「美少女戦士セーラームーン」小佐野文雄(おさBU)インタビュー|電子書籍化記念!“愛の名ゼリフ”で本編を振り返る

人気投票に100万票、「都知事選じゃないんだから(笑)」

──2016年の「美少女戦士セーラームーン展」(参照:愛と正義のセーラームーン展、明日開幕!麻布十番を背に戦士と記念撮影)で生原稿を見たとき、確かに修正の跡があまりない美しい原稿だなと驚きました。では続いて第2部へ。ちびうさが登場し、うさぎがやきもちを妬いてしまいます。

第21話(完全版3巻収録)より。

うさぎ「……まもちゃんがちびうさをかわいがるたび──不安だった 自信がなかった ……信じる心を忘れてた それで 力が出せなかった? ──あたしは 次期女王 ネオ・クイーン セレニティ あたしが 地球を 皆を ──守るのよ」

第21話(完全版3巻収録)より

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この頃は武内先生の筆が乗っていたというか、自由に湧き出てくるような勢いがあってすごくよかった記憶があります。当時のちびうさの人気はすごかったですね。もうこの頃には完全に「美少女戦士セーラームーン」が社会現象になっていたので、なかよしの誌面でキャラクター人気投票をしても、20万通とかハガキが届いちゃうんです。1枚のハガキで5キャラに票を入れられるようにしてしまったので、100万票分くらい開票して……都知事選じゃないんだから、と(笑)。そんな中で、セーラームーンがちびうさに首位を譲ってしまうほどでした。

──そこまでダントツの人気だったんですね。

第23話(完全版4巻収録)より。

もともとなかよしは小学校5、6年の読者が多かったんですけれども、アニメが始まってからは低学年の子たちも読んでくれるようになって、ちびうさは低学年からの人気がありましたね。これは余談ですが、20周年プロジェクトとして再始動してからファンクラブで人気投票をやったら、首位はうさぎちゃんが奪還したんですが、ちびうさよりブラック・レディのほうが順位が高かったんですよ。

──ええー! 悪役的なブラック・レディが。

2位がクイーン・セレニティで、3位がブラック・レディでした。皆さん大きくなっていろんな経験をして、そうした悪役キャラの気持ちもわかるようになったということなんですかね。昨年のうさぎ・ちびうさの誕生日イベントのときに「私の人生、うさぎちゃんじゃなくてクイン・ベリルだったことに気付きました」って僕に伝えてくださったファンの方もいて衝撃でした。「いや、あなたはうさぎちゃんですよ」って言いましたけども(笑)。大人になって久々に読んでいただくと、そんなふうに変化もあって面白いと思いました。

──第2部では新キャラクターとして、外部太陽系戦士からまずセーラープルートも登場しました。彼女が禁忌を犯して滅びてしまうシーンで、胸に秘めていたキング・エンディミオンへの思いが明かされます。これは設定として当初からあったんでしょうか?

第25話(完全版4巻収録)より。

セーラープルート「ラベンダーのマント 美しい薄紫の ……朝焼けの色だわ」

第25話(完全版4巻収録)より

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たぶんなかったんじゃないかと思います。ストーリーを進めていくうえで、だんだんできたんじゃないかと。ここはミュージカルでもいつも、泣けるという声を多くいただく名シーンですね。第1部では過去が明かされて、第2部で未来を描く……「火の鳥」の黎明編と未来編のような感じになったなと思います。もうその次はやることないよって感じでしたけど(笑)。

──では、第3部の話を組み立てていくのは大変だった?

いや、待てよ。ウラヌス、ネプチューン、サターン、いわゆる外部戦士を出そうというプランは、1部が終わった頃からありましたね。先生はなかなか冴えていて、発見当初に太陽系で一番外側だったプルート(注:1999年には海王星が一番外側になった)だけを第2部で登場させたものですから、残りの戦士もたぶんいるんだろうなっていう匂わせになっていました。まだ登場していない戦士の姿を予想して、絵に描いて送ってくださるファンの方もいました。

ウラヌスとネプチューンは出るべくして出たキャラクター

──第3部では、ちびうさと、セーラーサターンこと土萠ほたるの友情も大事なファクターになっています。

第36話(完全版6巻収録)より。

ほたる「女のコ同士なのに ヘンかもしれないけど ……運命の出会いだって 思ったわ」

第36話(完全版6巻収録)より

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ウラヌスとネプチューンの陰に隠れがちですが、実はほたるちゃんはすごい人気でしたね。男の人を中心に。きっと儚げなところがいいんでしょうね。彼女が「萌え」という言葉の語源なんて説もありますし。

──ウラヌスとネプチューンは説明の必要もないくらいの人気キャラクターですが、ガールズラブ的な要素にドキドキさせられます。

この2人を子供の頃に見てしまったせいで、大人になってからもそういう道を突き進んでいる方もたくさんいらっしゃるようですね(笑)。武内先生は子供っぽいキャラクターから大人っぽいキャラクターまで、広い年齢のいろいろなタイプの女性をバランスよく出すことを意識されていました。そうした中で、出るべくして出たキャラクターという感じでしたね。

──幼年誌でこのような百合っぽい関係を描くことも当時はあまりなかったと思うのですが、編集長などからストップがかかることはなかったのでしょうか。

いや、特になかったです。もともと少女マンガの世界には、こういったキャラクターがけっこういましたから。

──第38話でウラヌスの心の叫びを放つシーンですが、実はこれをリアルタイムで読んでいた小学生の頃は、このときのウラヌスがどういう感情なのかわかりかねていたんです。

第38話(完全版6巻収録)より。

セーラーウラヌス「あたしはただこの手であの子を守りたかった ただ それだけだったんだっ……!!」

第38話(完全版6巻収録)より

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──「ウラヌスはネプチューンとラブラブなのではないの? うさぎちゃんのことが好きなの?」と。子供はすぐ恋愛感情に結びつけてしまうので(笑)。2016年に(『美少女戦士セーラームーンCrystal』セーラーウラヌス役の)皆川純子さんと(セーラーネプチューン役の)大原さやかさんにインタビューさせていただいた際(参照:アニメ「美少女戦士セーラームーンCrystal」皆川純子(セーラーウラヌス)×大原さやか(セーラーネプチューン)対談)もこのセリフに関してお聞きしたんですが、「ウラヌスとネプチューンは同じ騎士で、プリンセスは絶対に守るべき存在」と解釈されていて、「なるほど!」と思いました。

小佐野文雄

当時はわからなかったですか? ……そうか、やっぱり当時の読者の皆さんにはけっこう難しかったですよね。ウラヌスが抱いていたのは男女を超えた感情だと思うんですが。ほかにも難しい部分がけっこうあったと思いましたが、「みんなわかるんだな、最近の子はすごいなあ」と、思ってしまっていました(笑)。

──(笑)。大人になってから読み直すと新たな発見が多いです。続いて第4部へ。ちびうさがメインキャラクターになるエピソードですが、実は戦士それぞれの「夢」が丁寧に掘り下げられるシリーズでもあります。普段激しい戦いに身を投じている彼女たちの素の姿が見られると、妙にホッとするというか。

第41話(完全版7巻収録)より。

まこと・美奈子「ああっ カレシが欲しいっっ」

第41話(完全版7巻収録)より

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こうした場面は、本来の先生の持ち味が出ていますね。テンポがよくて、ビートが効いていて。武内先生って集中して一気にやるのがお上手なんです。この頃は缶詰めでマンガを描いてもらっていたので、遊びに行きたいとかいろんな欲望が溜まってたんだと思いますね(笑)。余裕があれば、こういうグルーヴたっぷりのパートをもっと盛り込みたかったです。

──こちらは言わずと知れた名シーンですが、うさぎちゃんが急に大人びて見えて。

第49話(完全版8巻収録)より。

うさぎ「まもちゃん 誰でも皆 胸の中に星を持っているのよ そして胸の奥が熱いのは 星が輝いている印なの」

第49話(完全版8巻収録)より

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ラストまでのコンセプトが、先生の中で決まったシーンじゃないかと思います。心の中にある星、をテーマにしようと。心の中の星というのは第5部でも大事にしていた要素なので。

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小佐野文雄(オサノフミオ)
「美少女戦士セーラームーン」原作編集担当。ファンからは「おさBU」の愛称で親しまれている。
武内直子(タケウチナオコ)
1986年になかよし(講談社)でデビュー。1991年より同誌にて「美少女戦士セーラームーン」が連載開始され人気を博す。同作品で第17回講談社漫画賞少女部門を受賞。「美少女戦士セーラームーン」はアニメ、ゲーム、ドラマ、ミュージカルなどさまざまなメディアミックスを展開中。