「羊の木」吉田大八 / 錦戸亮インタビュー|監督と主演俳優が語る“異物”たちのアンサンブル

錦戸亮インタビュー

──オファーを受けた際の心境は?

お話をいただく1週間くらい前、たまたまタブレットで原作(の電子版)を買っていたんです。全5巻を一気に読み終えて、「強烈なマンガやったなあ」という余韻が残っていたタイミングだったので、脚本を手渡されたときはすごい巡り合わせがあるものだなと驚きました。このお話をいったいどう映像化するんだろう?という好奇心が強かったので、そんな違いを見つけつつ脚本を読むのは楽しかったです。と同時に、原作の持つ世界観の魅力はそのまま受け継がれてるんだなとも感じました。まず設定自体がドキドキするじゃないですか! 現実にはありえない話なのに、そこから生まれるドラマには不思議とリアルな手触りがあるし。そういう物語の中でひたすら振り回される役を演じるのは刺激的だと思いました。

「羊の木」

──月末という人物をどのように捉えて演じましたか?

強烈すぎるキャラクターがそろった物語の中で、月末はほぼ唯一の“普通の人”。基本はまっすぐないいヤツで、仕事への熱意も持っている。でも自分のために小さな嘘をついちゃう瞬間もあったりして……。ある意味、観客の目線に一番近くて、感情移入もしやすいキャラじゃないかな。いわゆる役作り的なことはほとんど考えませんでした。共演者の方々のお芝居や吉田監督の演出に対して常に敏感でいたかったので。例えば映画の冒頭で、月末が6人の元受刑者たちを順番に迎えに行くでしょう。そこで同じやり取りを何度も繰り返すんですけど、話す相手が変われば、当然リアクションも変わってくる。そういう微妙な表情が大事だと思ったので、なるべくフラットな状態でその場の流れに身を委ねるようにしていました。

──吉田監督の演出で印象に残っていることは?

白か黒かじゃなくて、グレーの領域を大事にされている監督さんなのかなと、個人的には感じました。例えば笑顔のお芝居にしても、「もう気持ち楽しげに」とか「ちょっとだけ抑えめで」という感じで、グレーの濃度を細かく説明してくださる。役者の“意図”みたいなもののもう1つ先にある、微妙な表情を狙っていることが伝わってくるんです。同じシーンでテイクを重ねることも多かったんですけれど、1つひとつ納得できるというか……。僕なりに一生懸命、手の平で転がされたつもりです。全幅の信頼を置いていましたし、納得いかないまま言ったセリフは1つもありません。

──元受刑者を演じた方々との共演はいかがでしたか?

現場は基本的に穏やかでしたが、いざ共演者の方々と向き合うと独特の緊張感があって。スリリングな現場でした。(松田)龍平くんとの初共演もすごくうれしかったですし、新鮮でしたね。龍平くんのセリフって、変な味付けがほとんどないじゃないですか。どのシーンでも淡々と普通にしゃべっているだけに見えるのに、いろんな感情がにじんでくる。僕がまねしても単なる棒読みにしかならないと思うんですが、それですべてを成立させてしまえるのが本当にすごい。うらやましいというか、撮影中はずっと「ずるいなあ」と思ってました(笑)。ロケ先の富山では、一緒に飲みに行ったりもしたんですよ。北村(一輝)さんが誘ってくれたんですが、3人で酔っ払っていろんなお話をさせていただいて……。本当にぜいたくな“富山ナイト”でした。

──松田さん扮するどこかイノセントで謎めいた元殺人犯の宮腰と月末の関係性が物語の重要な軸になっていました。

僕自身、あんなふうに真っ正面から「それは市役所の職員として言ってるの? それとも友達として?」と聞かれたら、言葉に詰まってその場しのぎのことを言っちゃうかもしれない。月末は「とりあえず“友達”と言っておけば大丈夫だろう」というずるい気持ちがあったでしょうし、一方でどこか宮腰に惹かれ、友達として受け入れていた部分もあったと思う。そういう痛いところを突かれる感じって、たぶん誰の日常にもあると思うんです。過去に殺人を犯してなくても、自分とは相容れない価値観や経験を持っている人は世の中にたくさんいるわけじゃないですか。そういう隣人とどう接するかというのは、実はリアルな話ですよね。でも突き詰めて考えてみると、最後には「一緒にいたいか、いたくないか」というシンプルな話になってくる気もする。そういうグレーなせめぎ合いをえぐっているから、この映画は面白いんだと思うんです。

「羊の木」

──最後に、これから映画を観る方へメッセージをお願いします。

ミステリーやサスペンスの要素もたっぷり入った作品なので、2時間シンプルにハラハラしていただけたらうれしいです。そのあとに残る感情をどう消化していくかは、観てくださった方それぞれでしょうし。人によってさまざまな捉え方ができる、奥行きの深い映画なんじゃないかなと。これから日本では、魚深市のような町が現実に増えていくかもしれません。正解がわからないまま誰かを信じ、裏切られ、それでも折り合いを付けなきゃいけない状況も、もしかしたら出てくるかもしれない。「もし自分だったとしたら……」と、観る方の心をノックしてくれる映画になっていると思います。

キャラクター紹介

市民
  • 月末一(錦戸亮)

    月末一 錦戸亮

    元受刑者の受け入れ担当となった市役所職員。バンド仲間の文に思いを寄せる。何かと宮腰を気にかける。

  • 石田文 木村文乃

    魚深に帰郷した月末の同級生。宮腰にギターを教える。

    石田文(木村文乃)
元受刑者
  • 宮腰一郎 松田龍平

    宮腰一郎(松田龍平)

    傷害致死(懲役1年6カ月)

    無邪気で好奇心旺盛な宅配業者。

  • 杉山勝志 北村一輝

    杉山勝志(北村一輝)

    傷害致死(懲役8年)

    傲慢ですぐ人に絡む釣り船屋。

  • 太田理江子 優香

    太田理江子(優香)

    殺人(懲役7年)

    色っぽく、どこか隙のある介護士。

  • 栗本清美 市川実日子

    栗本清美(市川実日子)

    殺人(懲役6年)

    人見知りで几帳面すぎる清掃員。

  • 福元宏喜 水澤紳吾

    福元宏喜(水澤紳吾)

    殺人(懲役7年)

    おとなしく気弱な理髪師。

  • 大野克美 田中泯

    大野克美(田中泯)

    殺人(懲役18年)

    強面で寡黙なクリーニング店員。

「羊の木」
2018年2月3日(土)公開
「羊の木」
ストーリー

地方の寂れた港町・魚深市に、見知らぬ男女6人が移住してくる。何かがおかしい移住者たち。実は彼らは過疎問題解決に向けた国家の極秘プロジェクトのもと、自治体によって受け入れられた元受刑者たちだった。彼らの経歴は一般市民に明かされなかったが、受け入れを担当することになった市役所職員・月末は、6人全員に殺人歴があることを知ってしまう。そんな中、港で不可思議な殺人事件が起きたことをきっかけに、町の日常が少しずつ狂い始める。

スタッフ / キャスト
  • 監督:吉田大八
  • 原作:山上たつひこ、いがらしみきお「羊の木」(講談社イブニングKC刊)
  • 脚本:香川まさひと
  • 音楽:山口龍夫
  • 出演:錦戸亮、木村文乃、北村一輝、優香、市川実日子、水澤紳吾、田中泯、松田龍平ほか

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錦戸亮(ニシキドリョウ)
1984年11月3日生まれ、大阪府出身。第7回日刊スポーツ・ドラマグランプリの新人賞を受賞したNHK連続テレビ小説「てるてる家族」や、「ラストフレンズ」など多くのドラマに出演し、2010年に「ちょんまげぷりん」で映画初出演にして初主演を果たす。そのほかの映画出演作に「エイトレンジャー」シリーズ、「県庁おもてなし課」「抱きしめたい-真実の物語-」などがある。NHK大河ドラマ「西郷どん」に出演中。関ジャニ∞のメンバーとして音楽活動も行っている。