劇場版「SHIROBAKO」特集 堀川社長対談4番勝負 第3回 P.A.WORKS 堀川憲司×サンジゲン 松浦裕暁|「アカデミー賞に近づくには、1000人の組織を作らなきゃいけない」

作画とCGは鉛筆とマウスの違いだけ

松浦 それと「SHIROBAKO」の作中作「第三飛行少女隊」の戦闘機を見ていて、昔「ストラトス・フォー」(※)を作っていたころを思い出しました。そこでアニメーターの山内則康さんと一緒にずっと仕事してたんですけど、2人で夜中に紙飛行機を飛ばしてたんですよ。

※「ストラトス・フォー」……2003年に放送されたTVアニメ、およびその後に発売されたOVA。パイロット一家に生まれ、言われるままにパイロットになった少女が、「宇宙に行く」という目標を見つけて努力を重ねていくSF作品。

堀川 (笑)。

松浦 紙飛行機を飛ばすカットを僕が担当していたんですけど、監督から「お前はわかってない」と何十回もリテイクがきて。そんな地獄のようなときに、暗い部屋に2人で「どうすればいいんだろうね」って言いながら紙飛行機を投げてみていました。山内さんは手描きの人ですけど、そのときにずっと「俺は3DCGのように描きたいんだ」と言っていたんですよ。「ありのままを描きたいけど描けない。CGが羨ましくて仕方ない」って。

──それは動きの部分ですか?

松浦 そうです。でもCGを作る側としては、動きがリアルなのはソフトがシミュレーションしてくれるから当然なんですよ。ただ、それだけではカッコよく見えない。アニメで強い印象を残すためにはフィクションも必要なので、そういった部分をアニメーターの方々から学んだつもりです。

堀川 逆に、特にレイアウト(※)に関してはCG頼みになっていますよね。よく出てくる舞台をモデリングしてそれを参考にするという。そのおかげで「アニメーターがレイアウトを描けなくなった」と言われています。本当はそこでアニメーターを育成するシステムが必要だけど、それをやっていると1日数カットしかレイアウトが上がらず、さらに作画監督や演出が修正して……なんてやっていると、どう考えてもTVアニメのスケジュールには乗らない。

※レイアウト……絵コンテをもとに、キャラクターの配置や背景といった画面の構図が描かれたもの。

松浦 そうですよね。

堀川 だから最近は、アニメーターがレイアウトよりキャラクター芝居に注力する流れになっていってますよね。うちもCGオペレーターがモデルを作り、ディレクターがレイアウトを決めていますが、そのレイアウトを決めるセンスはもう一度アニメーターに取り戻したいと考えています。

松浦 CGがどれだけ進化しても、作画も絶対に必要なんですよね。うちで最近よく起きているのは、例えば衣装を替えたちょっとしたカットを作るとき、作画だと1カット2カットなら「原画マンにお任せ」で描いてもらうことができるけど、何を描くにもモデリング作業が必要なCGだと対応できない。キャラクター1体を作るのに200万円くらいかかって、1カ月半から2カ月くらいの期間が必要ですけど、1カットのためにそのモデルは使わないですよね。だからそういう場合は、社内のデジタル作画の人にモデルの上から描いてもらったりしています。

──そういった、作画でフレキシブルに対応できる人も必要だと。

松浦 はい。手描きがなくなったら僕らは作品が作れませんよ。

堀川 うちはまだデジタル作画を導入していませんが、それは現段階では1話に関わるアニメーターの人数が多くて、しかも使用するツールがバラバラで効率が悪いからなんです。例えば5人のデジタル作画チームで作監や演出も含めて1話を作れるような現場があれば、ぜひトライアルとしてやってみようと話はしています。

──「SHIROBAKO」内での作画とCGの話は、互いのよさを認めて活かし合おうという結論でしたが、両社ともアプローチは違えど同じような感覚をお持ちなんですね。

松浦 そう。鉛筆とマウスの違いだけなんですよね。

堀川 CGに抵抗のあった世代もいるけど、若い世代だとほぼないですしね。

──近年はサンジゲンが志向していた、CGキャラクターを使ったアニメも増えていますよね。何か要因があるのでしょうか?

松浦 まあ発注者がいるからですが(笑)。2012年に、うちが作った「009 RE:CYBORG」という劇場アニメが公開されましたが、僕はその当時から「TVシリーズを作らなきゃだめだ」と思っていたんです。「CGでTVシリーズを作れるんだ」と作り手側に思ってもらわなければ、今後は会社として成長できないだろうと。そして実際に2013年にうちの「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」が放送されてから、CGを使った作品が増えた気がしますね。あとはキャラクターのCGを作れる会社が増えたのもあるでしょうし。

堀川 作画に比べるとCGはまだ少し違和感がありますけど、今のご時世では大きくキャラクターが崩れない安心感のほうが大きいですよね。

松浦裕暁

松浦 CGだとイキイキさせるのが難しいんですけどね。

──「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」以外に、近年のアニメ業界にとって転機になったと思われるCGアニメ作品はありますか?

松浦 うちの作品以外だと「てさぐれ!部活もの」でしょうか。アニメでラジオ番組をやるなんて。

──2011年の「gdgd妖精s」から続く流れですよね。先に収録した音声に合わせて絵を作るプレスコ方式で毎週放送するなら、モデルさえあれば作画より早く仕上げられるCGのほうが向いているという。

松浦 あれは発明でしたね。

アニメ制作は群像劇に向いていた

堀川 「SHIROBAKO」のTVシリーズは5年くらい前の作品だから「CGか作画か」なんて話だったけど、今作ったらそんなテーマにはならないでしょうね。“ヨジゲン”という架空の先進的な会社が出てきて、「CGならこんなすごいことができる」という話になっていたかもしれない。その一方でムサニみたいな、床で人が寝ているような昔ながらの会社がドタバタする様子を対比させるとか。

松浦 僕も昔は1週間帰らないとかあったし、机の下で寝てましたけどね(笑)。

──先ほど見学した限りでは、床で寝ているようなイメージがまったく浮かびません。

松浦 うちは22時以降に会社にいちゃダメ、土日も来ちゃダメにしています。

堀川 最近は政府による働き方改革の流れもあって、業界全体がそういう方向に動きつつありますよね。ただあの「深夜にノッてきたときにずっと作業していたい」というクリエイターの気持ちもわからなくはない。

松浦 気持ちはわかるけど、経営者としては「そうだね、わかったよ」とは言えないんですよね(笑)。

──TVシリーズの放送から約5年が経っての劇場版ですが、TVシリーズと違って大変だったことは何かありますか?

堀川 本当に尺との勝負でした。やりたいことを詰め込んだら尺を何十分もオーバーしちゃったので、物語として着地させるために、スタッフは大変苦労してうまくまとめてくれました。でもやっぱり、あれだけの登場人物の群像劇なので、たくさんのエピソードをたった1本の映画にまとめてしまうのはもったいない気もしました。もし映画の後日譚を考えるのであれば、TVシリーズがよさそうですね。

松浦 「SHIROBAKO」って群像劇としてよかったですよね。多くの人が関わるアニメ制作というテーマもマッチしていて。逆にもし、アニメ制作の中でもシナリオを作る人にだけフィーチャーしていたら、下手したら1部屋の中だけで話が終わっちゃってたでしょうし(笑)。

──松浦さんは劇場版「SHIROBAKO」がどんなものになると予想されますか? 現時点ではTVシリーズから数年後の物語とだけ明かされていますが……(インタビューは1月中旬に行われた)。

松浦 難しいですが、せっかくの劇場版だから、ムサニで劇場アニメを作るんじゃないでしょうか。

──なるほど。

松浦 あとキャラクターたちは成長しているじゃないですか。宮森もTVシリーズの中で制作デスクになったし、そこから数年経ったのならさらに……。

堀川 はい。次はプロデューサーになります。

松浦 ですよね。

堀川 そしてゆくゆくはもっと偉くなって、業界を変える主人公に(笑)。

──とても長いシリーズになりそうですね(笑)。