「劇場特別版『カフカの東京絶望日記』」鈴木拡樹|映画化は冒険が過ぎる!?「絶望しすぎてはいけない」と気付くためのお薬

カフカは答えがわからないのが正解

鈴木拡樹
鈴木拡樹

──カフカは感情の波がいきなり変動するキャラクターで、絶望して突然叫び出すシーンも。そのテンションを維持するのも大変なのではと思いました。

興奮状態のシーンを撮れば撮るほど酸欠になっていくから、テンションを保つのは大変でした。途中で「あれ……なんだったっけ?」となる場面もよくあったなあ。でもこの作品はいつも絶望シーンを目指して撮っていくので、逆に言うとそれ以外はほぼ感情がなくて、リアクションも最小限なんです。その分、絶望シーンに懸ける思いは強かったですね。

──そんなカフカの絶望が、劇中では人々に少しだけ希望を与えます。カフカは世渡りがうまいとは言いがたいものの、周囲の人にけっこう愛されている人物だなと感じました。鈴木さんは、カフカが愛される理由はどこにあると思いますか?

僕が演じているほうのカフカは、その答えがわからないのが正解なのかなと思っています。「なぜこの人は愛されているんだろう?」という存在であっていい。実際のカフカさんは、人とコミュニケーションをすごくうまく取れるほうではなかったようですが、人当たりがよくて愛されたそうなんです。この作品で描かれるカフカは極端な人物ではありますが、1つひとつの行動が愛情深いという点は実際のカフカさんと共通しているように感じます。ただ、僕が演じたカフカは細かすぎますよね。僕もほかの人に比べて気になることは多いタイプではありますが、「ここまで行くとこういう人生になるんだな。あまり深く考えないようにしよう」という学びを得ました(笑)。

「海外ロケに行きたいよね」

──劇場特別版の中で、一番お気に入りのエピソードをあえて決めるとしたら、どれを選びますか?

とても現代的だという意味では“承認欲求”のエピソードかな。現代の東京を違う角度から見ると、こんな絶望があるんだと楽しめた回でした。自分がSNSに投稿したものに対してほかの人からリアクションがあると、1人でいる空間でも1人じゃなく感じるというのは理解できます。それに、承認欲求があまりに強いと自分の方向性がどんどん変わってきてしまうという指摘にも納得しました。とってもよくできたお話だなと思いますね。

──普段のカフカとは違う顔を見せる“ポジティブカフカ”のエピソードも登場しますね。

鈴木拡樹

この作品だからこそ、ああいうテンションでいられた時間がとても楽しかったです! 指示があったわけではないのに、テンションが上がりすぎてよくわからなくなっているシーンもありました。「ヘイ、マーックス!」みたいな(笑)。監督からは何もツッコまれなかったので、いったんこんな感じで出ちゃったけど……いいんだ!?と思いながら演じていました。

──ドラマ版をすでにご覧になった方は作品の魅力を十分ご存知だと思いますが、このタイミングで新たに「カフカの東京絶望日記」に出会う人もいると思います。そんな人に劇場特別版のよさを伝えるとしたらどうお薦めしますか?

ここ、がんばりどころですね!(笑) どういうふうにお薦めしましょう……。僕は冒険に満ちあふれた発想の作品だと思っています。もがきながらもチーム一丸となって全力で作り上げたので、“映画館で上映”という一番の冒険を見守ってほしいです。自分の日常に当てはまる描写もあると思いますし、「絶望しすぎてはいけない」と気付いてもらえるためのお薬になればいいと考えています。「カフカの東京絶望日記」を処方しますので、皆さんにぜひ服用してみていただきたいです。

鈴木拡樹

──ありがとうございます。では最後に「カフカの東京絶望日記」に新たな展開があるとしたら、挑戦してみたいシチュエーションはありますか?

共演者のみんなとその話をしたら、カフカがどうこうというわけではなく、シンプルに「海外ロケに行きたいよね」と言い出すメンバーがちらほらいました。海外の人だけどそうは見えないカフカが、東京にやって来て生活していて……というややこしい設定なのに、海外へ行ったらもう一段階ややこしくなる(笑)。でも本物のカフカさんが生まれ育ったチェコに行って、ルーツを探す物語を作れたら面白いなと思います。


2020年3月6日更新