「ブラッシュアップライフ」プロデューサー・小田玲奈と監督・水野格が制作裏を語り尽くす (2/2)

キーワードは“没個性”と“ノスタルジー”(水野)、たくさんの33歳の人たちに取材したんです(小田)

──衣装のほかに、シール交換やプロフィール帳、たまごっち、ROUND1など、地元感や時代感あふれるアイテムもたくさん出てきました。そのリアリティを出すための準備はどうされたんですか?

小田 大変だったんですよ、「たまごっち」!

小田玲奈

小田玲奈

水野 まめっちを撮影するために、撮影のスケジュールに合わせて助監督がたまごっちを育てていたんです。そしたら前日にすごい深刻な顔で「すみません。ぎんじろっちになってしまいました」って。

小田 たまごっちって成長すると戻れないもんね。次の撮影日に向けてまた育て始めて、大事な話をしているときにピピって音が鳴ったりして(笑)。

水野 「ごはんあげなきゃ」って。

──なぜ細かい部分でそこまでやるんでしょうか?

水野 そこが肝だと思っていましたね。最初に決めた大事なキーワードが、“没個性”と“ノスタルジー”。本物を使うための許可取りも、リサーチも、プロデュース部をはじめみんなですごくがんばってくれました。

水野格

水野格

小田 これは升野さん発案なんですけど、たくさんの(麻美と同じ)33歳の人たちに取材したんです。「学生時代に一番思い出に残っていることはなんですか」って聞くとたいていは運動会とか大きなイベントを答えるんですけど、根気強く取材を続けると「タイルシールっていうものがあった! ヤバい! 久しぶりに口にしちゃった!」って明らかに雰囲気が変わるものがあったりして。そういうものはきっと視聴者にも懐かしいと感じてもらえると思い、升野さんに「タイルシールとフェルトシールっていうワードが熱いらしいですよ」と伝えました。

水野 もちろんタイルシールとか升野さんが脚本のト書きに書いてくれた物も多かったんですけど、そんなに細かく書いていない部分も多くて。そこを演出部とか美術さんとか、みんなでアイデアを出して懐かしいアイテムや演出を決めていきましたね。

左から米川美穂役の木南晴夏、門倉夏希役の夏帆、近藤麻美役の安藤サクラ。

左から米川美穂役の木南晴夏、門倉夏希役の夏帆、近藤麻美役の安藤サクラ。

──誰がどの案を出したかはソフトの特典で確認できますよね。

水野 そうですね。“マルシー論争(※)”が座談会の映像に入っているので、ぜひ観てほしいです。

※編集部注:劇中の小道具や演出案、アドリブのセリフなど、誰が発案者か=コピーライトについて特典映像の中で明かされている。

左から小田玲奈、水野格。

左から小田玲奈、水野格。

みーぽんの運転で「考察した人の感覚は間違ってない」(小田)

──ほかに特典映像やメイキングで見どころはありますか?

水野 今回、LEDスクリーンでの撮影をしていて。そうするとインカメラVFXという技術が使えるんです。普通は、グリーンバックなどで芝居を撮ってそのあと背景映像を合成するんですけど、インカメラVFXだと(スクリーンに)CGの背景があらかじめ出ているから、スタジオで撮影したものですでに合成ができている。アメリカとか韓国ではけっこう導入されていて、大河ドラマでも使い始めている技術です。

特典のメイキング映像より、LEDスクリーンを使ったスタジオ撮影の様子。

特典のメイキング映像より、LEDスクリーンを使ったスタジオ撮影の様子。

──LEDスクリーンはどのシーンで使われていたんでしょうか?

水野 (松坂演じる)田邊勝と麻美のキャンプ場や観覧車、ファーストフード店でのデートシーンですね。昔付き合っていた設定だから、ある程度いろんなところにデートに行っていないと説得力がないけど、全部ロケになるとスケジュール調整が大変になる。インカメラVFXを使えばスタジオで撮れるので実現しました。あとは車のシーン。地方の話だと車に乗っているシーンはリアリティを生むので、たくさんやりたくて。

左から田邊勝役の松坂桃李、近藤麻美役の安藤サクラ。

左から田邊勝役の松坂桃李、近藤麻美役の安藤サクラ。

小田 たいてい日本のドラマは、車のシーンはCG合成が大変だったり、牽引っていう方法だと撮影自体が大変だったりするので、現場の人は極力(脚本に)書かないでくれって思うんです。

水野 学生時代、免許を取った木南さん(みーぽん)が麻美たちを乗せて高速道路を運転するシーンでは、先に専用の車で撮影してきた映像をスタジオでLEDスクリーンに映して、芝居を撮りました。素材には、トラックがちょうど横に来る様子が映っているんですけど、新人のドライバーにとっては怖いじゃないですか。木南さんもその映像を実際に見ながら「怖い怖い」っていう芝居をやっているんですよね。

──木南さんの細かい芝居に反応して「みーぽんも人生をやり直していて、トラックの事故に巻き込まれないようにしているんじゃないか」と考察している人もいましたよね。

小田 そうそう。でもそう見えたのって、普通のドラマならああいうシーンが絶対にないから。実際に撮影したら本当に危ないし、危ないわりに意味のないことはやらない。“やるんだとしたらよっぽど意味があるんだろう”って思うから、考察した人の感覚は間違ってないと思うんだよね。

水野 そもそも高速道路に乗ってる車の画があまりないですよね。牽引ができないから。

小田 確かに(笑)。でも俳優さんからすると、トラックが近付いている芝居も、キャンプ場のあの雰囲気だからこその芝居も、スタジオでやらないといけないっていうことでしょ? それはそれで大変なこと。今回それがうまくいったのは上手な人たちだったからだと思います。

小田玲奈

小田玲奈

──最後に、本作を経て感じたことや今後の展望があれば教えてください。

小田 今回これまでも一緒にやってきたテレビのスタッフと、普段は映画をメインにやっているスタッフとの混成チームで制作しました。「テレビ的にそれはちょっと難しいな」ってことを、“せっかく集まったチームなんだから、お互いにいいところを吸収し合おうよ”って柔軟にやれたのはよかったなと。私自身もブラッシュアップできたと思います(笑)。

水野 今年、上海テレビ祭で最優秀作品に贈られるマグノリア賞に「ブラッシュアップライフ」がノミネートされました。中身がすごく日本的なので、中国で受け入れられるなんて想定していなかったですが、観てもらっても耐えうるクオリティで作ったとは思っているんです。世界中の作品を相手に戦えるような面白いドラマを、引き続き作っていきたいなと思っています。

プロフィール

小田玲奈(オダレイナ)

日本テレビ所属のドラマプロデューサー。「家売るオンナ」シリーズ、「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」「知らなくていいコト」、「ZIP!」朝ドラマ「生田家の朝」、「住住」シリーズ、「恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~」などを手がけてきた。24時間テレビスペシャルドラマ「虹色のチョーク」は、8月26日(土)よる9時ごろ放送。

水野格(ミズノイタル)

日本テレビ所属。演出を担ったドラマに「レッドアイズ 監視捜査班」、スペシャルドラマ「ダマせない男」、「ダブルブッキング」、「名探偵ステイホームズ」、「ZIP!」朝ドラマ「泳げ!ニシキゴイ」などがある。劇場版「お前はまだグンマを知らない」では監督を務めた。