松重豊がアキ・カウリスマキの映画術に感嘆、「枯れ葉」主演アルマ・ポウスティとトーク

アキ・カウリスマキ監督作「枯れ葉」の先行上映が本日12月6日に東京・ユーロライブで行われ、主演を務めたアルマ・ポウスティがフィンランドから来日。カウリスマキ作品の大ファンである俳優・松重豊とともにトークイベントに登壇した。

「枯れ葉」は孤独を抱えながら生きる男女が、人生最初で最後のかけがえのないパートナーを見つけようとするさまを描く心優しいラブストーリー。「TOVE／トーベ」などでも知られるポウスティがアンサを演じ、彼女と惹かれ合うホラッパにユッシ・ヴァタネンが扮した。

“とんがりリーゼント”で初対面

偶然にも本日12月6日はフィンランドの106回目の独立記念日。初来日を果たしたポウスティは「皆さんと特別な日を祝えてうれしいです」と声を弾ませ、「今日初めてカウリスマキ映画をご覧になった方には『おめでとう』と言いたい。ほかにもたくさんの作品があるので、これから楽しんで」と呼びかける。ここで松重が花束を持って壇上へ。カウリスマキによるロックバンド映画「レニングラード・カウボーイズ」シリーズ風の“とんがりリーゼントヘア”で登場した松重は「こういった席でしゃべるのは本当に苦手なんですけど、アキ・カウリスマキの作品だけは髪をおっ立ててでも駆け付けたいと思いました！ とにかく大ファンでございます」と熱弁。「アルマさんにこんなに笑っていただけて幸せです」と胸をなで下ろす松重に、ポウスティは「Fantastic!」と笑顔を向け、和やかな空気で対談が始まった。

よくぞ戻ってきてくれた

2017年に引退宣言したカウリスマキの最新作にして復帰作となった「枯れ葉」。松重は「一度引退なさった監督が、もう1回作るのは日本も同じ（笑）」と観客の笑いを誘いつつ、「どんなテイストの作品になるのかと思ったら、僕の一番好きな3部作『パラダイスの夕暮れ』『真夜中の虹』『マッチ工場の少女』に連なるということで。ユーモアと音楽に満ちあふれている一方、ラジオからたびたび流れるウクライナのニュースに、現実を目の当たりにしなきゃいけないとも思わされて。よくぞ戻ってきてくれたと、本当にうれしくて仕方ないです」と喜びをあらわに。ポウスティは「（戻ってきたのは）私も驚きましたが、一番驚いたのはアキ自身だと思います」と言及。カウリスマキ作品には常連俳優が多く出演しているが、「私たちのような新しい俳優を迎え入れて作品を撮ったのは本当に素敵なこと」とも述べ、「撮影はとても速かった。去年の9月に撮影を始めて、今年の6月にはカンヌで上映。監督に言わせると勝手に指が動いて脚本が完成したそうです」と伝えた。

「人生で出会った中で一番短い脚本」

ここで松重から「カウリスマキ監督の作品にどういうイメージを持たれていましたか？」と質問が。ポウスティは「彼はレジェンド。自分が生きてきた中で常にそこにいて、彼の映画をずっと観てきました。彼は深いヒューマニズムを持っていて、小さきものへの愛がある。独特のスタイルで誰もまねできない。ひと目観れば彼の映画だとわかる。そんな印象です」と語る。松重はうなずきながら「世の中がどんどんわかりやすい方向に流れて、ファストなものを要求されるけど、（カウリスマキ作品は）それとは逆行するよう。本作も81分に凝縮された物語がある」と述べ、「言葉で説明したり過剰な演技をしたり、そういうことじゃない表現に満ちあふれていて、『まだ僕らが信じている表現が世界のどこかにあるぞ』と思える。多くの作品を観るほうじゃないですが、アキの作品を観ると、この方向で間違いじゃないと思えるんです」と役者の視点からカウリスマキ作品の魅力を口にする。ポウスティが「アキは沈黙の巨匠。そして1行のスーパースターなんです」と例えると、松重は「台本ってどれぐらいなんですか？ 早口でしゃべれば15分で終わっちゃうセリフの量ですよね!?」と前のめり。ポウスティは「人生で出会った中で一番短い脚本」だとし、「素晴らしい文学。慎重に選ばれた言葉が使われていて、足すことも引くこともできないぐらい凝縮されていました」とうっとりしながら振り返る。「でも1つだけ書かれていなかったのはウインク。撮影のときにアキが『やってくれ』と言ったんです」と笑顔で打ち明けた。

現場の様子は？演技の方法は？

松重は「現場の様子も知りたい」とさらに質問を重ねる。ポウスティいわく演出はフリーではなく考え抜かれており、「とにかくセリフを覚えてこい。でも練習するな」と指示されるそう。またほとんどのシーンがワンテイクで撮影されているため、ポウスティは「俳優としては怖い」と吐露。さらにカウリスマキが現場でモニタを使わないことにも触れ、「一度カメラをのぞいて照明や小道具の位置を自分でチェックしたら、カメラの横に座ってワンテイクで撮る。あとからモニタはチェックしない。何が撮れているのかわかっているからです」と説明する。松重は「その緊張感は僕も大好き」と共感し、「カウリスマキ作品では、俳優たちが無表情のような少ない信号で心の動きを観客に見せます。そういった演技教育は日本ではあまりないんですが、フィンランド人特有の表現方法があるんでしょうか？」とさらなる質問を。ポウスティは「アキの作品では、ミニマルに見える中にたくさんの感情や人生が詰まっている。彼は沈黙に対する信頼が大きく、同時に観客にも解釈の余地を与えている。その表現は幅を広げるというより、深く突き詰めていくもので、俳優としては興奮する経験です」と答え、その後も興味津々で話を聞いていた松重は「演じる側も共犯関係になってるんでしょうね。カウリスマキ自身に人間的な深みがあるんだろうなと感じて、やっぱり好きだなと改めて思いました！」と満足げな笑みを浮かべた。

北野武の現場に通ずるものがある

さらにポウスティから「アキのようなオールドスクールな撮影の経験はありますか？」と質問が投げかけられる。松重は「北野武さんもたぶん近い」と答え、「『テストよりも（カメラを）回していこう』という感じ。僕がテレビの作品に出るときも『何が起きるかわからないから、そこをみんなで楽しもうよ』という作り方をしようとしています。テストを重ねて固まる芝居もあるけど、1回の新鮮さが面白い。そういうものを切り取って映画を作り、究極的にはドキュメンタリーに近いものになればいいと思っているので。アキが考えていることとつながっていると思い、非常に合点がいきました」と話す。司会者から「カウリスマキ作品に出演できるのでは？」と声を掛けられると、松重は「旅費から何から全部出して行きますよ。セリフがなくても大丈夫。バーのウェイターでもなんでもいいです！」とやる気十分。ポウスティも手招きのジェスチャーをしながら「もう髪型の準備ができてるじゃないですか！」と大歓迎した。

「枯れ葉」は12月15日より東京・ユーロスペースほか全国で公開。

アキ・カウリスマキ監督作「枯れ葉」予告編