久保帯人のマンガを佐藤信介が実写映画化した「BLEACH」が、7月20日に公開される。本作は、幽霊が見えること以外は普通の高校生・黒崎一護が、死神の力を譲り受け、悪霊・虚<ホロウ>と死闘を繰り広げるバトルアクション。主演の福士蒼汰のほか、杉咲花、吉沢亮、早乙女太一、MIYAVIといった個性豊かなキャストが集結した。
ナタリーでは、本作の公開記念特集をジャンルをまたぎ展開していく。第2弾として、監督の佐藤、一護の前に立ちはだかる死神・阿散井恋次役の早乙女、そしてアクション監督を務めた下村勇二による座談会をお届け。アクション界でそれぞれ活躍してきた3人が、自身のルーツを振り返る。「GANTZ」シリーズや「アイアムアヒーロー」などでもタッグを組んできた佐藤と下村のこだわりが詰まった一護と恋次のバトルシーンや、下村をして「スタントマンよりもうまい」と言わしめる早乙女の殺陣についても語ってもらった。
取材・文 / 浅見みなほ 撮影 / 草場雄介
「BLEACHフェス」とは?
7月10日に東京都内で開催されたイベント。「BLEACH」の黒崎一護役・福士蒼汰や阿散井恋次役・早乙女太一が登壇し、主題歌を担当する[ALEXANDROS]がライブパフォーマンスを披露した。
ドニー・イェンが「日本で一番いい動きをするのは下村」(佐藤)
──今回は本作のアクションに関して伺いたく、お集まりいただきました。まずは皆さんそれぞれの出会いについてお聞きしたいと思います。佐藤信介監督と下村勇二さんは、「GANTZ」「図書館戦争」シリーズや「アイアムアヒーロー」「いぬやしき」といった映画でもタッグを組んでいますね。
佐藤信介 そうですね。最初は、僕にとって2本目の商業映画である2001年の「修羅雪姫」に参加していただきました。そのときは下村さんに、主演の釈由美子さんの吹替(スタントマン)をやってもらって。
早乙女太一 ええ!
下村勇二 そうなんです。あの作品はドニー・イェンがアクション監督を担当していて、僕はまだ下っ端のペーペーだったんですけど、スタントコーディネーター兼主演の吹替としてつかせてもらいました。だからよく観ると、僕の顔も若干映っているんですよ。しかも僕、かつらじゃなくて地毛で出てますから(笑)。
佐藤 そうそう、ちょっと内股で演じてもらったよね。17年くらい前ですから、当時アクションスタントをやる女性があまりいなかったんです。ドニー・イェンも「日本で一番いい動きをするのは下村だ」と言っていたくらい、僕の中で下村さんはキレキレに動ける人という印象でしたね。その頃下村さんが撮った自主映画の編集中の映像を観せてもらっていたこともあって、ずっと一緒にやりたいと思っていました。アクションができるだけの人はほかにもいるけれど、カット割りまで意識できる人はなかなかいなかったんですよ。当時お互いに映画と並行してゲームの仕事をやっていたんですが、下村さんはお忙しくてつかまらないことが多くて……。「戦国無双2」というゲームでやっとご一緒できたんです。
下村 そんなに忙しくなかったですよ!(笑) その「戦国無双2」で初めて佐藤監督の作品でアクション監督をやらせていただいて、その流れで「GANTZ」にも参加させてもらいました。
──早乙女さんは、佐藤監督や下村さんと作品をご一緒したのはこの「BLEACH」が初めてでしょうか?
早乙女 はい。初めてです。
佐藤 なんだかずいぶん長く知っているような気がするけど、実はこれが初めてなんだよね。
早乙女 この映画を撮影したの、2年前ですからね。
佐藤 そうそう、準備も含めたら、何年やっていたんだろう?ってくらいなので。
アクションのルーツは「髑髏城の七人」(早乙女)
──アクション座談会ということで、皆さんのアクションにおけるルーツについて伺えればと思います。影響を受けたアクション作品や人物を教えてください。
早乙女 僕はずっと大衆演劇をやっていて、外の世界を見たことがなかったんです。でも13歳くらいのときに、市川染五郎(現・松本幸四郎)さんが主演されていた劇団☆新感線の「髑髏城の七人(~アオドクロ)」を初めて観て、「こんなにカッコいい世界があるんだ!」と衝撃を受けました。そこから殺陣やアクションを意識するようになっていきましたね。
佐藤 なるほどね。僕は父親が西部劇が好きで、よく「アラモ」とかを観せられていたんですよ。当時は日曜洋画劇場で西部劇をやっていた時代で、我が家には「夜遅くても、西部劇だったら観てもいい」みたいなルールがありました。
一同 (笑)
佐藤 だから僕のルーツといえば西部劇のガンアクションですかね。西部劇って、最後はだいたい銃撃戦になるんですよ。その後僕が中学校に入ったくらいから(スティーヴン・)スピルバーグなんかが出始めて、新しいタイプのアクションにも触れるようになっていきました。
下村 僕はありきたりなんですけど、ジャッキー・チェンですね。小学校5、6年生の頃、テレビの洋画劇場でよくジャッキー映画をやっていたので、観た翌日は必ずまねしていました。それで「ジャッキーになりたい」と思ったのがすべての始まりです。
佐藤 そう考えると、本当にまっすぐですよね。
下村 そうですね。中学生になってからは、録画したジャッキー映画のビデオを、自分で編集していたんですよ。「アクションシーンのこのカットはいらないから、こことここをつなげちゃえ!」みたいなことをやっていて。だから今も、当時と何も変わっていないんだよね(笑)。
感覚でできてしまうから、早乙女さんはすごい(佐藤)
──それぞれルーツの異なる皆さんが集っていると思うと興味深いです。早乙女さんは、このチームで「BLEACH」という大人気マンガの実写化に挑むと聞いたとき、心境はいかがでしたか?
早乙女 僕は原作マンガを読んでいたので、まず自分の役どころがすごく意外でしたね。「あ、阿散井恋次役なんだ?」という気持ちで。……意外ですよね?
下村 いやいや。
佐藤 もうすでに恋次をやってもらっちゃったから、イメージが付いていてわからない(笑)。でももちろん、はじめから恋次役をやってもらいたいと思っていましたよ。
──そんな恋次役が決まってからは、どのように役作りをされたのでしょうか。
早乙女 特にしていないんです……。
一同 (笑)
佐藤 本当に、ここが彼のすごいところですよね。感覚でできてしまうんですよ!
早乙女 いやいや(笑)。普段から事前に役を作り込むようなことはあまりなくて、現場に行って、みんなと会って、そこで初めてやってみる感じなんです。今回は強いて言えば、自分の中にも恋次のような野性的な部分があると思ったので、そんな一面を出せればいいなと考えていました。
佐藤 この作品に関しては、どのキャストも本読みの段階で原型はできていて、大きく変えてもらうことはありませんでした。ただ恋次は、現場で破格に研ぎ澄まされた気がしましたね。カメラが回った瞬間、「うわっ!」と思わされるというか。恋次は一護に対して、ある意味で怒りを持って接しているので、それが伝わってくる。フィクションだし、現実には絶対に存在しえない“死神”であり、一番ぶっ飛んでいるキャラクターなんですけど、現場で早乙女さんが演じると、見ているこちらがすごく真剣にさせられてしまうんです。空気がピリッとするというか。
一護VS恋次、唯一の肉弾戦を見せ場に(下村)
──この映画では原作の“死神代行篇”に当たる部分を映像化していますが、原作よりもだいぶ恋次の登場パートが増えていると感じました。
佐藤 この映画において一番の“執念の戦い”として、黒崎一護と恋次の戦いを持って来たかったんです。そのためには、2人の絡みを原作よりも前倒しで見せていく必要がありました。ルキアを巡る展開を考えると、死神代行篇の先を考慮に入れても、やっぱりその2人のストーリーになってきますから。
──一護役の福士蒼汰さんもおっしゃっていましたが、一護と恋次のバトルシーンには特に下村さんのこだわりが詰まっているそうですね。
下村 もちろん監督のこだわりでもあるんですが、恋次戦は特にいろいろなパターンのアクションを作りました。瞬間移動のような高速戦を、デジタルダブル(俳優の表情をスキャンし、CGで作成したモデルに演技をさせる技術)を使って表現しようという案もあったんです。でもやっぱり監督には“現代の日常の中で、和装の人物たちが刀を振り回す”画が観たいという思いがあって、その案はなくなりました。それから、それまでの一護は主に虚<ホロウ>と戦っているので、CGアクションが主体になる。この映画における肉弾戦は恋次とのバトルだけなので、やっぱりここは見せ場にしたかったんです。
佐藤 それも、痛みや必死さの伝わる肉弾戦にしたかったんです。普通だったら大きな異世界の怪物である虚<ホロウ>との戦いがクライマックスだと思いますよね。でもそのあとに人間同士のような戦いが待っているという展開にしたかった。ただ、地に足のついたアクションにしつつ、ベタな感じにしたくないという加減が難しくて。ああでもない、こうでもないと言って、ビデオコンテを作っては壊しを繰り返しましたね。
下村 早乙女さんに演じてもらう前にだいぶ練りましたね。結局、一番最初の案に戻ったんですが。
佐藤 そうそう、最初の案をどんどん復活させていって。
早乙女 そうだったんですね。僕がアクション練習を始めた頃には、「順番は変わるかもしれないけど、だいたいの方向性はこんな感じ」くらいまで固まっていました。
──監督から早乙女さんへは、どのような注文があったのでしょうか?
早乙女 どうだったかなあ……なんせ、2年前だからなあ(笑)。
佐藤 確かに(笑)。でも、まずはすぐにアクション練習に入ってもらいましたよね。
早乙女 今回、ワイヤーアクションがあったので、アクション練習は何回かやりましたね。僕、ワイヤーを使うのは初めてだったので、多めに稽古をした記憶があります。
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早乙女さんは最初からできちゃうんです(下村)
- 「BLEACH」
- 2018年7月20日(金)全国公開
- ストーリー
-
高校生・黒崎一護はユウレイが見える霊感の持ち主。ある日、家族が人間の魂を喰らう悪霊・虚<ホロウ>に襲われてしまう。そこに現れたのは、死神を名乗る謎の女・朽木ルキア。彼女は一護に究極の選択を迫る。このまま家族とともに殺されるか、世の中のすべての人を虚<ホロウ>から護る<死神>になるか──。<死神>として生きていく道を選んだ一護の先には、想像を超えた闘いが待ち受けていた。
- スタッフ / キャスト
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監督・脚本:佐藤信介
原作:久保帯人「BLEACH」(集英社ジャンプコミックス刊)
脚本:羽原大介
音楽:やまだ豊
アクション監督:下村勇二
主題歌:[ALEXANDROS]「Mosquito Bite」(UNIVERSAL J / RX-RECORDS)
キャスト:福士蒼汰、杉咲花、吉沢亮 / 真野恵里菜、小柳友 / 田辺誠一、早乙女太一、MIYAVI / 長澤まさみ、江口洋介
- 映画「BLEACH」オフィシャルサイト
- 映画「BLEACH」公式 (@bleach_moviejp) | Twitter
- 映画「BLEACH」公式 (@bleach_movie) | Instagram
- 「BLEACH」作品情報
©久保帯人/集英社 ©2018映画「BLEACH」製作委員会
- 佐藤信介(サトウシンスケ)
- 1970年9月16日生まれ、広島県出身。大学在学中に脚本と監督を手がけた短編映画「寮内厳粛」が、ぴあフィルムフェスティバルでグランプリを受賞した。2001年に「LOVE SONG」で長編監督デビュー。「GANTZ」や「図書館戦争」といったシリーズで知られ、「アイアムアヒーロー」では世界三大ファンタスティック映画祭にてグランプリを含め5冠を達成。2018年公開作「いぬやしき」ではブリュッセル国際ファンタスティック映画祭にてグランプリに輝いた。
- 早乙女太一(サオトメタイチ)
- 1991年9月24日生まれ、福岡県出身。大衆演劇「劇団 朱雀」二代目として4歳で初舞台を踏み、全国で舞台を行う一方で、2003年に北野武監督の映画「座頭市」出演をきっかけに一躍脚光を浴び人気を博す。舞台やドラマ、映画など活動は多岐にわたり、主な出演映像作品には「ふたがしら」「信長燃ゆ」「22年目の告白ー私が殺人犯ですー」「HiGH&LOW」シリーズなどがある。2018年にはAbemaTVオリジナルドラマ「会社は学校じゃねぇんだよ」に参加したほか、「泣き虫しょったんの奇跡」の公開を9月7日に控えている。
- 下村勇二(シモムラユウジ)
- 1973年生まれ、鹿児島県出身。倉田アクションクラブを経てフリーのスタントマンとして活動し、「VERSUS ヴァーサス」でアクション監督デビュー。ドニー・イェンに師事したのち、現在は映画、CM、ゲームなどのアクションを演出している。「GANTZ」「図書館戦争」といったシリーズや「アイアムアヒーロー」「いぬやしき」など、佐藤信介の監督作に多く参加。アクション映画「デス・トランス」「RE:BORN リボーン」では監督も務めている。
2018年7月27日更新