連続ドラマW-30「アオハライド Season1」が9月22日23時よりWOWOWで放送・配信される(TVerで最新話見逃し配信 / 初回放送後、WOWOWオンデマンドで全話一挙配信)。
累計発行部数1300万部を超える咲坂伊緒のマンガ「アオハライド」は、高校生の吉岡双葉と馬渕洸による本格青春ラブストーリー。Season1、Season2の2部作として連続ドラマ化した本作では、ある経験が原因で友達に嫌われないよう自分を偽る双葉を出口夏希、中学時代に思いを寄せていた双葉と高校で再会する洸を櫻井海音が演じた。そのほか、志田彩良、莉子、新原泰佑、宮里ソル(円神)、曽田陵介、兼近大樹(EXIT)らも出演している。
映画ナタリーでは、少女マンガ好きのライター・ひらりさによる見どころレビューをお届け。大人にこそ観てほしいという連続ドラマW-30「アオハライド Season1」の魅力とは?
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文 / ひらりさ(レビュー)
連続ドラマW-30「アオハライド Season1」予告編公開中
青春コンプレックスのミドサーが連続ドラマ「アオハライド」を観る
「それから私たちは目が合うと 必ず一度そらしてまた合わせる」
この歳になるまで「アオハライド」のストーリーを知らなかった。1300万部突破を記録した原作も、本田翼と東出昌大のW主演となった2014年の映画版も、スルーしていた。
少女漫画好きを標榜しているのに?と思われるかもしれない。
理由ははっきりしている。「青春」という言葉が苦手だったからだ。
苦手というよりはコンプレックスに近いのかもしれない。清涼飲料水のCMに出てくるキラキラした感じとか、夏の高校野球に代表されるような熱血スポ根な感じとか。ああいうのを、集団行動になじめる一部の人たちに許される特権のように感じていた。
青春ものを楽しめるのが青春を謳歌した人たちばかりではないのはわかる。むしろ、「こういう青春過ごしたかったなあ」というノスタルジーから、青春ものにハマる人は多いだろう。でも私の場合は、「自分はこういう青春からのけものにされていた」という負の感情ばかりが刺激されるような気がして、無意識のうちに距離を置いていたように思う。男女共学を舞台に、恋愛メインで展開するような話ならなおさらである。
そんなときに降ってきたのが、この、2023年のWOWOW連続ドラマ版放送・配信のニュース。世は映像コンテンツ配信プラットフォーム戦国時代。大人の恋愛が描かれたドラマが山ほどある。「アオハライド」は、「青春」を忌避したまま34歳になったわたしが観ても、楽しめる作品なのだろうか?
正直かなり腰がひけながら「アオハライドSeason1」を見始めたのだが……不安は一気に吹き飛ばされた。
め、めちゃくちゃ面白い!
一筋縄ではいかない感情のもつれや、ささいなタイミングのズレで拗れてしまう人間関係。もちろん、キラキラやときめきもあるけれど、それを支えていたのは、不器用でまっすぐな少年少女たちが、失敗や傷つきをおそれずに「青春に乗ろう」と、頑張る姿だった。
青春ラブコメの金字塔「アオハライド」は、青春コンプレックスを拗らせた30代にも刺さる、ビターな群像劇だったのだ。
30代の心にも響く、「自分らしさって何?」の問い
メインストーリーは、出口夏希さん演じる吉岡双葉と、櫻井海音さん演じる田中(馬渕)洸の、近づいては遠ざかるじれったい恋愛模様だ。
物語は、中学一年から始まる。双葉は、控えめな性格で男子からモテたために女子からハブられていた。日常のささやかな癒しは、雨宿りを機にお互いを意識しあうようになった「田中くん」。一学期最後の日、下校時に待ち伏せていた田中くんから「7時。三角公園の、時計のとこ」と灯籠祭に誘われた双葉は、胸躍らせて当日を迎える。しかし彼は現れなかった。失意のまま夏休みを終え登校した双葉はそこで、田中くんが親の離婚にあわせて引っ越してしまったことを知る。
結局孤立した中学時代を過ごし、高校に進学した双葉。彼女が高校生活を充実したものにするために考えついたのは、「あえてガサツに振る舞うことで女の子の友達を作る」こと。戦略はうまくいき、明日美と智恵というさばさばした女友達ができた双葉だったが、彼女たちから、男子にモテる同級生・槙田悠里の陰口への同調を求められることには辛さを感じていた。
自分らしさを押し殺して続くかに見えた双葉の高校生活。しかしそれは、実は同じ高校に進学していた「田中くん」、現在は馬渕姓になり、性格も別人のようになってしまった洸との再会によって、大きく変わっていく……。
双葉と洸の恋模様がメインと書いたが、本作が描くのはたんに「恋愛」ではない。恋という言葉では、そして友情という言葉ですらすくいきれない、人間関係の機微が、丹念に描かれる。
そのひとつが「自分らしさって何?」。時を経て洸と再会した双葉が最初に直面するのは、「あんなに思い合っていたのに(悲しい)」ではない。「かつてこの人に好きになってもらった私は、今のままでいいのだろうか」という葛藤なのだ。まだ自己を形成中の彼らが、お互いの揺らぎをむきだしにしながら、互いを理解していく過程そのものが、本作の魅力だ。
友達をつくりたいがために自分の本心を押し殺していた双葉は、再会した田中くん=洸から「なんかガッカリした」と言われたことで自分のありかたを恥じ、明日美と智恵の陰口に反発する勇気をもらう。本心を言えるようになった双葉は、悠里というかけがえのない友達を得る。そして、人の目を恐れずに行動できるようになった彼女は、洸の心をとかそうと、友人たちとともに奔走する。
今の時代も勇気をもらえる、まっすぐなヒロイン
とにかく心打たれるのは、双葉の一生懸命さだ。元々積極的な性格ではなかった彼女だが、友達をつくりたい気持ちや、洸と思い出をつくりたい一心で、「自分」をどんどん成長させていく。ある意味ではころころ変わるように見える双葉だが、その変化には、友人たちとのやりとりの積み重ねがしっかりと説得力を持たせている。
ぶりっ子だけど芯の強い悠里、クールな一匹狼だが学校教師に片思いしている村尾修子、そんな修子を慕う楽天家の小湊亜耶。そして、双葉が洸に好意を持っていることを知りながらも、双葉に振り向いてもらおうと頑張る菊池冬馬。
「でも変化って揺らぎの中からしか生まれないんじゃないかな。強気になったり弱気になったり。行ったり来たりするから違う角度で物事が見えるようになるんだと思う。すっごい揺らげば、新しい何かが見つかるかもしれないよ」(中略)
「そうだね、行ったり来たり上等!」(第8話 冬馬と双葉の会話より)
ああ、10代の頃って、毎日のちょっとした出来事とか言葉に、一喜一憂していたなあ……あれって青春だったんだ、と気づけば、自分の過去をも振り返っていた。試行錯誤しながらも前に進んでいくがむしゃらな双葉を好演する出口夏希のみずみずしさに、とてつもない元気をもらった。
“めんどくせー”と思いながらも心掴まれるヒーロー
一方、とことん頑ななのが、洸だ。中学~高校を通じて、双葉と洸がこれでもかとすれ違い続ける原因の7割くらいは彼の頑なさにある。
「俺の中に昔の俺探すのやめろよ」(第3話)
「大事なものができるとさ、いろいろしんどくなるから」(第4話)
「いいんだよ、今は吉岡とどうこうなるつもりないから」(第8話)
こうした態度には、彼が引っ越した後に経験したとてつもない悲しみが隠されているのだが……そうだとしてもめんどくさい! 過去あらゆる少女漫画の“めんどくせー男”を目撃してきたが、その中でもかなり上位に入るぞ、馬渕洸。
他にも「俺吉岡のこと好きだった」って過去形でしゃべったり、双葉のLINEに限って返事が遅かったり、約束をドタキャンしておいて自分から理由を言わなかったり。「双葉にはもっと素直でいい男子いるよ!」と双葉の同級生になった気分でつぶやきそうになった。
でも……めんどくささを上回るかっこよさと可愛さを兼ね備えているのが、馬渕洸という男の厄介な魅力だ(褒めてます)。
「お前が頑張っても誰も困んねえけど」(第2話)
「俺のこと好きなの?」(第2話)
「なあ、こいつ俺の彼女なんだけど。ナンパなら他当たってくんない?」(第6話)
「もう手を差し伸べちゃったから、おおいに大事にするしかねえな」(第7話)
……あげるとキリがないので、ぜひ本編を見てください。
Season1とSeason2からなる連続ドラマW-30「アオハライド」。9月22日から配信されるSeason1のラストシーンは、「え、ここでSeason2までお預けなの!?」と叫び出しそうになるようなところで終わった。先が気になりすぎて、原作を買ってしまったほどだ。ドラマが、原作のセリフやモノローグを丁寧に再現していたことに気づき、そこにもグッときた。
(ちなみに今回の「アオハライド Season1」、メインビジュアルが出口夏希さんが櫻井海音さんの顔を上から覗き込んでいるもので、そこに「あと1ミリの距離」が象徴されているのも、原作の解釈として、とてもいいなあと思った。)
原作や映画版を通ってない方にも、学生の頃ハマっていたという方にも。双葉に励まされつつ、洸に翻弄されて、このじれったいときめきを目撃してほしい!と思うシリーズだ。
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