「ブラッシュアップライフ」プロデューサー・小田玲奈と監督・水野格が制作裏を語り尽くす

バカリズムが脚本を手がけ、安藤サクラが主演を務めたドラマ「ブラッシュアップライフ」のBlu-ray & DVD BOXが8月23日に発売された。

全10話の「ブラッシュアップライフ」は、地元の市役所で働く実家住まいの33歳独身女性・近藤麻美が、ある日突然人生をゼロからやり直すことになる地元系タイムリープ・ヒューマン・コメディ。安藤が麻美を演じたほか、麻美の親友役で夏帆、木南晴夏、水川あさみも出演した。

映画ナタリーでは、プロデューサーの小田玲奈と監督の水野格にインタビューを実施。俳優・スタッフ間の信頼関係、“時代感”や“地元感”を表現するため本物にこだわった劇中のアイテム、新たな技術を取り入れた撮影など、制作の裏側について語ってもらった。

取材・文 / 脇菜々香撮影 / 清水純一

ドラマ「ブラッシュアップライフ」Blu-ray & DVD PV予告編公開中

すごく信頼関係があった作品(水野)

──まずは、改めて企画の経緯から教えていただけますか?

小田玲奈 以前、升野さん(バカリズム)と「ZIP!」朝ドラマ「生田家の朝」を一緒に作ったときに「いつかGP帯(※19時~23時)の連ドラをやりたいですね」って話をしていて。ドラマの内容については、升野さんからいくつか企画が出たよね。

水野格 5個くらいありましたね。

小田 その中でも「ブラッシュアップライフ」は、升野さん的には数合わせのための企画だったらしくて(笑)。

水野 もともと升野さんが単独ライブでやった、人生を何周も繰り返している人のコントがあるんですけど、それが発想の源で。あの人にしか書けないミクロな面白さに、人生をやり直すという大きいスケールが掛け合わさっているのが面白いと思いました。

左から小田玲奈、水野格。

左から小田玲奈、水野格。

──ある番組で、バカリズムさんが「『ブラッシュアップライフ』の制作側からはほとんどNGが出なかった」と話していましたが、それは何か理由があるんですか?

水野 もちろん何も言ってないわけじゃないですけど、すごく信頼関係があった作品だとは思います。お互いの領域を侵さないというか。升野さんが「お任せします」と言ってくれたから僕も自由にやれたし、サクラさんはサクラさんの思う通りに演じる感じでした。

小田 升野さんは1話を観て「近藤麻美にしか見えない」と思ったそうで、脚本を書いているときに「麻美だったらこういうときにどう思うか、サクラさんに聞いてもらえませんか」って言われることもありました。

水野 みんなお互いに尊敬も尊重もし合っていたので、うまくいきました。中身でもめるとかはないですね。

左から死後案内所の受付係役のバカリズム、近藤麻美役の安藤サクラ。

左から死後案内所の受付係役のバカリズム、近藤麻美役の安藤サクラ。

私はラブ要素も絶対に入ると思っていた(小田)

小田 でも私はずっとラブ要素が必要なんじゃないかって言ってました(笑)。

──そうなんですか!?

小田 (安藤と共演経験のある)松坂桃李さんが「ぜひゲストで出演できたらうれしい」と言ってくださって。こんなことなかなかないですし、私はラブ要素も絶対に入ると思っていたから「じゃあ元カレ役とか?」なんて盛り上がって。升野さんも「いいですね」って言うんだけど、上がってくる脚本が私の思っている元カレの感じじゃない(笑)。

──だらしない男子学生の極みみたいな(笑)。

小田 そうそう。胸キュンとは真逆のものになってるんだけど……面白いから(OKした)。その戦いはありましたよ!

水野 そこが一番大きな戦いかもしれない(笑)。

左から田邊勝役の松坂桃李、近藤麻美役の安藤サクラ。

左から田邊勝役の松坂桃李、近藤麻美役の安藤サクラ。

──結果的に、恋愛にも結婚にもとらわれないところがよかった、という視聴者の声にもつながりましたよね。

小田 今日日テレタワー内のスタバで、30代前半ぐらいの店員さんから「ドラマ楽しく観てました」って言われて、すごいうれしかったです。最近取材した工場の工場長も、お寿司屋さんの大将も観ていたし。

小田玲奈

小田玲奈

──それだけ広い世代に愛されたのはキャストの力も大きいと思うのですが、主演の安藤サクラさんについてはいかがでしたか?

水野 すごいですよ。準備量が全然違うんです。一流と言われる人に共通していると思うんですが、全部セリフが入っているのは当たり前だし、そのうえで何をするか考えて来るから、僕自身が現場で気付かされることもたくさんある。役のことを一番考えて準備しているんですけど、一方で現場に入ると感覚や直感で演じてると思うんですよね。

小田 準備あってこその感覚だよね。例えば現場で鼻がむずむずしたら、鼻をかむのも芝居に取り入れる。私もサクラさんとご一緒した前後で、お芝居とかテレビドラマにおける考え方が変わりました。台本がなくてもサクラさんが主演っていうだけで「ご一緒したい」って言う俳優の皆さんの気持ちがわかったし、スタッフも「次の現場にもこの感覚を持って行こう」という気持ちになれる。そういう意味で、すごい女優さんだなって感じます。

近藤麻美役の安藤サクラ。

近藤麻美役の安藤サクラ。

スタイリストさんが「いっそ全員茶色くすればいいんじゃないか」と(水野)

──そんな安藤さんを含むキャストについて、1人ひとりのキャラクターを見てみると、そんなに個性が強いわけではないのが新鮮でした。

小田 あーちん(近藤麻美)、なっち(夏帆演じる門倉夏希)、みーぽん(木南晴夏演じる米川美穂)のセリフが、1つ入れ替わっても気付かないくらい“没個性”にこだわっていて。私は「それなら服とかをはっきり分けないと誰が誰かわからなくなっちゃうんじゃないの?」って思ってたんだけど、(水野ら制作チームが)どんどん逆に行くの!

水野 これは自分の過去の反省も積み重なっているんですけど、特にテレビドラマって、キャラを立たせようとするんです。でもそれによって絵的にまとまりのないものになってしまったな、もうちょっと統制の取れた美しいものを作りたいなと思っていたんですよ。そんな話をしていると、スタイリストのBabymixさんが「いっそ全員茶色くすればいいんじゃないか」と。

小田 そこに面白がって乗れたのがよかったよね。私、仰天したもん(笑)。

「ブラッシュアップライフ」1話場面写真

「ブラッシュアップライフ」1話場面写真

「ブラッシュアップライフ」7話場面写真

「ブラッシュアップライフ」7話場面写真

──常識が崩された?

小田 そうそう(笑)。

水野 物語として地元に回帰していくのは撮影前から決まっていたんです。地元のシーンには、温かみのある黄色とか赤系のトーンを映像に乗せていて、それが茶色とも合うんですよ。青色のものは美術的にも排除していて、逆に(麻美が)4周目の人生で東京に来てからは青をよく使うようにしました。