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「羊の木」吉田大八 / 錦戸亮インタビュー|監督と主演俳優が語る“異物”たちのアンサンブル

「桐島、部活やめるってよ」「紙の月」の吉田大八が監督を務めた「羊の木」が2月3日に封切られる。原作は、2014年文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞した山上たつひこ原作・いがらしみきお作画による同名コミック。地方の港町を舞台に、殺人歴のある元受刑者たちの移住を受け入れたことで町の日常がゆがんでいくさまをあぶり出す。

映画ナタリーでは公開を記念して、大胆な脚色で作品を大きく生まれ変わらせた吉田、強烈な登場人物たちの中で唯一“普通の人”である主人公・月末一(つきすえはじめ)を演じた錦戸亮のインタビューを2本立てでお届け。「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」から「美しい星」まで、吉田のフィルモグラフィをたどりながら本作の魅力を紐解く。

取材・文 / 大谷隆之 撮影 / 入江達也

吉田大八インタビュー

作品全体を覆う不穏さに惹かれた

──「羊の木」の原作は、イブニングで2011年から2014年まで連載されました。この長編コミックをなぜ映画にしようと思われたのですか?

吉田大八

最初はプロデューサーに提案されたんです。2012年だったかな。まだ物語が完結する前段階で。単行本の1巻を読んで、やってみたいなと思った。

──どういう部分に惹かれたのでしょう?

作品全体を覆う不穏さというか、世界観ですよね。寂れた海辺の地方都市に、仮釈放された重犯罪者が大量に移住してくる。過疎対策の極秘プロジェクトで、限られた担当者以外、地域の住民は誰もその事実を知らない……。この出だしだけで、すでに面白そうじゃないですか。

──確かに(笑)。

もちろんフィクションだけど、ディテールに奇妙な迫力があってね。読んでいると次第に、「日本のどこかの町でこういう実験が進んでいてもおかしくないかも」という気がしてくる。そのバランスがユニークだと感じました。それと、この設定って実はいろんなものに置き換え得るかも、と思ったんです。

──どういうことでしょう?

ここで描かれているのは、要は「殺人という究極の罪を犯した者たちと、人は共生できるのか?」という命題なわけですね。登場人物の中には常に「罪を償った人たちを色眼鏡で見ちゃいけない」という理性と、「でもやっぱり怖い」という皮膚感覚が両方あって。2つのせめぎ合いがドラマを紡いでいく。これと似た葛藤は、誰でも経験し得ると思うんですよ。元受刑者というのは極端な例だとしても。

「羊の木」

──なるほど。

例えば、今後さらに少子化が進めば、日本も本格的な移民受け入れを選択するかもしれない。そうなると言葉や文化が違う人たちといかに暮らしていくかがもっと切実な課題になってきます。元殺人犯という社会にとって“究極の異物”と、彼らを受け入れる側の葛藤を描くことを通じて、アクチュアルな問題に近付けるんじゃないかと。それもモチベーションの1つです。あとはなんといっても、作者として並んだお二人の名前のインパクトが大きかったかな(笑)。

「理屈抜きでワクワクする感じ」が大事

──原作は「がきデカ」の山上たつひこ先生、作画が「ネ暗トピア」「ぼのぼの」のいがらしみきお先生。ギャグマンガ史に輝くレジェンドの共作です。

そう。僕自身、小学校のとき「がきデカ」に熱狂して。そこから「喜劇新思想大系」など山上先生の過去作もさかのぼって読みましたし。中学時代はいがらし先生の不条理4コマにも衝撃を受けた世代なので。この組み合わせはある意味、信じられない豪華タッグというか……最初に聞いたときは単純にびっくりしたんです。そんな話題作が映画になると聞いたら、少なくとも知ってる人は気になるでしょう? 僕が監督する、しないは別として。

──そうかもしれませんね(笑)。

映画の企画を考えるとき、そういう「理屈抜きでワクワクする感じ」はわりと大事にしたいんですね。原作への思い入れとかテーマよりむしろ、1人の映画ファンとしてニュースを聞いたとき「それはちょっと観てみたいな」と体温が上がるかどうか。

「羊の木」

──宣伝の常套句として「原作に惚れ込んで」みたいな言い方がありますよね。でも吉田監督の場合は、必ずしもそれだけではないと。

そうですね。原作ものの場合、オリジナルの完成度が高かったり個人的愛着が強すぎたりすると、逆に手を付けづらい。どうしても、もとの印象を壊したくない心理も働きますしね。むしろ映画化にあたって、自分の関わる余地が残されているかどうかを真剣に考えます。

──その「自分が関わる余地」とは、具体的にどういう部分でしょう?

大きくは脚本じゃないかな。あとはキャスティング。その2点で、小説やマンガから実写の映画に向けて、ある導線を引くわけですよね。その時点でなんらかのワクワクというか、跳躍を作れるかどうかが重要で……。仮にその導線が原作をなぞるだけで、すでに見た風景にちょっと遅れてたどり着く見通ししか持てないのだとしたら、わざわざ時間をかけて作る気になれない。

「羊の木」

「腑抜け」から今まで大事にしてきたもの

──映画が立ち上がる際の“ワクワク”と、そこに自分の関わる“余地”があるかどうか。その2つが大事なんですね。「羊の木」は、その2つを兼ね備えていたと。

どっちもありましたね。すごく。

吉田大八

──その2つの要素というのは、長編監督1作目「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」から変わっていないですか?

基本的には同じだと思います。何度か話してることですが、「腑抜け」では本谷有希子さんの原作を読んだ時点で、完成形のイメージがパンと浮かんだんですよ。もとになっている舞台は観ていなくて、純粋に「この小説をどう映画化するか」という視点だったんですけど。先ほどの表現を使うなら、自分の中でジャンプへ至る導線がはっきりイメージできた。

──そのイメージとは、端的にどういうものだったのですか?

なんだろう。ストーリーというよりはヒロイン像かもしれないですね。脚本を書いていた段階では、まだ主演の佐藤江梨子さんは決まってなかったんですけれど、その空気感とかテンションの高さについて「だいたいこれくらいだろう」というのが頭の中で見えていて。小説の主人公が立体的に立ち上がるところが想像できた。それは映画が完成するまで、ほぼブレなかった気がします。今回の「羊の木」もそうですが、そうやって映画の質感を自分なりに捉えた気になることが大事で。極端な話、別に勘違いや思い込みでもいいんですよね。

──面白いですね。せっかくだから過去のフィルモグラフィについて簡単に伺って構わないでしょうか?

ええ、どうぞ(笑)。

「クヒオ」から「野ばら」、そして「桐島」へ

──2作目が2009年の「クヒオ大佐」。脚本は、今回「羊の木」を手がけた香川まさひとさんとの共同執筆ですね(ビデオパスで「クヒオ大佐」を観る)。

「クヒオ大佐」は、自分自身が生粋の日本人なのにアメリカ空軍のパイロットを名乗り、わざと片言の日本語をしゃべっていた実在の結婚詐欺師。企画として思いついた瞬間はガッツポーズでした。吉田和正さんの著書も、ほぼ吉田さんの想像によるところが大きかったので、僕もクヒオ大佐という魅力的な“現象そのもの”を映画の中で自由に扱ってみようと思いました。その意味で、ほかの原作ものとちょっと成り立ちが違っているかもしれません。

吉田大八

──次の3作目が「パーマネント野ばら」。西原理恵子さんのコミックを繊細なタッチで映像化されています。

もともと西原さんのマンガは好きでしたし。何より「パーマネント野ばら」という題名に惹かれました。真面目な話、お客さんにとってはタイトルをパッと見た瞬間の印象や音の響きって重要じゃないですか。自分だったら絶対興味を持つと思ったので(笑)。

──なるほど(笑)。「パーマネント野ばら」の原作はほかの西原作品と同じで、登場人物のセリフはかなりアケスケじゃないですか。

そうですね。

──ただ一方で、吹き出しの外には情感たっぷりなモノローグがあって。その落差が読者を惹き付けます。ところが映画版にはナレーションもなく、主人公の心の声は出てきません。あれは吉田監督のアイデアだったんですか?

打ち合わせのわりと初期段階で、脚本の奥寺(佐渡子)さんと話して。あえてモノローグなしで構成しようということになりました。西原マンガって、心に染みる決めゼリフが多いでしょう。だからあえて誘惑には乗らない、それを一切使わないという縛りを最初に設けてみた。そうすれば、否が応でも考えなきゃいけないことがたくさん出てきますから。逆に映画にとってチャンスも生まれるのかなと。

──制約がモチベーションにつながるパターンもあるんですね。熱狂的ファンを持つ「桐島、部活やめるってよ」は?(ビデオパスで「桐島、部活やめるってよ」を観る

朝井リョウさんの原作では、章ごとに視点となる登場人物が変わるんですね。脚本ではそれを「金曜朝から翌週火曜の夜まで」という日付ごとに切っていく構成に変えた。「そこがよかった」と分析してくださる方も多いんですけど、正直に言って、原作に即したアレンジだと思います……。意識したのはむしろ、クライマックスに向けた全体のペース配分でしたね。

──へええ。

原作小説の中に、神木(隆之介)くんが演じた前田というさえない映画部員と、東出(昌大)くんが演じる宏樹というスポーツマンが出会う瞬間がある。そのシーンに向けて映画を作っていこうと最初に決めたんです。そのために、まず2人が言葉を交わす場所を屋上に設定して……。

──その直前には、クラスで軽めに見られていた映画部員たちがゾンビ映画の撮影を強行する名場面がありますね。いわゆるイケてる、イケてないの構造が鮮やかに逆転するという。

映画部の男子たちが8mmでゾンビ映画を撮っているというのは原作にはない設定で、完全に思い付きです(笑)。自分の中でなんとなく、吹奏楽部の音楽が鳴っているイメージがあったんですね。その演奏をバックに登場人物たちが屋上に集まってきて。そこで何か映画らしい事件を起こせたらいいなと。で、ラストから逆算してストーリーを考えていきました。小説にもマンガにもない、映画だけのカタルシスを作りたいっていうか、そういう山っ気はどうしても捨てられません。

「羊の木」
2018年2月3日(土)公開
「羊の木」
ストーリー

地方の寂れた港町・魚深市に、見知らぬ男女6人が移住してくる。何かがおかしい移住者たち。実は彼らは過疎問題解決に向けた国家の極秘プロジェクトのもと、自治体によって受け入れられた元受刑者たちだった。彼らの経歴は一般市民に明かされなかったが、受け入れを担当することになった市役所職員・月末は、6人全員に殺人歴があることを知ってしまう。そんな中、港で不可思議な殺人事件が起きたことをきっかけに、町の日常が少しずつ狂い始める。

スタッフ / キャスト
  • 監督:吉田大八
  • 原作:山上たつひこ、いがらしみきお「羊の木」(講談社イブニングKC刊)
  • 脚本:香川まさひと
  • 音楽:山口龍夫
  • 出演:錦戸亮、木村文乃、北村一輝、優香、市川実日子、水澤紳吾、田中泯、松田龍平ほか

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吉田大八(ヨシダダイハチ)
1963年生まれ、鹿児島県出身。CMディレクターとして国内外の広告賞を受賞し、2007年に「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」で長編映画監督デビューを飾る。同作は第60回カンヌ国際映画祭の批評家週間部門に招待され、話題となった。その後、「クヒオ大佐」「パーマネント野ばら」を発表。2012年公開「桐島、部活やめるってよ」で第36回日本アカデミー賞最優秀作品賞および最優秀監督賞を獲得し、次作「紙の月」でも第38回日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞した。2017年には三島由紀夫のSF小説を映画化した「美しい星」が公開された。