映画「マトリックス レザレクションズ」|「マトリックス」の世界とマイファスHiroの感性がミックス 日本版インスパイアソング「PARADOX」誕生に迫る 映画ライター・よしひろまさみちによるレビューも!

「マトリックス」シリーズ待望の新作「マトリックス レザレクションズ」が12月17日に公開された。

ネオ役のキアヌ・リーヴス、トリニティー役のキャリー=アン・モスらが続投し、過去3作も手がけたラナ・ウォシャウスキーが監督を務める本作。物語の詳細はベールに包まれていたが、いよいよ白日のもとにさらされる。

映画ナタリーでは特集第2弾として、日本版インスパイアソング「PARADOX」を制作したMY FIRST STORYのHiroにインタビュー。「マトリックス」の世界に自分の感性を組み込んだという楽曲制作をはじめ、シリーズとの出会い、新作の魅力について語ってもらった。なおインタビューの前には、映画ライター・よしひろまさみちによるレビューも掲載!

取材・文 / よしひろまさみち撮影 / 草場雄介

映画ライターよしひろまさみちが「マトリックス レザレクションズ」をレビュー

革新的VFX技術と香港映画で培われたアクション技法で、映像表現を格段にステップアップさせたアクション超大作「マトリックス」トリロジー。娯楽作のルックでありながら、宗教や哲学、心理学、ゲーム理論、陰謀論など、ありとあらゆる学問の要素を直接的、または間接的に盛り込んでいたことから熱狂的なファンを生み出した。だが、大ファンでも作品を完全に理解するのには時間を要し、何度観直しても新たな発見があった人が多いだろう。最新作「マトリックス レザレクションズ」は、旧トリロジーで描ききれなかったこと、わかりにくかったことを補完する意味で、今作られてしかるべき作品だ。

「マトリックス レザレクションズ」

まず、世界線に驚かされるだろう。白ウサギのタトゥーの入ったバッグス率いる現実世界のレジスタンスチームが、仮想世界内でエージェントたちと戦う冒頭。エージェントの1人が、伝説の救世主ネオを崇拝するバッグスと対峙し、モーフィアスとして覚醒する。場面は変わり、ディスプレイに向かうトーマス・アンダーソン。その視線の先にはゲーム!?

旧トリロジーで描かれたマシンシティと現実世界の和平はどうなった? また、マトリックスが過去に仮想世界で大流行したゲームになっているのはなぜ? そして、その不具合を見つけた超有名ゲームデザイナーのトーマス・アンダーソンは、本当にネオなのか?

相変わらず難解。でも、この作品の大テーマが何か。そこにフォーカスして観ることで、よりわかりやすくなるはずだ。旧トリロジーをざっくり言えば、「自分があるべき姿に目覚め、自由意志のもとに選択し、コミュニティ外との共生の道を見出す」。すなわち、マイノリティとマジョリティが対立せずに生きるために必要なものは何か、ということを描いていた。実は本作でもそのテーマは貫かれている。ただ、旧トリロジーが作られた時代と比べると、少しだけ価値観がアップデートした現代に作られた本作。ましてや、監督自身がネオのように自身のあるべき姿に気付き、選択し、手に入れたあとの新作だ。前トリロジーがその後の世界を予見したかのように、本作も我々の精神性の先々を見据えた物語になっている、と考え、鑑賞してもらいたい。

「マトリックス レザレクションズ」
キャラクター紹介
ネオ / トーマス・アンダーソン(キアヌ・リーヴス)
ネオ / トーマス・アンダーソン(キアヌ・リーヴス)
1作目「マトリックス」では、大手企業に勤めるプログラマーでありながら、凄腕ハッカーとして暗躍していたトーマス。マトリックスから救出された救世主として、今作でも“進むか留まるか”の選択を迫られる。セラピーに通いながら青いピルを服用しており、日常生活の中で徐々に“何か”に気付き始める。
トリニティー / ティファニー(キャリー=アン・モス)
トリニティー / ティファニー(キャリー=アン・モス)
ヒロインとして知られるトリニティーは、主婦のティファニーとして登場。これまでのシリーズではネオと愛し合う関係だったが、本作で2人は初対面のよう。しかし握手を交わした瞬間、思わずネオに「前に会った?」と語りかける。
モーフィアス(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン二世)
モーフィアス(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン二世)
ローレンス・フィッシュバーンが演じてきたモーフィアスに、「アクアマン」「キャンディマン」のヤーヤ・アブドゥル=マティーン二世が扮した。ネオを導きながらも自分自身の存在意義を見定め、使命をまっとうしようとする。
スミス(ジョナサン・グロフ)
スミス(ジョナサン・グロフ)
これまでのシリーズでネオの前に幾度となく立ちはだかってきたエージェント・スミス。本作では、愛嬌と商才を兼ね備えたビジネスマンタイプのスミスとして登場する。
バッグス(ジェシカ・ヘンウィック)
バッグス(ジェシカ・ヘンウィック)
伝説の救世主ネオを崇拝する新キャラクター。腕に白ウサギのタトゥーが入っており、「真実を知りたければ付いて来て」とネオをモーフィアスのもとへ連れて行く。
アナリスト(ニール・パトリック・ハリス)
アナリスト(ニール・パトリック・ハリス)
青い眼鏡を掛けた心理カウンセラーの新キャラクター。ネオに青いピルを処方しており、部屋では黒猫を飼っている。
MY FIRST STORY Hiro インタビュー

アクションをまねしていた小学生時代

──「マトリックス」シリーズはもともとお好きだったそうですが、最初にご覧になったのはいつ頃だったか覚えていらっしゃいます?

Hiro

「マトリックス」第1弾を観たのは、小学校3~4年生の頃。「金曜ロードショー」で放映されたのを自宅で観たのが最初だと思います。そのときはまったく内容を理解できず、めちゃくちゃ面白いアクション映画という見方でハマりました。特に、モーフィアスとネオが仮想世界の中で、道着を着てトレーニングシミュレーションしているところや、ネオが反り返って銃弾を避けているところは興奮しましたね。銃弾の弾道を表現するカットなんて、まったく観たことがない映像だったので、強く印象に残っています。最新作「マトリックス レザレクションズ」のインスパイアソングのオファーをいただいて、改めて3部作を観直しましたが、当時ではまったく気付けなかったことがたくさんあって、大人になって観るとめちゃくちゃ深いなと思いました。

──子供じゃ理解は……。

できないですよね!(笑) 放送翌日の土曜日に、学校の同級生とアクションシーンのことについて大盛り上がりしましたね。何かを投げて避けるアクションをまねして(笑)。しかも、その瞬間だけで終わらない映画だったんですよね。しばらくその遊びは流行ってましたから。本当にいい思い出です。だから、記憶に色濃く残っているんだと思います。

──思い出深い作品に関わるのは想定していなかったことですよね?

まったく想定していなかったですし、なぜ僕らが?という思いが強かったですね。だって、テレビで観て楽しんだ作品に関わるなんて、普通は考えないじゃないですか。そんな映画に自分が関わるとなると「何をしたらいいんだろう」って頭がバグりましたね。だから、実は曲が完成したときはもちろん、今でもまだ実感できてないんですよ。

──映画が公開されたら実感できそうですか?

できるかな? このインタビューを受けているのも、おこがましいですもん。なんで僕が偉そうに「マトリックス」を語っているんだ?と思ってしまう……。

「マトリックス」の世界観と自分の感性をミックス

──いやいや、そんなご謙遜を。さて、「PARADOX」ですが、曲作りのプレッシャーは?

Hiro

最初はどうしていいのかわかりませんでした。僕としては3部作で完結していたから、新作に対して何かを作る、と考えるのは難しいことで。それに3部作に対しては、観客の1人として「こういうことなんだろうな」という解釈があったし、それを崩したくなかった。それを全部言語化するのも抵抗があったんです。でも、そう考えたときに、むしろ楽曲はすべて自由にできると思い直しました。「マトリックス」のための楽曲だけど、その世界観に自分の感性を入れていいってことですから。

──作品のために曲を書き下ろす作業は、苦じゃないんですか?

僕は全然苦じゃないです。むしろテーマがあったほうがありがたい。特に「マトリックス」のような作品だと、インスピレーションが湧きやすいですよね。「白いウサギ」とか、赤か青の薬とか、セリフや表現の中に詩的な表現が多いので、それをうまく使えます。だから2回観て、1回目は純粋に楽しみ、2回目はセリフや表現をチェックしながら、気になったところでパッと止めてメモって。印象に残っているのが、「高いシルクでケツを拭くような感覚」っていうセリフ。これを聞いたときに「なんにでも使えるじゃん、この比喩表現!」と思いました。こういうセリフの表現を利用することで、直接的じゃなくても「マトリックス」の世界観を崩さずに曲を作ることができたんじゃないかと思います。

──「PARADOX」について、「今までの僕らの楽曲とはちょっと違った感じになっていると僕は思っている」とコメントされていたのを拝見したんですが、どこが違いますか?

音楽的なことで言うと、僕らのこれまでの楽曲は、音数がかなり多いんです。ギターやボーカルを重ねてみたり、トラック数を多めにしていたんですけど、「PARADOX」はそぎ落として少なくしました。あと、バンド感をちょっと減らしてみた。それは、「マトリックス」という大テーマがちゃんと柱としてあったから。例えば、Bメロで無理にフレーズを入れるとかテクニック的なところではなく完成度を高めようとしたんです。今までとは作り方も違いましたし、意識していたものがそもそも違うのかな。今までの僕らの楽曲と比べてみると、ちょっと大人になっておしゃれさが増している感じがします。僕は、この楽曲が、マイファス(MY FIRST STORY)で今できるギリギリのラインと思っています。

「マトリックス レザレクションズ」

──テイストの違うものに挑戦したことで、バンドが成長した?

きっかけになる作品だと思います。これ以上音数を減らしちゃうと、ソロっぽくなっちゃいますし、今までのマイファスがやってきたことも引き継ぎつつ、新しいことに挑戦するというギリギリのところを攻めたつもりです。

──自分のアルバムでやろうと思ってもこれは浮かばない?

そうです。よい機会を与えてもらったと思います。「マトリックス レザレクションズ」に背中を押してもらった気分です。すごくありがたいですね。

「レザレクションズ」は常に新しいことに挑戦してきた「マトリックス」シリーズらしい

──3部作を観直して、どう感じました?

大人の目で観ると変わりますよね。以前は、傑作アクション映画という認識だったから、「あれ、こんな話だっけ?」と思いました。人がみんな1回は考える「もしこんな世界があったら」という話を体現している映画だったし、当時の最新VFX技術で人の妄想を映像化したばかりではなく、メッセージ性もあった。キャラクターそれぞれの立場の気持ちがわかるようになったのも発見でした。トリニティーやネオだけじゃなく、ザイオンにいる人たちの気持ちもわかるし、ザイオンの情報を売った男の気持ちもわかる。大人になって観ると「こんなに深かったんだ」と思いましたし、すごく新しい映画を観ているような感覚でした。

──「マトリックス レザレクションズ」をご覧になっての正直な感想も教えてください。

僕のこの感覚が合っているのかどうかもわからないくらい難しくて……。たぶん、1回観ただけじゃ全部は絶対に理解できないと思う。僕からすると、3部作はセットで完結するものを3つに分割した作品。今回は別個で作っている感じがしました。それに、表現が今風にアップデートされましたよね。「ラプンツェルの塔みたいだ」とか。今の言葉を使っている新しさがあります。

「マトリックス レザレクションズ」

──想像とは違った?

そもそも想像が付かなかったんです。シリーズもののあるあるだと思うんですけど、新作でキャストやキャラクターがどうなってるか、とかは、お客さん側が勝手に構えて観ちゃうじゃないですか。僕もそうだったんですが、結果的にはいい感じに全部マッシュアップされていた。モーフィアスも別のものとしてすごく完成されていましたし。あれだけ完成された3部作の続きを作るとなると、まったく新しいスタートを作らないといけない、っていうのは納得です。そこも、常に新しいことに挑戦してきた「マトリックス」シリーズらしいな、と思います。

Hiro
MY FIRST STORY(マイファーストストーリー)
2011年夏、東京・渋谷で結成されたロックバンド。2012年4月に1stフルアルバム「MY FIRST STORY」でデビュー。確かな楽曲、ライブパフォーマンスが話題を呼び、全国の大型フェス出演や海外アーティストとの共演を果たした。2016年の最終公演は東京・日本武道館にて開催し、1万2000人を動員。チケットはソールドアウトとなり、その後も数々のアリーナで公演を成功させた。コロナ禍以降、開催できていなかったアリーナ公演を2022年2月10日に日本武道館で行う。