「BLEACH」佐藤信介×早乙女太一×下村勇二インタビュー|一護VS恋次、“執念の肉弾戦”を語るアクション座談会

早乙女さんは最初からできちゃうんです(下村)

──早乙女さんにとってワイヤーアクションは今回が初めてだったんですね。やはり舞台と映画のアクションは違うものなのでしょうか。

早乙女太一

早乙女 まったく違います。映画のほうが難しいですね。舞台はお客さんが前方にしかいないので、そこからどう見えるかだけを考えて作っているんです。だから、当たっているように見えても実際はけっこう間合いを取っているし、絶対に当たらないような距離を測っている。僕はその癖がついてしまっているので、映画の現場でもどうしてもブレーキをかけてしまうんですよね。それに舞台は稽古期間も長いですが、映像作品は相手の役者さんと多くの回数を合わせることもないまま、勢いよく斬りかからないといけない。その恐怖はものすごく大きいです。

──CGを想定しながら演じることなど、本作は通常の殺陣に比べて特殊な撮影も多かったと思いますが、一番苦労したのはどんなところでしょうか?

早乙女 言ってしまえば、全部難しかったです。それに僕はあまりマンガ原作の映画に出演したことがなくて。マンガですでに完成されているキャラクターを演じる経験がなかったので、ほかの現場とは大きな違いを感じました。あと単純なことで言うと、恋次がバスからバスに飛び移るシーンがあるんですけど……それがものすごく怖かったです。

「BLEACH」

下村 全然そんなふうに見えなかった。実は怖かったんだ(笑)。

佐藤 堂々と飛んでいたけど、けっこう高いですからね。

早乙女 本当に、あれがこの現場で一番怖かったです。しかも何回も撮ったんですよ!

佐藤 タイミングが難しかったからね。最初は「気を付けてねー!」とか声をかけていたのに、だんだん気にせず何度もやらせてしまって(笑)。

下村 でも実は僕、今回早乙女さんのアクションに関してはあまり演出していないですよね。

早乙女 そうですね。あまり細かく言われた記憶がないです。

下村勇二

下村 ほかのキャストさんにはわりと細かく注文をしたんですけど。早乙女さんに関しては、最初からできちゃうんですよ。事前に「このカットはこの動きで」と伝えて練習してもらっていたので、それを思い出しながら現場で動いてもらったら、もうできている。だから安心して見ていましたね。吹替用のスタントマンも用意していたんですが、早乙女さんはスタントマンよりもうまいんですよ。だから吹替の人間に「お前はいいよ、早乙女さんにやってもらうから!」と言ったカットもありましたね。

一同 (笑)

──具体的に、予定外にご本人が演じたのはどんな場面でしょう?

下村 主に立ち回りのシーンです。もちろん危険なスタントは、ご本人にけがをされたら困るので吹替を使うんですが。殺陣に関してはもう、早乙女さんのほうがうまいんです。

早乙女 いやいや、とんでもないです。

限定空間を使い倒すのが好き(佐藤)

──本作のアクションを作り上げるうえで、一番の課題となったのはどのような部分でしょうか?

下村 まず原作があるアクションなので、表現をマンガやアニメに寄せるのか、実写オリジナルにすべきなのかは微妙なところでしたよね。

佐藤 そうですね。そもそも原作では森で戦っているシーンを映画では街中に持ってきていたり、時間軸も違ったりしたので、結局はリアリティをどう見せるか考えるようにしました。それでもベタベタの泥臭いアクションにはしたくないので、とにかく案配が難しくて。あと今回はCGである虚<ホロウ>との戦いを表現することが1つのテーマだったんですが、やっぱり虚<ホロウ>は現場に存在しないですから。その場にいないものとどう接触するのかという技術的な難しさは、常にありましたね。

「BLEACH」

──ポスプロで作られるCG表現に関して、現場で監督はiPadで資料を映して「これが尸魂界<ソウル・ソサエティ>だよ」などと説明されていたそうですね。

早乙女 そうでしたね(笑)。

佐藤 もう、CGのラフカットを出して説明するしかないんですよね。虚<ホロウ>に関しても「こんな外見です、これくらいの背です」と伝えて、想像してもらうしかない。現場では虚<ホロウ>を描いた紙を棒にくっつけて、目線の位置を指示しました。そんなシュールな状況なのに、役者の芝居によって現場全体が真剣にさせられるのは面白いし、感激しましたね。

──2年前、駅前ロータリーセットでのアクション撮影を見学したのですが、セットの巨大さとその作り込みに驚かされました(参照:福士蒼汰主演「BLEACH」現場レポ、佐藤信介はファーストカットで「一護だ!」)。本作では約20分間に及ぶクライマックスシーンのほとんどが、同じ駅前ロータリーで展開されますよね。「GANTZ」シリーズでもワンシチュエーションでのアクションが印象的だったのですが、佐藤監督のこだわりでしょうか?

佐藤信介

佐藤 ある限定空間を使い倒すのが好きなんです。「あれ? 気付いたら、さっきからずっとここだよね?」という状況に燃えるんですよ。今回のストーリーは空座町が舞台なので、その駅前ロータリーという空間に設定しました。普段はみんなが行き交う場所で、最後に大パニックが起こるという筋立てが面白いかなと思って。

──ワンシチュエーションでありながら、途中で一護がバスの中に入って戦うなど、観客を飽きさせないさまざまな仕掛けがありました。

佐藤 駅前ロータリーにあるものを徹底的に使おうと思ったんです。特にバスはあらゆる形で使いましたね。バスの中に入るところから始まって、恋次がバスの上に乗ったり、バスを突き飛ばしたり。そういう限定空間の利用方法を工夫することで、映画っぽい表現を醸し出せるんじゃないかという狙いでした。

異種格闘技戦のような顔ぶれ(早乙女)

──では最後に、本作の見どころを1つずつ挙げていただけますか。

早乙女 役者の顔ぶれが独特ですよね。あまりほかにはない組み合わせというか。ミュージシャンとしても活躍されているMIYAVIさんもいるし、本当に異種格闘技戦のようで。

佐藤 ははは(笑)。

早乙女 そういうところが、この作品の“現代に和装した死神がいる”という奇妙な世界観と重なるんじゃないでしょうか。それらを含めた独特な空気感は、ほかにはない見どころになっていると思います。

下村 僕はアクション監督なので、やっぱり全体的にアクションが見どころだと言いたいです。あと僕はこれまで佐藤監督の作品にたくさん参加させてもらっていますが、今回はこれまでと少しテイストが違う気がするんですよね。若者が共感できる青春群像劇のような、ポップな一面もある。僕は佐藤組の一員でありながら佐藤作品のファンでもあるので、そういう意味で新しいなと思いました。

佐藤 原作を知り尽くしているファンの方々には、一度頭を真っ白にして、実写映像作品としての「BLEACH」を楽しんでもらいたいです。もちろん原作のエッセンスが詰まった作品なんですが、やっぱりリアルな実写で観るとまったく違う体験になると思うので。それから、和装や刀を使いつつここまでファンタジー性のある映画もなかなかないので、原作を知らない方々にも面白がってもらえるはず。劇場で、風を感じるようなアクションを楽しんでもらえたらいいなと思います。

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「BLEACH」
2018年7月20日(金)全国公開
「BLEACH」
ストーリー

高校生・黒崎一護はユウレイが見える霊感の持ち主。ある日、家族が人間の魂を喰らう悪霊・虚<ホロウ>に襲われてしまう。そこに現れたのは、死神を名乗る謎の女・朽木ルキア。彼女は一護に究極の選択を迫る。このまま家族とともに殺されるか、世の中のすべての人を虚<ホロウ>から護る<死神>になるか──。<死神>として生きていく道を選んだ一護の先には、想像を超えた闘いが待ち受けていた。

スタッフ / キャスト

監督・脚本:佐藤信介

原作:久保帯人「BLEACH」(集英社ジャンプコミックス刊)

脚本:羽原大介

音楽:やまだ豊

アクション監督:下村勇二

主題歌:[ALEXANDROS]「Mosquito Bite」(UNIVERSAL J / RX-RECORDS)

キャスト:福士蒼汰、杉咲花、吉沢亮 / 真野恵里菜、小柳友 / 田辺誠一、早乙女太一、MIYAVI / 長澤まさみ、江口洋介

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佐藤信介(サトウシンスケ)
1970年9月16日生まれ、広島県出身。大学在学中に脚本と監督を手がけた短編映画「寮内厳粛」が、ぴあフィルムフェスティバルでグランプリを受賞した。2001年に「LOVE SONG」で長編監督デビュー。「GANTZ」や「図書館戦争」といったシリーズで知られ、「アイアムアヒーロー」では世界三大ファンタスティック映画祭にてグランプリを含め5冠を達成。2018年公開作「いぬやしき」ではブリュッセル国際ファンタスティック映画祭にてグランプリに輝いた。
早乙女太一(サオトメタイチ)
1991年9月24日生まれ、福岡県出身。大衆演劇「劇団 朱雀」二代目として4歳で初舞台を踏み、全国で舞台を行う一方で、2003年に北野武監督の映画「座頭市」出演をきっかけに一躍脚光を浴び人気を博す。舞台やドラマ、映画など活動は多岐にわたり、主な出演映像作品には「ふたがしら」「信長燃ゆ」「22年目の告白ー私が殺人犯ですー」「HiGH&LOW」シリーズなどがある。2018年にはAbemaTVオリジナルドラマ「会社は学校じゃねぇんだよ」に参加したほか、「泣き虫しょったんの奇跡」の公開を9月7日に控えている。
下村勇二(シモムラユウジ)
1973年生まれ、鹿児島県出身。倉田アクションクラブを経てフリーのスタントマンとして活動し、「VERSUS ヴァーサス」でアクション監督デビュー。ドニー・イェンに師事したのち、現在は映画、CM、ゲームなどのアクションを演出している。「GANTZ」「図書館戦争」といったシリーズや「アイアムアヒーロー」「いぬやしき」など、佐藤信介の監督作に多く参加。アクション映画「デス・トランス」「RE:BORN リボーン」では監督も務めている。

2018年7月27日更新