Cheese! 創刊25周年記念対談 朱神宝と箕野希望が明かす 大ヒット“溺愛”少女マンガ、「コーヒー&バニラ」「恋と弾丸」の舞台裏 Cheese!作家15人からコメントも

いつも私たちの少し前を歩いて、恋のとろけるような甘さと切なさを教えてくれる。今年2021年に創刊25周年を迎えたマンガ雑誌・Cheese!は、そんな素敵な先輩のような存在だ。同誌は「女子には愛される物語が必要だ!」をモットーに、多種多様な物語を毎月紡ぎ続けている。

コミックナタリーでは、現在Cheese!を背負って立つ2大作品「コーヒー&バニラ」と「恋と弾丸」の作者である朱神宝と箕野希望の対談を実施。少女マンガの最前線を走り続ける2人の作家が、自身の作家人生を方向づけた作品から、“溺愛もの”の極意、理想のヒロイン像まで、心を打ち明けあった。さらに最後には、青木琴美や嶋木あこら15人のCheese!作家陣からのコメントも掲載している。

取材・文 / 的場容子

Cheese!との出会いから投稿まで

──まずはおふたりがCheese!で執筆するようになった経緯から教えてください。

朱神宝 私はもともと、小さい頃からCheese!の単行本をよく読んでいました。タイトルや絵に惹かれて買い集めた単行本は、Cheese!のものが多かったんですよね。だから、「ああ、私ってCheese!の作品が好きなんだな」ってなんとなく思っていたので、だったら読んできたマンガ家さんの作品と同じ雑誌に載せられたらいいなと思って、Cheese!に投稿するようになりました。

──時期としては、小・中学生ぐらいの頃から読んでいたのでしょうか? 

朱神 小学生のときには読んでいたと思います。気付いたら、北川みゆき先生やすぎ恵美子先生の作品が好きになっていましたね。

──Cheese!作品にはエッチな描写もあるので、小学生には刺激的ではなかったですか?

「コーヒー&バニラ」より。何もかもが完璧なイケメン社長・深見は、女子大生・リサにいつも直球で愛を表現する。

朱神 そういう部分も含めて好きでしたね(笑)。もともと、「あっ、ちょっとドキドキする!」という描写は、「楽しいなー」と好きで見ていた記憶があります。

箕野希望 私の場合は、特にCheese!を強く意識して投稿していたわけではありませんでした。子供の頃から雑多にいろんな雑誌を買って読んでいたんですが、小学生ぐらいのときから、投稿をしてみたいと思ってペンなんかも扱い出していて。本格的に投稿したいと思ったのが13歳から15歳ぐらいのときでしたが、いざやろうとすると、どんなふうに投稿したらいいかがわからなくて。そのとき、たまたま読んでいた雑誌に投稿ページがあって、「あ、これに沿って投稿したらいいのか」と。その雑誌がCheese!でしたね。

──なるほど。マンガは少年マンガ・少女マンガ問わず読んでいたのですか?

箕野 はい、ジャンルは気にせず、青年マンガも含めてなんでも読んでました。でも投稿すると考えたら、少年マンガは難しいというか……。決して「少女マンガは簡単」と言っているわけではないのですが、少年マンガの世界観は私にはちょっと描けないかも、と思っていました。あと、少年マンガにも恋愛は出てくるんですが、その恋愛部分をもう少し見たいと思っていましたね。なので、自然と「少女マンガを描きたい」と思っていました。

少女たちの心を揺さぶった少女マンガ・少年マンガ

──続いて、デビューするまでの、おふたりの“マンガ遍歴”を教えてください。

朱神 私は少女マンガだと、長編ではなくて読み切り短編集をこぞって読んでいたんです。そこから、少年マンガだと「るろうに剣心」や、少女マンガでは「イタズラなKiss」に出会って、初めて長く続いている作品の面白さを知りました。あと、アニメから入った「ふしぎ遊戯」も大好きでしたね。

──王道ですね。

朱神 はい。それから、もともとギャップがあるキャラクターが好きみたいで。「イタズラなKiss」の入江くんはすごくクールなんだけど、たまに見せる、琴子に対する甘い部分にファーっ!てなって(笑)、そのギャップがたまらなかった。小さい頃から、そうした積み重ねで「私ってこういうキャラが好きなのかも」がどんどん確立していったんだと思います。

「恋と弾丸」より。女子大生のユリは彼氏作り目的で来たあるパーティーで、桜夜組の若頭・桜夜才臣と初対面する。

箕野 私も「るろうに剣心」は小さい頃から読んでいました。兄が2人いるのと、父がすごくマンガが好きな人なので、実家には物心ついた頃からジャンプ作品をはじめとする少年マンガや青年マンガ、雑誌が何千冊とあって。「ろくでなしBLUES」に「BOY」「ONE PIECE」「ダイの大冒険」「地獄先生ぬ〜べ〜」とか……。

──すごい。マンガエリート一家ですね! 

箕野 そうしているうちにヤンキーが好きになって。「ろくでなしBLUES」の(前田)太尊というキャラが大好きでした。学校の番長ですごくカッコよくて強いんだけど、周りが女の子のこととか、ちょっとエッチな話題になると、鼻血を出して真っ赤になっちゃう。私の癖(へき)はだいたいそうしたところで形成されたのではと思っています。

大好きな往年のCheese!作品「キス、絶交、キス ボクらの場合」の衝撃

──キャラクターの話になったところで、往年のCheese!作品から、好きなキャラクターや作品を教えてください。ちなみに、事前アンケートでおふたりが共通して選ばれていた作品は藤原よしこ先生の「キス、絶交、キス ボクらの場合」でした。

朱神 そう! 「あ、箕野先生も好きなんだ!」って、ちょっとうれしかったです。

箕野 そうなんです。やっぱり愛されている作品ですよね。

朱神 私は、Cheese!の増刊号に掲載されていた「キス、絶交、キス 羽鳥の場合」がすごく印象的だったんです。

「キス、絶交、キス ボクらの場合」より。

──真緒(まお)と羽鳥くんの小学生時代から始まる淡い恋愛を描いた2作目で、1作目は真緒からの視点で描かれているのに対して、羽鳥くんサイドから恋の始まりが語られているお話ですね。

朱神 はい。「男の子視点でこれだけ面白く描くって、すごいな!」と思って。「キス、絶交、キス」って、男の子の描写がリアルで、キャラクターとしてはもちろん、エピソード自体もそう。すごく些細なことなんだけど、男子のリアルが詰まっているのがすごい。男の子の小学生や、中学生時代の成長過程がとっても魅力的なんです。「羽鳥の場合」の後にはまた女の子視点の話で読ませてくれて、キャラクターはもちろん、物語がすごく魅力的だったんですよね。普通の一読者目線で、すごく好きだった作品です。

──最初の短編は2001年に掲載されたものですが、男女の視点がかわるがわるで語られていて、今読んでも新鮮です。

朱神 読んで、「私も男の子のキャラクターで描きたいな」と思ったんですが、今も「いやあ、意外と難しいはず」と思っています。

箕野 私はそもそも少年マンガのヤンキーがすごく好きという点で、羽鳥という不良のキャラクターに惹かれました。あと「少年誌の恋愛パートがもっと見たい!」という思いがあったので、それが具現化された少女マンガだなと思ったんです。当時、すごくハマりましたね。不良の男の子の中にある繊細さの描写とか、ギャップが効いていて「かわいいなあ」って思ったり。私は当時10代だったのですが、編集者さんからも「藤原先生はネームがうまいから見たほうがいい」と言われて、すごく参考にさせてもらっていました。

「私の…メガネ君」“ホラー寄りの溺愛”の魅力

──続いて、これまで、おふたりが「このキャラのせいで性癖をこじらせた!」と思う作品があれば教えてください。

朱神 いわゆる“溺愛もの”って今すごく多いと思うんですけど、すもと亜夢先生が描かれている「私の…メガネ君」というCheese!の作品があって、そこに出てくるメガネ君は、「ちょっと変態だろ……」というほどのヒロイン溺愛っぷりなんです。あのキャラクターは好きでしたね。

──メガネ君は今でいう“ヤンデレ”っぽいキャラですよね。

「私の…メガネ君」より。

朱神 そう。ちょっと行き過ぎると危ない人になっちゃうくらい、ヒロインの蝶子のことをめちゃくちゃ好きで。読んでいて、怖くて「ヒイっ!」ってなっちゃうような感情が、性癖……と言うと変なんですけど、ゾクゾクしていましたね。

──恋愛マンガですが、メガネ君が蝶子に迫る際などの、ホラーマンガのような描写がすごく斬新でした。

朱神 うんうん、「ホラー寄りの溺愛」みたいなお話でしたね。ホラーと溺愛が好きな人は読んだほうがいいんじゃない?っていう(笑)。

箕野 ……またしても朱神先生とかぶっちゃいました(笑)。

朱神 おお、そうなんですね!

箕野 あれはホラーですね(笑)。私、黒縁メガネ男子も大好きなんですが、その性癖は「私の…メガネ君」でできてしまったほどで、大好きな作品です。メガネ君はだいぶヤバいです。だけど、それを「ヤバいだけ」と思わせないような魅力がメガネ君にはある。かなり重たい愛だし、彼の変態性がヤバすぎて、「少女マンガでこんなヒーロー見たことない!」と衝撃を受けましたね。私の“ヤバいくらいの重たい愛”という性癖も、メガネ君で形成されたと思ってます。