-
作品紹介
- 歌舞伎界を舞台に、名門の御曹司として生まれながらもやる気のない恭之助と、実力だけで成り上がろうとする一弥、そんな2人が恋をした、歌舞伎を愛するあやめを中心に描かれる物語。嶋木にとって一番の長期連載作となり、2013年にはTVドラマ化された。
-
嶋木あこ
コメント - 「歌舞伎を描いてみませんか」と提案されて始めたものでしたが、「ちゃんと調べて描く」という貴重な経験ができた作品です。調べて描くことの面白さもあるんだなと。初期の頃、歌舞伎の御曹司と呼ばれる方に取材をしたとき、「歌舞伎の楽しみ方を教えてください」と聞いたら「いや、面白くないですよ」とおっしゃっていて。それでも舞台上では「俺が一番」という気持ちでやられていたのが、やっぱり歌舞伎が好きなんだろうなと感じました。そういう部分は「ぴんとこな」につながるところでもあるのかなと思います。
高校生がこの格好で普通に通学している姿が描けたら面白いなと思って描いた絵です。背景は撮影した写真をトレースしているんですけど、周りの乗客は実際に乗っていた人です。手前のおじさんが脚に傘をかけてるところも、なんだか面白いと思ってそのまま描いちゃいました。奥の人も傘を持ってますよね。この日は雨だったのかな。
学校の風景は描き慣れているので、好きなように配置して執筆しています。この頃は背景をしっかり描くのがマイブームだったのかな。タイルもまっすぐ平行に描くよりも少しパースを付けたほうがいいかなとか、いろいろ考えながらがんばって描きましたね。
これは“某部屋”のパロディですね(笑)。歌舞伎役者ってだいたいこの番組に出るんですよ。本編では2人が一緒に舞台に出るという展開だったので、それにあわせてこういうイラストにしてみました。使われなかったけど、本当は番組のテロップとかまで作っていたんです(笑)。司会をこの方にしたのはなんでだったんだろう……マイブームだったのかな。
これは「ぴんとこな」の中でも初期に描いたイラストですね。古典と現代のミックスというネタは、「ぴんとこな」の前に発表した「君は『好き』の代名詞」のカットで初めて描いたんです。和装にメガネというのも意外とそれだけで違和感があるんですよね。着物の柄もあえてはみ出させてみたり。いろいろ考えて描いてたんでしょうね。
この絵は……左半分にコーヒーをこぼしちゃって(笑)。「ヒェッ」ってなったけど、結果としてなんとかごまかせたからコーヒーこぼしてもいけるんだなって思いました。着物も細かく描いてますけど、柄って難しいんですよね。あまり濃く描きすぎても品がない感じになってしまう。このイラストは2人で逃避行するエピソードにあわせてバイクに乗せてみました。「ぴんとこな」ではそうやってエピソードにあわせて絵を考えるのが楽しかったです。
これは最終巻の表紙。これまでは和装が中心だったので、逆に現代に寄せたスーツ姿にしました。この頃は自分の絵が硬い気がしたので、柔らかい印象が出るように主線を筆で描いています。「脚を組むとここからシワが出るんだな」とか、そういう細かいところに気付くようになったのは「ぴんとこな」で写真を見て描くようになってからですね。和装に関しても「月下の君」の頃は資料を見ずに想像で自由に描いていたので(笑)。だからあの頃の絵を今見たら、間違いだらけなんだろうなと思って怖いですね。
-
作品紹介
- イケメンだが童貞の少年マンガ家・乃木篤朗。本人の記憶にはないが、彼は前世で“一生童貞”を誓った僧侶だった。そんな乃木の前にアシスタントとして現れたのは巨乳の花撫。胸を揺らしながら作業する花撫の姿に衝撃を受ける乃木だが、2人の間に前世からの因縁を持ったゲイ・アキラが加わり……。現在もCheese!で連載中。
-
嶋木あこ
コメント - 「ぴんとこな」とは違ったものを描こうとしたらこうなったという作品です。最初こそ見切り発車で始めた部分もあったんですが、歴史って学校だと「○○時代」「××時代」とまったく別物のように習うけど、調べていくと、意外とこの時代に発生したものがこの時代で開花したんだと、つながっているのが面白いなって。このマンガでもそういうものが描けたらいいなと思っています。おっぱいを交えながら(笑)。でも日本の歴史ってエロスなしには成り立たないなって、調べれば調べるほど感じるんです。だから歴史を反映したマンガなんだということを強調したい(笑)。
「ぼくの輪廻」を連載することになってから、初めてこんな巨乳を描きました。この頃はまだ描き慣れていないですね。連載当初は巨乳に詳しいアシスタントさんに「もっと垂れたほうがいいですよ」「そんなに上には向かないです」とか、ダメ出しされながら描いてました。巨乳は難しい。主人公のモノクロのイラストはいわゆる(「新世紀エヴァンゲリオン」の)“ゲンドウポーズ”です。傍から見たらバカバカしいけど、本人にとっては至って真面目だという、作品を象徴するポーズだと思ったので、本編にも出てきた構図を表紙にも採用しました。
この男2人のポージングは、うちにあるポーズ人形にこの格好をさせて描いてます。作中でも何度か描いてますが、慣れるってことはないですね(笑)。主人公の乃木のイラストも、①と同じで作中に出てきたポージングを改めて採用しています。……乃木は、最初の打ち合わせでは「ぴんとこな」の一弥みたいなカッコいいキャラにしてほしいっていう話だったのに、なんでこうなっちゃったんだろう(笑)。
こうやって比べてみると、薄衣の表現が「月下の君」の頃よりも上達しているなと思いますね。薄衣のところはメタリックのインクで上から塗り足しているんです。これは柄を描くのが大変でした。
この和服の柄は自作のトーンをプリントして貼っています。この耳元にある装飾も本当はこんなに細かくないんですよ。だけどこれくらい描かないと格好がつかないので、マンガ的に線を増やしてみました。一番がんばったのは紐の部分。誰にも気付かれないようなところに力を入れてますね。
絵の上達で大切なのは「ちゃんと理解すること」
──デビュー20周年という節目を迎えた今の心境はいかがですか。
言われるまで全然気付かなかったです。最初の頃はあまり編集部に期待されていないんじゃないかと、読み切りを何作か描いたら消えていくのかなと自分では感じていたんです(笑)。それを思うとずいぶん長く描かせていただいたんだなって。(担当編集に向かって)ありがとうございます。
──画業の中で特に印象に残っている出来事はなんでしょう?
「月下の君」を連載していたときに届いたファンレターがすごく印象に残っていて。「私はヒロインの女の子と境遇がすごく似ているので、もしこの作品がアニメ化する際には私を使うといいでしょう」みたいなお手紙と一緒にカセットテープが入っていて、聴いてみたらマンガのセリフを読み上げた音声が入ってたんです。でも全部のキャラクターを1人でやっていたから、何がなんだかわからなかったという(笑)。あとは「あなたはほかの作家よりも画材にお金がかかるでしょうから」と現金が贈られてきたこともありましたね。「私ができることはこんなことしかなくてすみません」と。
──お布施したいタイプのファンの方だったんですね(笑)。ファンの方もそれだけ嶋木さんの画力に注目されていたのだと思いますが、絵は昔から描かれていたんですか?
マンガを描きはじめたのはハタチからで、デビュー前もイラストを描くのは好きだったんですけど、絵の練習らしい練習はあんまりしてこなかったです。デビュー以降は仕事以外で絵を描かなくなっちゃいましたね。原稿だけはとにかく一生懸命に、違和感がないよう必死に描いていたので、そこですべてを出しきってしまって。
──ではこれだけの画力はどうやって培われていったのでしょうか。
画力を向上させるのは、うまい絵を見るのが一番早道な気がします。うまい絵を見て、「どうしてその絵がうまく見えるのか」というのをちゃんと理解すると自分のものになる。ただ見て「うまいな」と思っているだけじゃダメで、理解して描かないと身にはならないのかなと思います。
一見気付かないところまで描き込むのが好き
──嶋木さんが絵を描くときに特に気を付けているポイントは?
手は気を使って描いていますね。清水玲子先生の描く手がすごくきれいで、その影響もあります。あとは「ぼくの輪廻」で巨乳を描くようになってからは、巨乳を描くのって楽しいんだなと思いました(笑)。でも、この間貧乳を描いたんですけど、貧乳のほうがエロいなって。なんでですかね、不思議。いやらしいと思いながら描いてます(笑)。
──描いていて楽しいと感じる瞬間はどんなときでしょう。
最近は、あまり気付いてもらえないようなところをがんばって描き込むのが好きです。この間も一生懸命マフラーの編み込みを描き込んだんですけど、担当さんに「よく見たらすごいね」と言われて、「あ、そっか。よく見ないとわからないところなんだ」と。1枚の絵の中に「これは普通ここまで描かないだろうな」というポイントを作って描き込んでいくのが好きなんです。そういう部分を作らないと描くモチベーションが上がらないんですよね。
担当編集 一時期絵を描くことがあんまり楽しくなさそうな時期がありましたよね。手癖で描けるようになって、それでも「うまいね」と言われちゃう時期がそうだったのかなと。絵を描く楽しさを取り戻したのが「ぴんとこな」だったように思います。
そうですね。「ぴんとこな」では古典と現代のものを組み合わせるというネタを見つけて。そうやって何か1つ、自分で面白いと思えるポイントを見つけられるようになってからはまた楽しく描けるようになりました。そこからは絵に対する集中力も上がったというか、画面の密度も濃くなったと思います。
──今はアナログで絵を描かれているんですか?
アナログとデジタル両方で描いてます。アナログのときはカラーインクをメインに、ガッシュなども使ってます。カラーインクだけだと色味が地味になるので、肌を塗るときはその上からコピックを足すことも。アナログとデジタル、どっちで描くのも面白いですよ。アナログはアナログで達成感がありますし、デジタルも突き詰めていけばやれる幅が広がるから、どんどんこだわっていくこともできますし。「ぼくの輪廻」の6巻の表紙もデジタルで描きました。でもアナログのほうが評判がいいんですよね?
担当編集 現状は、正直言うとアナログの絵のほうが好きです。とはいえ嶋木さんは「手を抜くためにデジタルを使おう」とかそういうつもりでなく、「デジタルだったらこういう表現ができるんじゃないか」とチャレンジしていくことで描く楽しさを見出していく作家さんだと思うので、止める気はまったくないです。
デジタルのほうが印刷したときに画面との差異をあまり感じないので、肌色もきれいに出るし、おっぱいを描くにはいいんですよ。でも今後もアナログ、デジタル、どちらも使っていくと思います。デジタルはまだそれほど慣れてないから、まだそんなに満足したものを描けていないですが。
ただのエロじゃない、「ぼくの輪廻」は歴史マンガ
──改めて連載中の「ぼくの輪廻」について、今後を楽しみにしている読者へメッセージをいただけますか。
繰り返しになりますが、しっかり取材もして、意外とちゃんと歴史を描いている作品なんです。9割本当のことを描いて、1割とんでもない嘘をぶっこんでいるような感じで。なので、ただのエロじゃないということを踏まえて読んでいただけると、また違った面白さがあるんじゃないかと思います。
担当編集 ちなみにエロいマンガだとも思われてない気もします(笑)。
ギャグマンガ? でも本当に、歴史を調べたら「あっ」と気付くことがたくさんあると思うので、ただバカバカしいことをやっているだけではないというのが、読者の皆さんにも伝わるといいなと思います(笑)。
- 嶋木あこ(しまきあこ)
- 1月16日生まれ、千葉県出身。血液型はA型。1999年に「いろはにほへと」でデビュー。2000年にCheese!(小学館)で初連載作となる「むちゃくちゃ大好き。」を開始させる。以降もCheese!を中心に「月下の君」「僕になった私」などの作品を発表。2008年には「となりの守護神」が舞台化。2012年には「ぴんとこな」が第57回小学館漫画賞少女向け部門を受賞。同作は2013年にTVドラマ化もされた。現在はCheese!で「ぼくの輪廻」を連載中。
最近気付いたんですけど、構図が面白くないと描く気が起きないんです。1カ所でも面白いと思えるところがないと手が動かない。このイラストだと和装とヘッドフォンを組み合わせているように、「ぴんとこな」では古典と現代を組み合わせるというネタを見つけたので、どの絵も描くのがすごく楽しかったです。