コミックナタリー Power Push - マーガレットコミックス特集 あの頃も、これからも!一生少女マンガ宣言 第12回 椎名軽穂「君に届け」
“孫”みたいにキャラクターを愛でる
恋愛よりも友達同士の行き違いのほうが描いていて苦しい
──ここまでを振り返ってみて、特に印象に残っているエピソードを教えてください。
先ほどお話ししたあやねとケントのラスト、最近の千鶴と龍のくだり、風早と爽子のくっつくところや初キスシーン……そういう山場は、やっぱり「うまく描けるかな?」という気持ちが大きいし、印象に残っていますね。2巻で爽子とあやね、千鶴が行き違うエピソードは描いていて苦しかったです。
──誤解からすれ違ってしまうところですね。みんな相手のことを思っているのに、うまくいかなくてハラハラしましたし、つらかったです。
恋愛の行き違いは描いていてそんなに苦しくないですけど、友達同士であれこれ……というのはやっぱり苦しくて。描いてる途中で爽子の感情が自分に流れ込んできて涙が止まらなくなったりしました。私は、あやねと千鶴が爽子へ不信感を抱くように描くつもりだったんですけど、あやねと千鶴は(休み時間のたびにいなくなる爽子に対して)「いや、避けてるんじゃなくてゴミでも拾ってるんじゃない?わけわかんない貞子の中だけのゴミ拾いの日とかでさ!」とか爽子を信じようとするので、なんか助けられたなーと思います。
──行き違いの後で、「友達ってね、気づいたらもうなってんの!」という名ゼリフも生まれましたね。
あと描いていてつらかったのは、龍のお母さんが亡くなるくだり。あんまり人の死を描くのはなあ、と思っていたので、だいぶサラっとした描写だったと思いますが、それでもやはりきついですね。私自身が親の死を経験していなかったら描かなかったかなと思います。人が死ぬと、時間差でたくさんの人が家にやってきて。ずっとその場にいるとだんだん感覚がマヒしてくるというか……先に来ている人は談笑とかしているんですよね。でもそれが悪いわけじゃなくてそういうものだなって思って。人の死を描くなら、そういう自分で感じたところは描写しないとダメだなと思って描きましたけど、やっぱりきついですね。
── 椎名先生の経験もあってのシーンだったんですね。前作「CRAZY FOR YOU」は、複雑な関係性から生まれる生々しい感情が心に響く作品でした。今振り返って、どんな作品だったとお思いになりますか?
習作という感じが強いんですが、「CRAZY FOR YOU」なしでは「君に届け」はなかったので描けてよかったなと思います。「君に届け」に生きている部分がとても多くて。読む人の現在の状況によってもずいぶんと印象の変わるマンガだと思うんですよね。恋愛未満なのか、片思い中なのか、横恋慕中なのか、彼氏がいるのかいないのか……。だから中学生のときに読んで面白いと思ってくれたとして、高校や大学で「なんでこんなことでぐだぐだやってんの?」みたいな感想になったりもすると思うんです。大人になって、自分の恋愛と離れて読んだら「ああ、少女マンガだねえ」みたいな、そういう感じで読んでもらったとしても、なんかいいなーって思います。「なんだよこいつらめんどくさいな!」とか、好きに楽しんでもらえたら。めんどくさいのは「君に届け」も一緒ですけどね(笑)。
少女マンガってほんといいな!って
──今回、ブックパスのキャンペーンでマーガレット、別冊マーガレットの作品がたくさん読み放題になります。椎名先生が特に影響を受けた作品はありますか?
いくえみ綾先生の「天然バナナ工場」と「ベイビーブルー」はなんというかこう、自分の思春期にびたはまりでしたね! すごく新鮮な気持ちになれて、胸がざわつくっていうか。あの時期に読めたことがすごくよかったなというか……思春期に好きだった作品は、宝物みたいな感じです。今でももちろん大好きだし、ああいう雰囲気をいつも求めてるようなところはあります。なかなか自分の作品に還元はできていませんが。くらもちふさこ先生の「東京のカサノバ」はちい兄ちゃんがかっこよくて! あの余裕のある、飄々とした色気が……でも余裕がなくなるときもあって、そこがまたよくて。「少女マンガってほんといいな!」っていう。やっぱり全く還元されていませんが(笑)。紡木たく先生の「瞬きもせず」は、あの思春期特有の感じがもう……。お父さんがね! ビールをこぼすんですよ!
──好きな男の子のバイト先のファミレスで、お父さんがビールをこぼしてしまって、いたたまれなくなるというくだりですね。
あの感じがわかりすぎて……。あとやっぱり、紡木先生の描かれる日差しが! 日差しが胸をキュッとさせますよね……! 夜の感じにもキュッとなります。あきのかな先生の「メープルシュガー」もすごく好きです。雑誌でも単行本でも何回も読み返しました。心がじーんと温かくなるんですよね。モノローグがまた素敵で。素敵な映画を観るような感覚に近かったと思います。あとは栗生つぶら先生のマンガも透明感があって、男の子も女の子もマンガの中の都合のいい存在じゃなくてリアルなんです。かわいらしい絵柄と詩的なモノローグやタイトル、リアルな人物描写のファンで、中でも女の子2人が主人公の「花柄」は特に好きでした。
──ほかにお好きな作品はありますか。
連載1回目のインパクトの強いマンガはやっぱり面白くて。「先生!」や「イタズラなKiss」「ラブ★コン」「I LOVE HER」は1回目から「わー大型連載始まったー!」と思ってわくわくしました。どの作品も、キャラクターや設定が魅力的で。「悪魔で候」もそうですね。あと「恋愛カタログ」はするする読めて本当すごいですよね。たまたま別マがそこにあって、ちょっとパラパラしようかな……なんてときも、気付いたら読んじゃってるんですよ(笑)。気負わなくても気付いたら読んでいて楽しいっていう、マンガの理想みたいな作品だと思います。
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椎名軽穂(シイナカルホ)
10月23日北海道生まれ。1991年、別冊マーガレット(集英社)にて「君からの卒業」でデビュー。同誌での読み切りを活動の中心にしていたが、2003年に長期連載「CRAZY FOR YOU」が開始すると、天然で冴えないヒロインが懸命に恋する姿が読者の共感を呼び話題に。2005年、同誌にて「君に届け」を読み切りとして発表。好評を受け翌年より連載開始となった。陰鬱な外見とは裏腹に純粋なヒロインに魅せられたティーンエイジャーが続出し大ヒットを記録。2008年度第32回講談社漫画賞少女部門を受賞したほか、アニメ化、実写映画化もされた。
2016年1月22日更新