「きみと、波にのれたら」湯浅政明×片寄涼太|自信を持つのは難しい、それでも精一杯やるということ / 湯浅の過去作振り返りも

普通に一生懸命生きている人たちが心の支え(湯浅)

──港にとってひな子は“ヒーロー”であるという部分も、物語の鍵になっています。お二人にとってヒーロー的な存在を挙げるとしたら?

湯浅 表舞台で活躍されている方や、一般的に成功している方をヒーローと見ることもできますが、僕にとっては、普通に一生懸命生きている人たちが心の支えなんです。この人がいるからやっていける、その人のためにがんばってやっていこう、みたいな思いが、この作品を作るきっかけにもなっていますね。ひな子や港みたいな、目立たないけどがんばって生きている人が、気持ちよく生活できる世の中であってほしいと思って作品作りをしています。

片寄涼太

片寄 確かにそうですね。僕がぱっと思いついたのは、両親でした。やっぱり親に教えてもらったことが自分の中の正義になっていると思うので、両親は僕にとって永遠のヒーローですし、尊敬する人です。

湯浅 僕も、さっき言った中に親も入ってます!(笑) なんか、片寄くんがいいこと言ってるから。

片寄 そんなことないですよ!(笑) さっき監督が素敵なことをおっしゃったので、僕もなんて答えたらいいか悩みましたよ。

──片寄さんのお父さんと言えば、先日AbemaTVの「GENERATIONS高校TV」に出演されていましたよね。そこで、本作の音楽を担当されている大島ミチルさんとの意外な関係も明らかになっていて。

片寄涼太

片寄 そうなんですよ! 僕の父親は高校の音楽教師をやっているんですが、去年その学校の特別講師として、大島ミチルさんがよくいらしていたらしくて。

湯浅 僕もその番組、観ました! この映画の予告編を観ていたから、けっこうお薦め動画として片寄くんのムービーが出てくるんですよね(笑)。大島さんのことを聞いて、ちょっとびっくりしましたよ。流し見していたつもりが、「えっ!?」って二度見しちゃった。

片寄 不思議な縁ですよね。父も大島さんとメールのやりとりをして、この作品の話もしてくれたみたいです。

湯浅 すごいですね。そういえばさっき聞いたんですが、作画監督の小島(崇史)くんのお父さんが、消防士だったみたいで。

片寄 ええ! いろんな縁がつながっていますね。

湯浅 早く言ってくれれば、いろいろリサーチしたのに(笑)。でも彼はその知識を生かして描いてくれていると思いますよ。

自信がなくても、やれるだけやらなきゃ(片寄)

──本作は、自分の将来に自信を持てなかったひな子が、さまざまな経験を通して変わっていく姿を描いています。かつて自信がなかった自分を乗り越えた経験があれば教えてください。

湯浅 考えてみたんですけど……自信は、ないと言えば今もないんです。

片寄 僕もそうなんですよね。

「きみと、波にのれたら」

湯浅 でも、普通であることを一生懸命がんばっているという意味で、自分には何もやましいことがありません。この仕事を始めてからしばらくは、本当に向いていないなと思ったり、思うように描けないなと感じていて。周りの人は「いいね」と褒めてくださるんですけど、その言葉も信じられなかったんです。でもあるきっかけで仕事にちょっとした変化が加わったら、逆にこの仕事は天職かもしれないと思えたことがありました。そうしたら今まで「いいね」と褒めてくれた人の言葉を、「本当にいいのかも」と素直に受け止められるようになったんです。自信はないんですけど、やっぱり精一杯やっている人間が悪いはずないと信じたいですよね。

──天職かもしれない、と思えた具体的なきっかけはなんだったのでしょうか?

湯浅 それまでは細かい絵を動かす原画の仕事だったんですが、画面全体を動かす絵コンテの仕事をやってみたら、すごく気持ちよかったんです。細かい動きがうまく描けないことがストレスだったんですけど、全体だったら思った通りに動かせたんですよね。ちょっと方向を変えてみたら、それまで楽しくなかったことが楽しくなった。演出の仕事は向いていないとも言われていましたし、自分でも思いましたが、やっていて楽しかったので、そのまま監督のほうの道を選びました。

片寄涼太

片寄 僕も、監督が「自信がない」とおっしゃったことにすごく共感できます。自信はないけど、自分の責任を認めなければいけないと思えた瞬間があって。初めてGENERATIONSでアリーナツアーをやらせていただいたとき、初日のステージに立って、目の前に1万人の景色が広がっているのを見たら「自分の人生、いよいよえらいことになってきたぞ」と感じたんです。こんなにたくさんの方々が自分たちを観に来てくれるんだと思ったときに、自信とはまた違いますけど、すごく責任感が湧きました。自分のベストを尽くすことが観てくれる方々への誠意なんだ、だから誠意を持ってやり続けなければいけないんだと、そのときに思えました。

──多くのファンの存在を感じて、迷いが吹っ切れたんですね。

片寄 はい。僕はなんでも頭で考えてしまうタイプなんですが、それって表現の世界においてはすごく邪魔なものなんですよね。だから、それこそさっきの監督のお話のように、自分はこういうタイプだから損だな、向いてないかもな、と思っていたことがありました。でもそこから「自分を観てくれる方がこんなにたくさんいるんだったら、やるしかない。自信がなくても、やれるだけやらなきゃ。それが皆さんへの誠意だし、自分の仕事だ」という意識に変わって、自分の中に1本軸ができたんです。それから少しずつですけど、自信みたいなものもついてくるようになってきた気がします。

──演技のお仕事でも、同じように意識が変わった瞬間はありましたか?

片寄 僕にとって「3年A組」は転機でしたね。よく言ってくれる人が多い分、厳しいことを言ってくれる方もたくさんいたんですよ。でもそのときに「あ、やっとここまで来れたんだな」と思って。それまでは褒めてくれる方のほうが断然多かったのですが、それってファンの方々の中で完結してしまっていたということですよね。やっと悪い部分を指摘してくれる人がたくさん出てきて、外の世界に届き始めたという感覚でした。そういう意識にシフトできたという意味で、「3年A組」でより強くなれました。

──厳しい意見も糧にできるくらいに。

片寄 はい。あと昔から負けず嫌いなので、厳しい意見に対して「負けたくない、戦おう」と思うようにしたら、それはそれで楽しかったですね。

少しでも多くの方の背中を押せるよう(片寄)

──対談の最後に、この映画を楽しみにしている方々にメッセージをお願いします。

左から湯浅政明、片寄涼太。

片寄 言葉にすると少し重くなってしまいますが、この映画は人生や命というものを表現していると思います。人生にはいろんな波があるし、この先波に飲まれそうになることがあるかもしれません。でもそんなとき、この作品が心の支えになってほしい。何年後かに観るとまた違う感情になれる映画になっていますし、この作品が少しでも多くの方の背中を押せるよう願っています。

湯浅 アニメ映画ですが、あまりアニメだと構えることなく、素直に観ていただけたらうれしいですね。

片寄 そうですよね。アニメーションですが、すごく人間味のある表現になっていて感動しました。

湯浅 はい。音も絵も、たぶん劇場のスクリーンで観るほうが絶対にいいので、足を運んでいただけたらと思います。