ドキュメンタリー映画「
伝統的な鮭漁・マレプ漁をはじめとしたアイヌ文化を継承し、“アイヌプリ”(アイヌ式)を実践する人々を記録した本作。北海道・白糠町で生きるアイヌのシゲこと天内重樹が、祖先から続く漁の技法や文化を次世代に伝えていくさまが捉えられている。
撮影のきっかけを尋ねられた福永は「『アイヌモシリ』を撮っていた時期にシゲさんと出会いました。シゲさんの記事を読んだことがあって、いつか鮭漁を見てみたいと言ったら、いつでも来ていいよと答えてくれて。『アイヌモシリ』の撮影後にそのまま白糠に行って夜の鮭漁を見学させてもらいました。真っ暗な中で友達とはしゃいでいて、肩肘を張って伝統文化をつなげようということではなく、好きで楽しくやっている姿が印象に残ったんです。ドキュメンタリーの話をしたところ『面白そう、やろうか』と言ってもらえたので2019年秋から撮り始めました」と述べる。
天内重樹は「(撮影を承諾するときは)ほぼ何も考えず、ただ面白そうじゃん!と。こういう映画ができて、いろんな気持ちが込み上げて泣きそうになりました」と笑顔で話し、天内基輝は「壮志くんは父ちゃん母ちゃんと仲良くしている人という感覚だったので、監督と呼ばれているのを聞いて初めて映画監督なんだと実感したくらいです」と自然と親しくなったことを伝える。それを聞いた福永は「皆さん懐の深い方々で、迎え入れていただきました。友達の家に遊びに行くような感じでスタッフも少人数。今も皆さんと友達です」と絆を育んだ様子を見せた。
本編からカットするかどうか悩んだという鹿の解体シーン、エムシリムセ(剣の舞)のシーンにも触れる。福永は「撮影中から編集を始め、終わってからも長い時間編集しました。和人の監督として、アイヌを題材にすることの繊細さを実感していたので、撮っているときからアイヌを美化したり偏見を助長しないようにとは考えていました。ですが編集に入り、その線引きがとても難しいと感じたんです。例えばエムシリムセのシーンではアイヌの着物を撮影のために着てもらったんですが、本当は晴れ着なので特別な日にしか身に付けない。いい映像にはなったのですが、僕が美化させてしまったんじゃないかと思っていったんカットしました。そのあとシゲさんたちに映像に問題がないか見せに行ったところ、逆に『あのシーンはどうしたの? よく撮れてたじゃん』と聞かれまして。悩んでいたことを正直に話したら『かっこいいんだから入れてくれよ』と。それで最終的に入れましたが、線引きというものは対話の中でしか決められないと実感しました」と説明。天内重樹が「映画でみんなに見られるなら、かっこいいところを見ていただきたいなと(笑)。一生懸命踊ったけど、ちょっと下手くそだな、まだまだだなと思わされました」とジョークを交えて話すと、天内基輝は「実際の踊りのほうが上手」と称賛して父を喜ばせる。
また天内重樹は「撮影中、鹿がなかなか獲れなくて。映画ではまるで凄腕ハンターのように見えるかもしれませんが、なかなかあんなことはないんです」と言い、福永も「何回もトライしてやっと撮れた幸運なショットでした」と振り返る。流れる血や解体するさまがしっかり映っていることについて福永は「自分が手を汚さなくてもきれいなお肉や魚を食べられる時代ですが、その裏で誰かがちゃんと手を汚して生き物を殺して、それが食卓に来るんです。便利な生活をしていると忘れがちですし、見たくない人もいるかもしれないですが、あのシーンをしっかり見せることで“そういうものなのだ”と伝えたい。アイヌの精神の中に、ちゃんと(生き物などに)感謝するというものがありますし、最終的に見せることにしました」と語った。天内重樹も「自分で食べるものは自分で獲るという教えで育ってきました」と口にする。
第37回東京国際映画祭へ天内重樹・基輝とともに参加した福永。「アイヌの出演者が監督と一緒にあの舞台に立ったのは初めてだと思います。シゲさんたちもアイヌの衣装を着ることを選んで参加してくれました。映画を通してアイヌの人々の発言の機会を設けられていることがうれしい」と述べ、「実は次回作がもうあるんです。熊送りの儀式をしました。何十年もやられていない儀式だったんですが、今回はシゲさんから『記録できないか?』と相談されて。9月の連休に撮影して、長編か中編かわからないですが、これから編集します」と明かし、期待をあおった。
「アイヌプリ」は東京・ユーロスペースほか全国で順次公開中。
※マレプ漁の「プ」は小文字が正式表記
※「アイヌモシリ」の「リ」は小文字が正式表記
※エムシリムセのエムシの「シ」、リムセの「ム」は小文字が正式表記
※記事初出時、一部記述に誤りがありました。お詫びして訂正します。
ドキュメンタリー映画「アイヌプリ」予告編
福永壮志の映画作品
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