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映画「キャッツ」葵わかな|感情を探るアフレコは“探偵の推理”みたい

「レ・ミゼラブル」のトム・フーパーが名作ミュージカルを映画化した「キャッツ」が、1月24日に公開された。本作において言語吹替が許可されたのは、日本含め世界で2カ国のみ。そんな“極上吹替版”で主人公ヴィクトリアの声を担当したのが、今回初めて吹替に挑戦した葵わかなだ。

映画版では、作曲家アンドリュー・ロイド=ウェバーとボンバルリーナ役で出演しているテイラー・スウィフトが新曲「ビューティフル・ゴースト」を共同制作。ヴィクトリアが自身の心情を歌う同曲に、葵はどう向き合ったのか? アフレコの裏話を交え語ってもらった。

取材・文 / 村尾泰郎 撮影 / Junko Yokoyama(Lorimer)

どんなふうに映画化するのか想像もつかなかった

──舞台を観るのが好きだそうですが、これまで舞台版「キャッツ」はご覧になっていました?

吹替のオーディションを受けることが決まってから、劇団四季の「キャッツ」を観に行ったんです。「キャッツ」のことは知っていたんですけど、ちゃんと観るのは初めてでした。これまで観てきた舞台と全然違って、セリフがほとんどなくて歌とダンスだけで進んでいく。それがすごく新鮮で、こういうエンタテインメントもあるんだ!って驚いたんです。でも、この舞台をどんなふうに映画化するのか想像もつかなかったですし、セリフがほとんどないのに、どうやって吹替するんだろうと思いました。

映画「キャッツ」より、フランチェスカ・ヘイワード演じるヴィクトリア(日本語吹替:葵わかな)。

──初めての吹替なのに、いきなり名作のヒロインというのもハードルが高いですよね。実際、吹替をやってみていかがでした?

声だけの表現というのはしたことがなかったので、すごく難しかったです。顔は映らないので、声だけで感情を表現しなければいけない。どうしたら、それができるんだろう……と思って。演出の方が「声を当てるときは普通のお芝居よりも表現を大きくしてください。そうしないと映像に合わないから」とおっしゃって、そういうものなんだって初めて知ったんです。でも、今回はセリフより歌のほうが多かったので、セリフと歌では表現の仕方も違いますし。

──試行錯誤しながらの吹替だったんですね。葵さんが声を当てたヴィクトリアは、葵さんから見てどんなキャラクターでした?

ヴィクトリアは若い白猫なんですけど、“白色”っていうのが彼女のことを表していると思いました。何色にも染まっていない、ピュアなキャラクターなんです。彼女はゴミ捨て場に捨てられるんですけど、そこで個性豊かな猫たちに出会って、その猫たちとの交流を通じて内面がいろんな色に変わっていく。そんな彼女の気持ちの変化を表す曲として、ヴィクトリアのソロ曲「ビューティフル・ゴースト」が大切な役割を果たしているんです。

食べ物の原材料を調べるように歌を分析

──「ビューティフル・ゴースト」は映画版のために書き下ろされた新曲ですが、聴かれてどんな印象を持たれましたか?

葵わかな

最初に聴いたときはすごくきれいな曲だなと思ったんですけど、すごく寂しい曲だなという印象もありました。「メモリー」みたいにサビで盛り上がるタイプの曲ではなくて、どこがサビなのかわからないような変わった構成なんですよね。でも、それがヴィクトリアの心情に寄り添った展開になっている。映像とあわせて聴くとよくわかるんです。聴けば聴くほど魅力が増す曲だと思います。

──あまりセリフはないヴィクトリアの内面を伝える、とても繊細な曲なんですね。

ミュージカルで歌うときって、1曲の中で気持ちを作っていくことが多いんです。徐々に希望に満ちていって最後はこういう気持ちになる、みたいな。でも「ビューティフル・ゴースト」では歌詞のフレーズごとに細かくディレクションがあって。例えば「どこにも」というフレーズだったら、そのフレーズで何が表現できるかを考えないといけない。「『どこにも』の『も』の切れ具合で寂しさをもうちょっと出してみて」とか、プロデューサーの方からアドバイスいただいたりしました。

──それは難しい。歌詞1つひとつに感情表現を考えてないといけなかった?

そうなんです。さらに歌ってないところ、ピアノだけのところとか、前奏の部分ではブレス(息)を入れたりして。

──息づかいでも表現を!?

常に何かを表現していないといけなくて。曲を細かく細かく噛み砕いて、そこでわかったことを表現していく作業がすごく難しかったし、ビックリしました。まるで食べ物の原材料を調べていくような作業だったんです(笑)。これほど細かく歌を分析したことはなかったので、この経験は今後に生かせるなって思いました。

──まるで1本の映画みたいに、1曲の中にいろんな思いや表現が詰まっているんですね。

映画「キャッツ」より、ヴィクトリア (中央)。

とにかく、フランチェスカ(・ヘイワード)さんが歌ったオリジナルの「ビューティフル・ゴースト」をしっかり聴く、ということを心がけました。私もプロデューサーの方も「フランチェスカさんがどう思って、こういうふうに歌っているのか?」ということを常に考えて、それを意識して歌ったんです。普通のお芝居だったら自分の解釈で歌えるんですけど、今回はフランチェスカさんの歌という“正解”があるので、フランチェスカさんの気持ちを通じてヴィクトリアの気持ちを想像する。そういうやり方は吹替ならではだと思いました。