
相場晄:清水尋也
小黒妙子:大谷凜香
南京子:森田亜紀
佐山流美:大塚れな

※R15+指定作品

押切蓮介(オシキリレンスケ)
1979年9月19日生まれ、神奈川県川崎市出身。1998年に、ヤングマガジンにて「マサシ!!うしろだ!!」でデビューし、「でろでろ」などホラーギャグの分野で人気を博す。主な作品に「ゆうやみ特攻隊」「椿鬼」「ピコピコ少年」「焔の眼」など。現在は月刊ビッグガンガンで「ハイスコアガール」、モーニングで「狭い世界のアイデンティティー」、漫画アクションで「ぎゃんぷりん」、Ohta Web Comicで「ピコピコ少年EX」を連載。忌木一郎「妖怪マッサージ」の原作も担当する。