コミックナタリー Power Push - マーガレットコミックス特集 あの頃も、これからも!一生少女マンガ宣言 第9回 幸田もも子「ヒロイン失格」「センセイ君主」
チーム別マで“ラブコメ枠”の役割を果たす
幸田もも子が別冊マーガレット(集英社)にて2010年から2013年まで連載していた「ヒロイン失格」は、クールな幼なじみ・利太と学校イチのモテ男・弘光の間で揺れる“邪道ヒロイン”はとりを描くラブコメディ。桐谷美玲、山﨑賢人、坂口健太郎というキャストでこの秋、実写映画化を果たした。また幸田は別マにて、弘光の兄がイケメン教師として登場する「センセイ君主」を連載中だ。
コミックナタリーでは映画化を記念し、幸田にインタビューを敢行。映画「ヒロイン失格」の感想や、パワー溢れるヒロインを生み出す秘訣について、そして別マというチームで、意識している自分の役割を語ってもらった。
取材・文/門倉紫麻
「ギャーッ! かっこいい!」とキュンキュンしながら観ていました
──実写映画「ヒロイン失格」、爆笑しながら拝見しました。
ほんっとに私も笑いました! 2回観ても爆笑しましたねえ。桐谷さんが本当にはとりで……自分で描いたんですけど、なんてバカな行動ばっかりするんだ!?と(笑)。それを全力でやる桐谷さんが本当にかわいくてかわいくて。桐谷さん、撮影現場で単行本を見ながら「今日はこの顔やりたいです」とご自分で変顔を決めて監督におっしゃっていたらしくて。2回観ると、それがどの変顔かわかるんですよ。これはきっとあそこのコマのあの顔だ!って答え合わせができます(笑)。
──変顔をはじめ、マンガでの爆笑ポイントをかなり忠実に再現していましたね。
結構そのまま取り入れていただきましたが、映画でしか出せない表現とあいまって、原作とは別の、原作以上の最高のものがある、と思いました。原作を知らない方も笑って楽しんでいただけると思いますし、読者さんにも納得していただけるのではないかと!
──利太役の山﨑賢人さん、弘光役の坂口健太郎さんら男性俳優陣もハマリ役でしたね。
キャラもそのまんまですし、「ギャーッ! カッコいい!」と普通にキュンキュンしちゃいました(笑)。
──実写化されてみて、何か影響を受けましたか?
受けまくりです。弘光が主人公の読み切り(別冊マーガレットsister秋フェス01掲載)で、坂口さんが現場でやっていた「ピース」も使わせてもらいました。
──ピースですか?
撮影現場にお邪魔したとき、桐谷さんに、「坂口さんの弘光はどんな感じでした?」ってお聴きしたら「ほんとに弘光です!」っておっしゃっていて。「アドリブで、坂口さんがこうやってピースしたんですよ」と教えていただいたピースのやり方が、完全に弘光や!と。坂口さんにも、使っていいですか?と聞いたら、「うれしいです!」と言ってくださったので1ページ目でさっそく描かせていただきました。山﨑さんは、映画版ではピアスはつけないで行く予定だったところを、「やっぱりピアスがあるのが利太だから」と、ご自分であまり目立たないピアスを探してきてつけてくださったようで……。利太はああいうキャラなのにピアスをつけている、っていうのが自分の中でも気に入っていたので、そこを守っていただけてすごくうれしいなと思いました。みなさん、キャラクターの読解力がすごいんです。はとりだったら、利太だったら、弘光だったらどう行動するかっていうのを、わかってくださっている。インタビューで答えていらっしゃるのを聞いたりすると、私がめちゃくちゃ絞り出して考えたことをさらっとおっしゃったりするんですよ。「その通りなんですけど、なんでわかるんですか!?」と言いたくなりました。
──演じることで、わかることがあるのでしょうか。
そうかもしれませんねえ。撮影現場もとにかくいい雰囲気でしたね、大道具の方も気さくに私に話しかけてくださったりして。俳優の皆さん、スタッフの方たち、いろんな方の熱を感じました。自信を持って「いい実写化です!」と言える、幸せな映画だと思います。
「私を好きな人か。私が好きな人か。」は永遠のテーマです
──「ヒロイン失格」でも「センセイ君主」でも、幸田先生の描くヒロインは、非常にパワーがあるところが魅力だと思うのですが、ヒロインを描く際に意識していることはありますか。
ダメなところを描くのが好きですね。ダメなところをさらけ出す、というか。読者さんが憧れるヒロインというよりは、「ダメな友達」のようなヒロイン。誰にでもダメなところってありますよね。でも、もっとダメなやつここにいるから安心して!みたいなつもりで描いています。
──「センセイ君主」のあゆはには、憧れがあるともおっしゃっていました。
はとりでダメなところをさらけ出したから、今度は憧れの部分を凝縮した王道ヒロインを描くぞと思っていたんですが……やっぱりだんだんあゆはもバカでダメなやつになっているなあと(笑)。私には王道ヒロインは描けないんだなと思いましたね。
──でもキャラクターとしては、はとりとはだいぶ違いますね。すごくかわいらしくて、すごくいい子で、大好きです。
うれしいです! はとりの醜い部分には私の醜い部分が凝縮されているんですが、一方で尊敬する人を前にすると、あゆはみたいにもなるんですよ。すごく従順で素直で、全部信じちゃう、みたいな。両方あるんですよね。
──それがキャラクターに反映されている。今おっしゃった醜い部分がきちんと描かれているのもはとりが共感を呼ぶところですよね。ずっと好きな人がいても、「優しくされたい」が第一義になってしまって、別の人のところに行ってしまう、というのはわかるなあと。だからと言ってそれが不誠実ということではない、といいますか。
利太との関係が片思いでしたからね。もし利太と付き合っていたら、はとりも弘光にぐらつかなかったと思うんですが、利太が振り向いてくれない状況で、こんなイケメンを逃すのか!?と。私だったら絶対弘光に行く、っていう気持ちを正直に描きました。
──そこが痛快でした。弘光に気持ちが動いて、彼氏として付き合うまでいきますもんね。
本気で弘光のこと好きになってましたしね。私も弘光が大好きです(笑)。
──でも最後、利太に行くのも納得ですし。
理屈じゃないですよね。そう、映画につけてくださったキャッチフレーズがすごいなと思って。「私を好きな人か。私が好きな人か。」。これって、永遠のテーマですよね。
──どちらが幸せかはわからないですよね。
自分を好きになってくれたことで、その人を愛しく思ったり、だんだん好きになることだってある。なので、答えは本当にまだ見つからないんですが。
利太とはとりの幼なじみラブは、実体験!?
──男子キャラに関しては、どんなことを意識していますか?
なんとなくモデルにしている人がいる場合が多いんですよ。最初は外から見て、あの人だったらこういう行動をとるかな、みたいな感じで描いているんですけど、話が進むにつれて、もっとリアルな感情を掘り下げなきゃいけないので、内側から描けるように入り込もうとして自分の中にある要素を探していきます。だから男性キャラも、どんどん私になっていくというか。でも、利太だけは最後まで私じゃなかったなあ……すごく明確なモデルがいたので。幼なじみなんですけど、理解しすぎていて、手に取るように「あいつだったらこうするな」っていうのがわかっちゃうので、トレースできてしまいました。小学校のときからずっと一緒だった人なんです。
──実際に幼なじみの方がいらしたんですね! やはりそこにはラブが……?
何度も何度もフラれました(笑)。でも私に彼氏ができて離れていきそうになると引き戻そうとしたりするという……それをまたうれしいと思うようなダメ女だったので、ずーっとこじらせていましたね。なのでいつかマンガで描いてやる!と思っていました(笑)。
──まさに「ヒロイン失格」のような状況を実際に経験されていたとは!
なので、利太のずるさは、私が経験したずるさです。でも利太が間違っているとも思わないんですよ。利太にとっての正しいことをしている。弘光のチャラい感じは……私、すぐチャラ男にひっかかるんです(笑)。でもそうするうちに、チャラ男って実は賢いんだなと思うようになって。イケメンで、マメで、すぐハートを持っていくようなことを言うし、キュンキュンさせる。チャラ男のことをバカにしている人が描くと、イタいチャラ男になると思うんですが、私は敬意があるのでカッコよく描けているといいなと思っています(笑)。「チャラ男ホイホイ」されてもなお、チャラ男を愛していますので。チャラ男、すげー! 完敗だよ! と(笑)。
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- 映画「ヒロイン失格」2015年9月19日ロードショー
- 映画「ヒロイン失格」
キャスト
桐谷美玲、山﨑賢人、坂口健太郎、福田彩乃、我妻三輪子、高橋メアリージュン、中尾彬(特別出演)、柳沢慎吾(特別出演)、六角精児(特別出演)、濱田マリ、竹内力
高校2年生の佐丸あゆはと、同じ学校の超イケメン教師・弘光先生は、生徒と教師の関係ながら付き合っている禁断カップル! 順調に付き合うふたりだが、先生の初恋相手・秋香さんが現れ、先生が好きで、今度こそ捨て身で先生を追いかけたいと宣言されてしまう! 禁断カップルの仲は一体どうなる!?
「センセイ君主」が表紙&巻頭カラー!
「ヒロイン失格」×「センセイ君主」コラボマンガも掲載。付録は映画「ヒロイン失格」を特集した特製DVD。
幸田もも子(コウダモモコ)
9月24日生まれ、東京都出身。2002年に「たまごやき」でデビュー。2010年に別冊マーガレット(集英社)にて「ヒロイン失格」が連載スタートし、累計160部以上の大ヒットとなり、実写映画化もされる。2013年より同誌にて「センセイ君主」を連載中。ほか著作に「姐さんカウントダウン!」「そんでむらさきどーなった?」「誰がスッピン見せるかよ」「よってけ!音子村」などがある。
2016年1月22日更新