「やっぱいいなあ」
──「Z95B」ではビエラで初めて新世代の有機ELパネル「プライマリーRGBタンデム」を導入し、今まで以上に明るい光が生み出せるようになっています。「新幹線大爆破」では車内でのレンズフレアやヘッドライトの光、後半の夕焼けなど、光が印象的な瞬間も多いですよね。
今回はAtlasという新興メーカーのアナモルフィックレンズ(※)を使って撮っているんですが、これがものすごいじゃじゃ馬で。とんでもなくフレアが入るんですよね。Netflixはクオリティチェックが厳しく、画と音に関して一定の基準を満たさないと許してもらえないんですよ。実はiPhoneで撮った画をほとんど使えない。例えば劇中でスマホで撮ってるという設定がない限りは、1本の何%以内に収めなきゃいけないとか、そういう細かい規定があって。
※編集部注:映画用フォーマットである横長のシネマスコープ映像を撮影するために開発されたレンズ。映像に光線状のフレアが発生しやすいのが特徴。
──「シン・ゴジラ」や「シン・ウルトラマン」の撮影でiPhoneを使われていたと思いますが……。
それまで散々使ってたんですが、撮影時の最新機種ではNetflixの品質基準値を満たさないので、その手が使えない(笑)。それで違う表現の仕方を考えたときに、もともと気になっていたAtlas ORIONというアナモルフィックレンズを使ってみました。特に運転台のシーンはガラスから光が入って明るいので、現場で撮ってるときも光線が入ってましたし、あとから合成で足してもいます。
──樋口監督としては、なるべくフレアを入れたいと考えていた?
レンズフレアはかっこいいのでなるべく生かしたいけど、ピーキーすぎてコントロールできないほど入っちゃうんです。新幹線統括本部長がJR東日本の本部会議室に入る場面とか(本編11:35地点)、窓の外からブラインド越しに入る光のフレアが外の直射日光を拾って、画面全体にブラインドの羽根1枚1枚の形がわかるほどのフレアになってしまい、あとで役者さんの顔にかかる部分のフレアだけ消したりしてます。
──すごい! 一瞬ですが、光の線が大量に走りますね。今回の「Z95B」は白色の輝度がとても高いんですが、個人的に好きなのが最後の作戦の直前、「東京まであと160km」のテロップが出るカットに重なる新幹線のヘッドライトの光線でした(本編1:52:38~)。
ここは……俳優のお芝居が終わってから少人数で東北新幹線の沿線を回ってた時期があって、そのときはレンタルしていたアナモルフィックレンズを全部返しちゃってたんです。だからここだけノーマルレンズで撮っていて、横一文字のフレアを発生させるフィルタをかましてます。ほかはアナモで撮ったら勝手にフレアが入るんだけど、ここは意図的で線が鋭く入ってる。あまり面白くない種明かしになっちゃいましたね(笑)。
──いえいえ。なるほど、だからフレアの出方が違うんですね。では光の描写で、樋口監督が「Z95B」で観たいシーンはどこでしょうか?
指令所で最後の作戦を思い付くところ、そこの夕焼けですね。
──観てみましょう。
いや、見事です。編集では2年前のテレビで家庭での見え方を確認していたので、進化したテレビだと全然違うものに見えたらどうしよう?と思ってましたが、狙った輝度はそのままに、よりよくなってますね。いたずらにビカビカもしてない。
──このあたりのシーンは、いろんな場所で夕日がつながっています。
もちろん時間帯がそうだから、どこも夕景なんですが、夜になる前のここの夕景に向けて会話のピークを持ってきてます。指令所はセットですが、本物はこんなに光が入る部屋にはなってないそうです。外の環境が中に影響するのは仕事場としてよくないそうで、差し込む夕日は映画の嘘ですね。
該当シーンはこちら
──ではクライマックスの新幹線大爆破シーンも観ていただきます。
遠くに見えるサーチライトの白い光がいいですね。「MZ2500」ではこんな鋭さは出てなかったですし、ここまでまぶしくなかった。「Z95B」でちゃんと表現できているのはうれしいですね。やっぱいいなあ、これ……。
ビエラ「Z95B」進化した映像のポイントは?
ビエラとして初めて新世代の有機ELパネル「プライマリーRGBタンデム」を搭載し、従来の有機ELと比べ「色」と「明るさ」が大きくパワーアップ。色の純度や輝度が向上し、明るい環境下でのコントラストも改善している。パナソニックでは独自の放熱技術「サーマルフロー」を開発し、パネルの性能を最大限に引き出した。
もっと詳しく草彅剛の「狂気」に惹かれた
──草彅さんとは2006年公開の映画「日本沈没」以来、約20年ぶりのタッグとなりました。
この20年の間に、役者としてすごくいい意味で狂気をはらんだ男になってますよね。ほかの映画を観ていても、爆発力がある。そういうのを観て、監督としては悔しくて(笑)。ずっと、また撮りたいと思ってましたね。
──まず、狂気なんですね。高市は職務に忠実な仕事人というイメージが強かったので意外です。
そう、でも最後、ある人を手にかけようとする。鉄道人である彼がそこまで追い込まれる話なので。ある人の悪意に、高市という車掌が試されるわけですよね。その悪意がこの映画の1つの柱になってますし、それに応えられるのは草彅くんだと思ってました。最初は普通の人に見えるんだけど、1枚、2枚と皮を剥いでいくと、どんどん最悪の形になっていく、それを自分で押し止めるのが彼の物語。それを描きたかったし、逆に言うと、草彅くんならそこまでやれるんじゃないかという当て書きの部分もありますね。
──では最後に樋口監督がこの映画で一番好きな草彅さんの顔を観たいです。
もうラストシーンですね。ある人物を見送る顔です。ここは自分から何も細かく伝えてません。「ここで映画が終わるから」と言って、その打ち返しとして草彅くんがああいう顔をしてます。
── あえて言葉にするなら、どういう表情なんでしょうか?
実は一番最初に高市が自分で言ってるんです。冒頭、車両センターで修学旅行中の高校生を案内しているときに、「なんで車掌になろうと思ったんですか?」と聞かれて答えてます。
この映画では見知らぬ人たちが生き死にの境をせめぎ合った結果、最後、バラバラになる。おそらく二度と会うことはない。でも、それが車掌の仕事。それがいいことなのかはわからないけど、高市には自分の人生はこれしかないんだと思ってほしかった。
──そのことも草彅さんには伝えずに?
こんなこと、草彅くん本人には言ってないですね。アフレコでこの画を観たときに、本人も「こんな顔してたっけ?」とか言って全然覚えてませんでした(笑)。でも本人も「すごい、いい顔」と喜んでいて、よかったなと思いましたね。
──高市に関しては、大爆破のあとはほとんどセリフもない。
ないですね、「腹減ったな」だけですね。
作りたいのは「スター・ウォーズ」
──今回は「新幹線大爆破」をご覧いただきましたが、「Z95B」で観たい映画を樋口監督が作るなら?
「スター・ウォーズ」みたいな映画をやりたいですね。一番好きなのはエピソード4の最後のデス・スター攻略戦。あのトレンチ(溝)の中を進むシーンが延々と観ていたいくらい好き。日本映画はもちろん、最近は宇宙船同士がひたすら戦うSFが少ない気がしていて。日本は今なら「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」とかアニメはいっぱいあると思うんですけど、実写でも宇宙空間の戦闘を観たい。宇宙の黒や星の光も、ビエラの性能が一番発揮されるんじゃないでしょうか。
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パナソニック・4K有機ELテレビ ビエラ「Z95B」
ビエラのフラッグシップが、画質・音質ともに6年ぶりのフルモデルチェンジ。筐体のデザインも一新し、圧倒的な映像美と立体音響による没入体験が実現した。サイズは65V型/55V型の2展開。オープン価格により6月20日に発売。
プロフィール
樋口真嗣(ヒグチシンジ)
1965年9月22日、東京都生まれ。1984年「ゴジラ」に造形助手として参加し、映画界入り。特撮監督を務めた「平成ガメラ」3部作で注目を集め、2005年に「ローレライ」で長編映画監督デビューを果たす。以降「日本沈没」、「のぼうの城」(犬童一心と共同監督)、「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」2部作などで監督を務める。2017年には「シン・ゴジラ」で総監督の庵野秀明とともに日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞。2018年にはテレビアニメ「ひそねとまそたん」で総監督を務め、2022年には「シン・ウルトラマン」を発表した。東映の同名映画をリブートした「新幹線大爆破」で初めてNetflix映画を監督。