綾野剛と北川景子が共演した「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」のBlu-ray / DVDが3月24日に発売される。中山七里が安楽死をテーマに執筆した社会派ミステリー小説を原作に、2人は“ドクター・デス”と呼ばれる連続殺人犯を追う刑事を演じた。ソフトの発売を記念した本特集では、映画ライターSYOが同じ2003年に俳優デビューを果たした綾野と北川の魅力に迫る。役者としての共通点、そして2人の“熱”が結実した瞬間とは。
文 / SYO(コラム)
役者として見てきた景色
第一線を走り続ける人気俳優・綾野剛と、北川景子。ともに2021年4月クールで「恋はDeepに」「リコカツ」と主演ドラマが控えるほか、綾野は「ヤクザと家族 The Family」「ホムンクルス」、北川は「ファーストラヴ」「キネマの神様」と出演映画が立て続けに公開。
名実ともに、日本映画・ドラマ界を引っ張るふたりだが、奇しくも同じ2003年俳優デビューなのをご存じだろうか? 綾野は「仮面ライダー555」、北川はテレビドラマ版「美少女戦士セーラームーン」と、熱狂的なファンが存在する特撮ジャンルでのデビューが“初”だったことは、現在のマルチな活躍ぶりから考えると実に興味深い。
その後の急成長は、いまや誰もが知るところ。2018年の映画「パンク侍、斬られて候」では主人公とヒロインという関係性で初共演を果たし、異色時代劇を共に生き抜いた。そして今度は、互いに背中を預ける“バディ”として刑事ものに挑戦。それが、映画「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」である。本稿では、綾野と北川、それぞれの役者としての共通項を考察しつつ、「同じような景色を見ながらお互い役者をやってきたので、価値観も近い」(参照:「ドクター・デスの遺産」綾野剛、北川景子との“コンビ度”60%に「これはマズイ」)というふたりが本作で見せた、一糸乱れぬ連係プレーを深掘りしていく。
共通するのは、役と心中するほどの“熱”
綾野と北川の俳優としての特長には、大前提として「役に真摯に挑む」が挙げられるだろう。もちろん、著名な俳優の多くは自分が演じる役と真面目に向き合い、役を「掘り起こす」あるいは「まとう」、さらには「自分そのものを役にスライドさせる」ものだが、ふたりにおいては、役と心中するほどに突き詰めて思考する“熱”がものすごい。
これはあくまで外側から、観客として綾野と北川の演技を観た者の意見だが、画面に映るふたりからは、前面に押し出すか背景に潜ませるかは役柄によって変わるものの──めらめらと燃え盛る演技へのこだわりが明確に感じられる。それは言い換えれば、彼らの“自主性”が強く、役に反映されているということだ。
「演技は“素材”」と称されることもあるように、現場では演出家や監督、映像作品であればその後は編集技師等によって取捨選択・調整され、映像作品の中に落とし込まれていく。自分一人で完結するものではないからこそ、演者によってスタンスは様々だ。「演出家や監督がOKであればそれが正解」とするタイプもいれば、「自分が思う“正解”を通したい」というタイプもいる。いわば「応える」か「主張する」かだが、綾野と北川においては、まず「徹底的に準備する」ことで、現場での「選択肢を増やす」タイプと呼べるのではないか。つまり、素材を提供する自分たちを想定以上に高めることで、一個上のものづくりができるようにする、という考え方だ。
綾野は自ら「こういうのはどうだろうか」と積極的に提案する役者だが、往々にして自分を追い込むプランを出すことが多いように感じる。「ヤクザと家族 The Family」では脚本の完成前から、藤井道人監督と連日ディスカッションを重ねて作っていったといい、危険なスタントにも自ら挑戦した。役へのリアリティを重視する彼の性格が垣間見えるエピソードだが、そもそも綾野の中に身体的・精神的な「準備」ができていなければ、そこに説得力は伴わない。「有言実行」の責任感を持ちつつ、クオリティを上げるためには労を惜しまないのが、綾野流アプローチだ。
対する北川は、準備をコツコツ入念に積み上げていくスタイル。公認心理師役に挑戦した「ファーストラヴ」では、指導に入った実在の公認心理師に積極的にコミュニケーションを求め、どん欲に吸収しようとしたそうだ。生真面目な北川の性格がうかがえるが、それは身体面でも同じ。2015年のドラマ「探偵の探偵」では、キックボクシングの本格トレーニングに挑戦し「役によって肉体改造するのは平気」と言ってのけた(特撮時代の経験が生きているそう)。「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」のイベント時には、産後ダイエットに懸命に挑んでいることも告白。これらは、彼女の俳優としての高い志を象徴するエピソードといえるだろう。
同期であり、理解者であり、ライバル
より高いレベルの作品作りを実現させるべく、心身の研鑽を怠らない綾野と北川。彼らの情熱が過不足なくぶつかり合ったのが、「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」である。
直感型の刑事・犬養(綾野)と頭脳派の刑事・高千穂(北川)とカテゴライズこそ真逆に設定してあるものの、ふたりが生み出すバディ感は型や枠にとどまらない。生生流転のごとく、絶えず押し・引きや攻め・受けを繰り返し、バディとして一つの完璧な“環”になるよう、阿吽の呼吸で組み合っている。
猪突猛進のように見える犬養だが、綾野の演技は「自分の攻めの演技に、100%で北川が返してくる」ことを想定したものだし、それは北川においてもそう。高千穂が振り回されているように見えて、その裏では北川が「これくらいの出力で行く」という意思表示をしてもいる。キャラクターとしての強弱の調節、両者の相互補完が行き届いているため、力関係が常に一定に保たれているのだ。これは、信頼し合っている綾野と北川だからこそ生まれたといえる。
よくあるバディもののように、主人公が相棒をぐいぐい引っ張る展開になっていないため、観る側も犬養と高千穂の両者に、偏りなく興味関心を注ぐことができる。これは、かなり珍しいコンビといえるのではないか。その証拠に、ふたりが画面奥に向かって歩いていく冒頭シーンから、犬養と高千穂の関係は常に対等。それが結実したのが、高千穂が犬養にビンタを見舞うシーンだ。
自分の家族が人々を安楽死させる“ドクター・デス”に狙われていると知った犬養は、突然のことに半狂乱になってしまう。その際に「落ちつけ、犬養!」と一喝して、高千穂は目を覚まさせるべく強烈なビンタをするのだった。劇場公開時における綾野と北川の対談記事を参照すると、実はこのシーン、元々の台本にはなかったとのこと。話し合いの中で生まれ、「フリじゃなく、本当にたたいてもらって構わない」と綾野が北川にリクエスト。北川も綾野を信じ、役者の“商売道具”である顔を全力でたたいたのだという。同期であり、理解者であり、ライバルでもある綾野と北川だからこそ、緊迫感みなぎるシーンと相成ったわけだ。
滅私奉公のごとく、作品のために全力で奉仕する綾野と北川。共演するたびに高次元の演技のぶつかり合いを見せるふたりの、「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」に続く3度目の共演を楽しみに待ちたい。
メイキング映像を一部お届け!
ソフトでしか観られない特典映像の一部を特別掲載。撮影現場の様子をたっぷりと収めたメイキングでは、綾野が「暑い夏を乗り切りましょう」とスタッフを鼓舞するクランクインの瞬間や、2人が監督の深川栄洋から花束を受け取るクランクアップの様子も。互いの印象を語るインタビューもお見逃しなく。Blu-ray / DVDには、コラムで紹介したビンタシーンの裏側も収録されている。