コミックナタリー Power Push - マーガレットコミックス特集 あの頃も、これからも!一生少女マンガ宣言 第11回 佐藤ざくり「マイルノビッチ」「たいへんよくできました。」
“這い上がる女子”の描き応え
「マイルノビッチ」の佐藤ざくりが、マーガレット(集英社)にて2014年より連載してきた「たいへんよくできました。」は、不登校なぼっち女子の奮闘を描く物語。11月5日発売のマーガレット23号にて、完結を迎える。
コミックナタリーではこれにあわせ、佐藤にインタビューを実施。同作で描きたかった主人公像とともに、過去作「マイルノビッチ」や「おバカちゃん、恋語りき」などでも、マイナスからスタートする女子を描いてきた理由を聞いた。
取材・文 / 岸野恵加
「高校って楽しいんだ」と思ってくれたらいいな
──マーガレット23号で完結を迎える「たいへんよくできました。」ですが、もともとは「学校の中でお話を展開させよう」という考えから始まったそうですね。
「マイルノビッチ」ではキャラクターが学校の外に出てばかりだったので、今回は学校の中での出来事をちゃんと描こうと思いました。最初は全然違う話だったんです。学校のカーストの一番下になっちゃった男の子を女の子が助けて、一番上まで引き上げる……っていうのを考えてたんですけど、軌道修正してたらこうなった感じですね。恋愛よりは、友達関係をメインに描こうと思ってました。
──主人公のぼたんは小・中学校と不登校、友達ゼロの“ぼっち女子”です。
逆境があるからいいかなと思って、そういう設定にしました。
──逆境がある「から」いい?
はい。そこから形勢逆転していくところを描きたかったんです。もし読んでくれてる人の中にぼたんと同じ思いをしてる人がいたら、「自分は楽しくないけど、こんな楽しい高校もどこかにあるのかな。高校って楽しいんだな」と思ってくれたらいいな、と思って。私自身は学校行事をエンジョイした記憶がないので。冷めちゃってたんですよね。
──どんな高校生だったんですか。
校則が厳しい女子校でした。スカートも膝丈で。安室世代やったから、短くしたかったですね。ルーズソックスも履きたかったし。行事は「ああまた文化祭か。授業なくていいけど」みたいな感じで。周りも冷めていて、みんな自分の部屋みたいな感じでリラックスしてましたね。授業中にネイル塗ったり、朝礼のとき毛抜きで毛を抜いてる子がいたり(笑)。
──女子校だと、他校に恋人を作ったり?
恋愛は最初だけがんばって、あとはもうサボりました。入学して最初の頃は合コンをすごくしてたんですよ。でも結局好きな人ってそんなにできないなと気付いて、虚しくなって。今思えば、全然素を出さなかったからよくなかったんですよね。3年生からはベリーショートにして、女子とばっかり遊んでましたね。
服装を考えるだけで1日が終わることも
──今回、学校の中という縛りでお話を動かしてみていかがでしたか。
「制服、もう描きたくない!」ってなりました。
──あはは(笑)。確かに制服か部屋着しかほぼ出てこないですもんね。
最初はすごく楽しかったんです。ぼたんたちの制服のデザインが、実際に高校の制服として採用してもらったりもしましたし。
──来年開校する、京都の新設高校の制服に採用されたんですよね(参照:佐藤ざくり「たいへんよくできました。」劇中制服を京都の新設高校で採用)。
その作業も本当に楽しくて。でも、話数が進むにつれて……「グラデ(のトーン)ばっか貼りたくない! 違うもん描きたい!」って欲もわいてきちゃいました。
──マーガレットってほとんどの作品が学園ものなので、1冊通して改めて見てみると制服のシーンが圧倒的に多くて。「マイルノビッチ」は私服のバリエーションが豊富で、その中で目立っていた記憶があります。そして華やかな服を着せるだけじゃなくて、ちゃんと着回してたりするのがリアルだったなと。
高校生だと、あんまりいっぱい服を買えるわけじゃないですからね。読者の方からも「オシャレだから楽しいです」とか「服が好きです!」って書かれた手紙をいただくと、うれしかったです。ファッション誌たくさん買ってきて、付箋貼って、それを参考にして。服考えるだけで1日終わることもあって、大変だけど楽しかったなあ。服が決まったらもう原稿完成!ってくらい、時間を割いてました。
LINEを取り入れるのは難しい
──「たいへんよくできました。」は恋愛より友情がテーマ、と先ほどおっしゃっていましたが、ぼたんが友達グループの中でハブられる描写は、読んでいてとても胸が痛みました。
ぼたんがハブられて、そこから勇気を出して「私の事いじめるのやめて!」と伝えるところは、一番描きたいところだったんです。
──4人グループで色違いのシュシュを自分だけもらえなかったり、待ち合わせしていたらあとの3人が三つ子コーデで現れたり……。
私も「これやられたら嫌だな」と思いながら描いてました。「マイルノビッチ」でSPINNSさんとコラボさせてもらったときに打ち合わせで店舗に伺うことがあって。そのときに店内にあるPOPを見て、「双子コーデって言うのがあるんや」って知ったんですけどね。
──LINEがストーリーを動かすきっかけになることも多いですね。既読がついてるけど、待ち合わせで4時間半待っても誰も来ないから「これ……ハブられてるってやつだ」とぼたんが気付くという。
LINEがあることで、知りたくないことを知っちゃったり、いろいろ面倒くさい世の中になったなあと思います。マンガを描いてると、劇中で道具として使えることもあるんですけど、大変なことも多いですね。現役高校生だとクラスのLINEグループがあるはずだから、「それにいつ誘われるの?」「それを劇中でどう描くの?」っていうのを考えだすと、キリがない。
──話の展開がそれにとらわれてしまう。
そうなんですよ。でも取り入れないとリアルじゃないですから。連載はまだしも、読み切りとかだと、もっと困ると思います。
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- 第1回 河原和音
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- 第3回 神尾葉子
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- 第7回 やまもり三香
- 第8回 水野美波
- 第9回 幸田もも子
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- 第12回 椎名軽穂
- 第13回 小村あゆみ
- 第14回 いくえみ綾
- 第15回 ななじ眺
- 第16回 八田鮎子
- 番外編 マーガレット&別冊マーガレット編集長インタビュー
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佐藤ざくり(サトウザクリ)
9月20日生まれ。大阪市出身、京都市在住。2001年、マーガレット(集英社)に掲載されたNEWまんがゼミナール入選作「同じ星に生まれて」でデビュー。同誌にて2008年より「おバカちゃん、恋語りき」を、2011年より「マイルノビッチ」を連載。2014年より”ぼっち女子”を主人公とした「たいへんよくできました。」を連載する。そのほか著作に「MiLK」「otona♥pink」「少女、少女、少女なの。 佐藤ざくり短編集」などがある。
2016年1月22日更新