宮沢氷魚が語る「ビューティフル・ボーイ」|離れたからこそ大切さを感じられる、父と子の強い愛

ターニングポイントには、必ず父がそばにいた

「ビューティフル・ボーイ」

──印象的だったシーンについてもお話を伺いたいです。

1つだけ選ぶのは難しい……! 父親のデヴィッドがニックをリハビリに初めて連れて行く場面が印象的です。リハビリを受けると思い切ったニックの姿や、彼を後押ししようとするデヴィッドの決断には感動しました。とはいえ、息子を手放してほかの人に託さなければならないので、あのシーンはニック本人よりもお父さんのほうがつらいのでは……。僕はアメリカの大学に行くため家を出るときに、成田空港で悲しくなって涙をこぼしちゃって、それを見た母も号泣したことがあったんですが、当時のことを思い出します。ほかには、ニックがデヴィッドに「頼むから家に入れてくれ」とお願いするけど拒否される場面も記憶に残っています。パワフルなシーンがたくさんありますよね。

──なるほど。空港といえば、劇中にもニックがデヴィッドに見送られながらロサンゼルスにいる母のもとへ旅立つ場面がありましたね。

あの場面の「everything(すべてをこえて愛してる)」というセリフがいいですよね! 映画の中では父と子の別れや再会が繰り返されますが、離れたからこそ相手の大切さを感じられるというテーマがそこに含まれているように思えました。

宮沢氷魚

──本作は父と子の“愛と再生”の物語と言えますが、親子の絆をとりわけ強く感じた場面は?

ダイナーでニックとデヴィッドが顔を付き合わせるシーンですね。ニックが別人みたいになったことに混乱しつつも、どんな手を使っても彼とつながりたいと願うデヴィッドの必死さに、息子への愛情を感じます。大切にしている息子が自分の手からどんどん離れていく恐怖や悲しみが繊細に表現されていて。20回くらい撮り直していると聞いて、監督やキャストの「リアルさを出したい」という思いが詰まったシーンなんだなと思いました。

──映画の話からは少し逸れますが、宮沢さんご自身がお父さん(アーティストの宮沢和史)との絆を感じた経験についてもぜひ聞かせてください。

父は仕事柄家を空けてることがほとんどでした。だけど、人生のターニングポイントに差し掛かったときは、必ず父がそばにいたなと振り返ってみて思います。この仕事を始めるときに最初は反対していましたが、僕がやりたいと言ったときには一番応援してくれて。父は思いをあまり口に出さないタイプだけど、僕が悩んでいるときは欲しい言葉をくれるし、お互いにちょうどいい距離感を保ちつつも、本当に必要なときには近くにいてくれる存在です。

──そうなんですね。迷いがあったときにかけられてうれしかった言葉は覚えていますか?

初めてドラマに出演したときに、不安で台本から離れられず落ち込んでいたら「自分が持っている力を信じて。それ以上のことをする必要もないし、しようと思ったら空回りするから」と言ってもらえてかなり救われました。「自信を持て」「謙虚にいなさい」は、いまだに会うたびに言われます。

──映画の中には、親子で音楽やサーフィンを楽しむ和やかなシーンも登場します。宮沢さんは親子共通の楽しみはありますか?

釣りに行くことですね。小さな頃から奥多摩、上野原、山梨あたりに毎年行っていて。釣りは会話がほぼないところがいいんですよ。魚がおびえて逃げないように、朝から夕方までなるべく静かに釣り糸を垂らして、帰りの車の中でやっといろいろと話すというほのぼのとした感じを楽しんでいます。

どの映画よりも親子の愛を強く感じる

──本作のタイトル「ビューティフル・ボーイ」は、ジョン・レノンが息子に向けて作った同名曲から取られています。劇中にはニルヴァーナやニール・ヤング、シガー・ロスなどの曲も。映画に使われた音楽の印象はいかがでした?

宮沢氷魚

セリフだけじゃなくて音楽からも伝わるメッセージがありましたね。音楽でもニックの物語を語ろうとしているんだなと。もちろんみんなが知っている名曲もたくさん入っているので、そこも楽しめる要素の1つになると思います。

──ちなみに、俳優仲間にこの作品をオススメするとしたらどなたを選びますか?

菅田将暉くんやマッケン(新田真剣佑)は間違いなく楽しめるだろうなあ。菅田くんはどんな役でもできる演技派なところがティモシーさんと似ていると思います。マッケンは、映画にも出てくるロサンゼルスに縁があるから、自分の知ってる場所を見るとほっとするんじゃないかな。彼と一緒にいるときは英語で会話をしたり、アメリカの懐かしい話をして盛り上がるんです。

──最後に、映画の公開を楽しみしている人に、この作品をオススメしていただけますか。

これまでに観たどの映画よりも、親子の愛を強く感じました。でもそれを全面的に押し出しているのではなく、父と子の苦悩などいろんなテーマがさりげなく描かれている。観る人それぞれがいろんな観点で楽しめる作品だと思います。

宮沢氷魚(ミヤザワヒオ)
1994年4月24日生まれ、アメリカ・サンフランシスコ出身。2015年よりMEN'S NON-NO専属モデルとして活動し、2017年にテレビドラマ「コウノドリ」で俳優デビュー。2018年7月には藤田貴大演出の舞台「BOAT」で初舞台にして初主演を務めた。そのほか、ドラマ「僕の初恋をキミに捧ぐ」にも出演。2019年5月3日には「映画 賭ケグルイ」が封切られ、5月から6月にかけては出演舞台「CITY」が埼玉、兵庫、愛知で上演される。