コミックナタリー Power Push - マーガレットコミックス特集 あの頃も、これからも!一生少女マンガ宣言 第2回 咲坂伊緒「アオハライド」「ストロボ・エッジ」
少女マンガ家として、ときめきに徹する
緊張してきゅっとなる空気。そこに「うまみ成分」がある
──このシリーズの前回のインタビューで河原和音先生にお話を伺ったのですが、咲坂先生は「ときめき」に徹している感じがいいですよね、とおっしゃっていました。
そうなんですか!? でも少女マンガって、だいたい皆さんときめきを描くんじゃないでしょうか……。
担当編集者 そのことで河原さんと話をしたら、「きっと咲坂さんはみんなもそうだ、と言うと思うけれど、ときめきを1話の中にちゃんと入れられるのは才能だから!」とおっしゃっていましたよ。
わーっ! それはうれしいです。ありがとうございます。……がんばろう!(笑)
──本当にそうだと思います。もちろんどんな恋愛マンガにもときめきは入っているんですが、咲坂先生の作品には細かく、潤沢に入っていて。「アオハライド」で洸が双葉に「おまえさぁ 俺のこと好きなの?」と聞くシーンも、「ストロボ・エッジ」で仁菜子の太ももの上に蓮の影が映って、それをつかもうとするような一瞬のシーンも……それやってほしかった!というものばかりです。
しつこく描いてよかったです(笑)。いいシーンを思いついたら入れたくなる、というのと、やっぱりそういうシーンを描くのが好きなんですよね。なんか足りてないから入れたほうがいいかな、と思って無理矢理ねじこもうとすると、自分で描いていても乗れないんですよ。乗り気なときは、描くのがすごく楽しいです。
──ご自身も楽しいんですね。
「これ、よくないですか!?」って担当さんによく言っています。「いけるって思ったんですよ!」って。……自分から言うタイプです(笑)。
──思春期の頃の感覚がずっと残っている、とおっしゃっていましたね。
残っています。全部覚えてますね。あの頃の空気感とか、めちゃくちゃ覚えているので。
──覚えているのは出来事だけではなくて空気感なんですね。
そうですね。緊張して「きゅっ」となったような、なんとも言えない空気とか……そこに一番、うまみ成分がある(笑)。
──出来事だけじゃなくて、空気感が描かれているから読者はときめくのかもしれません。
空気感を伝えるためには、やっぱりちょっと間が必要だったりすると思うんです。マンガは、映像のようにスローモーションとかで速度を調節できないですよね。読者さんが自分のペースでページをめくれてしまうので、意図的に余白となる部分を入れて、間をとってもらえるように、と思っています。
昭和くさい絵が、コンプレックスなんです
──咲坂先生の絵が大好き、というファンも多いですよね。初期作品の頃からとてもかわいい絵でしたが、今は、立体感のある顔の輪郭とか、咲坂先生にしか描けない絵が完成されていると思います。ご自分では、絵に関してどう思われていますか?
昔は、自分の好きな作家さんの影響はもちろん受けていて、好きだからマネしたいっていう気持ちで描くんですけど、そうすると何か「みたいな」絵っていうのがついてまわってしまう。これじゃいかんのだなと思って研究したりはしました。でも、本当に絵にはコンプレックスがあるんです。昭和くさいって思っていて。
──えっ、周りの人に「アオハライド」を勧めるときには「とにかく絵がかわいいから! めちゃくちゃ今っぽいから!」と言って勧めていました。
安心しました(笑)。いまさら流行りの絵を描いてもなあ、とは思っていたので。
──流行の絵というのは確かにありますよね。咲坂先生の絵は流行というよりジャストな感じと言いますか。消費されていく感じの絵ではないと思います。
まさにそれを目指しているので、うれしいです。
せつなくて喉がギューッてつぶれそうになりました
──今回「ブックパス」のキャンペーンでマーガレット作品がたくさん読み放題になるので、お好きな作品についてお聞かせください。
(作品リストを見ながら)あっ、「伊賀野カバ丸」がほんとに好きでした。小学校のときかなあ……。カバ丸、かっこいいんですよねえ。スタイルもいいし。中学生くらいの頃は、マーガレット系の作品はせつない系のものばっかり選んで読んでた気がしますね。もちろん「ホットロード」も読みましたし、あと「ONE」はクラス全員読んでました! いくえみ綾先生は「彼の手も声も」とか、あと「ハニバニ!」もいいですよね。いつも、すごい泣きながら読んでいました。せつなくって、ほんとにもう喉つぶれる!!って思いながら。胸じゃなくて、喉(笑)。もう、嗚咽ですよね、痛いくらい喉がギューッてなってました。河原先生の「先生!」は投稿作を描いている時に、私も先生と生徒の恋愛ものを描くつもりだったので読んでみたんですが、もうめっちゃ面白い!と思って。そこから河原先生が大好きになりました。
──デビューされてからもマンガは読みますか?
新しいものをどんどん読むというより、もともと持ってるものを何回も読む、みたいなことが多いですかね。
──何回も読むのはどういうの作品ですか?
よく読むのが、マーガレット系ではないのですが、かわかみじゅんこ先生。「あーっ、こう描くのかあ! この感覚すごい!」っていつも思います。「ワレワレハ」とか、何回も読んでいるのでもうカバーがぼろっぼろです(笑)。かわかみ先生の描く女の子が、めっちゃかわいいんですよねえ。男の子もかっこいいんですけど……男の子の手首がもう! 骨の感じが素晴らしいんですよ。肘から手首にかけての男らしい感じが……すごくカッコいいんです。あと、男子のこういうところ好きだよね、みたいなのは、読んでいてわかる!って思います。でも私は言葉に出したことなかったなあ、かわかみ先生は出すんだ!って。
──やはり作家さんとしての読み方になるのですね。
そうかもしれないですね。すごいって思うけど、自分では逆立ちしても出てこないフレーズが出てくると、これは思い付けないわ……って思います。刺さる感じのフレーズがいっぱいあるのでぜひ読んでみてほしいです。
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- 第2回 咲坂伊緒
- 第3回 神尾葉子
- 第4回 中原アヤ
- 第5回 森下suu
- 第6回 あいだ夏波
- 第7回 やまもり三香
- 第8回 水野美波
- 第9回 幸田もも子
- 第10回 宮城理子
- 第11回 佐藤ざくり
- 第12回 椎名軽穂
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- 第14回 いくえみ綾
- 第15回 ななじ眺
- 第16回 八田鮎子
- 番外編 マーガレット&別冊マーガレット編集長インタビュー
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咲坂伊緒(サキサカイオ)
6月8日生まれ。B型。東京都出身。「サクラ、チル」でデビュー。代表作は、2007年から2010年まで別冊マーガレット(集英社)にて連載された「ストロボ・エッジ」。2013年には劇場アニメーション「ハル」のキャラクター原案を務める。別冊マーガレット2011年2月号より連載された「アオハライド」は2014年7月にTVアニメ化、同年12月には実写映画化。また2015年には「ストロボ・エッジ」も実写映画化された。同年6月発売の別冊マーガレット7月号にて新連載「思い、思われ、ふり、ふられ」がスタート。
2016年1月22日更新