「美少女戦士セーラームーン」30周年|大人女子向け市場、全世界同時配信、2.5次元…「美少女戦士セーラームーン」がこの10年で開けてきた、6つの新たな“扉”

2022年、「美少女戦士セーラームーン」30周年プロジェクトが始動した。1月18日の発表を皮切りに、今後も数々の展開が用意されている。そこでコミックナタリーでは、2012年にスタートした20周年プロジェクト、それを引き継いだ25周年プロジェクトを改めて紹介。この10年で同プロジェクトが挑戦・開拓してきた6つの事柄を解説する。30周年プロジェクトでどのような展開が待っているのか。本特集で20周年&25周年プロジェクトを振り返り、温故知新の足がかりにしてほしい。

文 / 三木美波

「美少女戦士セーラームーン」が1990年代に巻き起こした社会現象

「美少女戦士セーラームーン」は1991年12月に発売された、なかよし1992年2月号(講談社)から1997年3月号までの5年間、武内直子によって連載され、アニメもほぼ同時期となる1992年3月から1997年2月まで放送された。まずはすさまじかった当時の人気ぶりを振り返ってみよう。

5年間の全業種総売上は5000億円

「美少女戦士セーラームーン20周年記念BOOK」

「美少女戦士セーラームーン20周年記念BOOK」によると、1992年から1997年までに国内に流通した「美少女戦士セーラームーン」のグッズ総点数はのべ5000種以上、全業種の総売上は5000億円。もちろん単行本も大人気で、おさBUの愛称で知られる原作の担当者・講談社の小佐野文雄は「1巻の初版が50万部、そしてすぐに100万部と、あっという間に社会現象にまでなっていった」と証言している。

まさに“子供から大人まで”の幅広い人気

なかよし誌上で1992年に行われた第1回人気投票の応募総数は、15万2992通。第2回の応募総数は21万7052通と、なかよし購買層への人気を見せつけた。また同じく1992年、アニメージュ(徳間書店)の人気投票企画で長らくトップの座に君臨していた「風の谷のナウシカ」のナウシカを抑えて、主人公の月野うさぎの仲間である水野亜美が1位に。フジテレビで放送されていたオークション番組「とんねるずのハンマープライス」では、ファンが「美少女戦士セーラームーン」の短編に登場する権利を200万円で落札。“少女マンガ”の枠にとどまらないブームを生み出した。

日本だけでなく世界へ羽ばたく「美少女戦士セーラームーン」

1993年にはフランス、イタリア、スペインなどのヨーロッパ圏で「美少女戦士セーラームーン」のアニメ放映がスタート。同時にアジア圏でもオンエアされ、1995年には全米50局以上で放映された。エッセイスト・批評家の四方田犬彦は「『かわいい』論」(ちくま新書)の中で、1994年にイタリアのボローニャに滞在していたときの思い出として、イタリア国有鉄道の駅構内のポスターが一斉に「セーラームーン」に変わったと語る。「(イタリア国有鉄道が『セーラームーン』の)爆発的な人気にあやかって、夏の旅行キャンペーンを開始した」「ボローニャでの衝撃的な出会い方をして以来、わたしは世界のいたるところで、このセーラー服の五人組の少女たちに出くわすことになった」と世界各地に「セーラームーン」が拡がっていった様子を記している。

20周年プロジェクト始動から10年

「美少女戦士セーラームーン」20周年ロゴ

2012年7月、講談社主催のアニバーサリーイベントで「美少女戦士セーラームーン」20周年プロジェクトが発表された。1997年の連載&放送終了後、再放送からのリバイバルブームや東映制作による実写ドラマなどはあったものの、“凪”の状態を保っていた。20周年プロジェクトが立ち上がったきっかけはどのようなものだったのだろうか。講談社で同作のライツを担当する松浦希は「2010年くらいから、20周年を機に再度盛り上げたいという声が各所からあがっていたそうです。弊社、東映アニメさん、バンダイさんといった90年代アニメからのメンバーとともに新しいパートナーが集まり、20周年プロジェクトが立ち上がりました。マンガ『美少女戦士セーラームーン』の編集担当だった小佐野(文雄)がいたことも大きいですが、プロジェクトメンバーには90年代に『美少女戦士セーラームーン』を見て育った世代も多く、皆さん熱意に満ち溢れていました」と明かす。

2017年からは25周年プロジェクトと名を変え、10年にわたりファンに楽しみを届け続けている。ここでは20周年プロジェクトの両輪となる新作アニメ、原作の再パッケージ化について紹介する。

新作アニメ「美少女戦士セーラームーン Crystal」開幕

2014年にアニメ「美少女戦士セーラームーン Crystal」シリーズがスタート。セーラームーン/月野うさぎ役は前シリーズと同様、三石琴乃が続投している。「Crystal」の特徴は“原作に忠実”。前シリーズは原作マンガの連載と同時並行だったことから、アニメオリジナルの展開も数多くあった。「Crystal」1期から3期までのシリーズ構成・脚本を担当した小林雄次は、「Crystal」シリーズについて「『最後がこうなる』というのを知った上で、逆算して物語を作れるのが強み」と語っている。

劇場版「美少女戦士セーラームーンEternal」メインビジュアル

原作マンガは<ダーク・キングダム>編、<ブラック・ムーン>編、<デス・バスターズ>編、<デッド・ムーン>編、そして<セーラースターズ>編の全5部構成。「Crystal」シリーズではデッド・ムーン編にあたる最新作の劇場版「美少女戦士セーラームーンEternal」が、2021年に前後編で公開された。後編のラストに「To Be Continued」としっかり明記されていたのを記憶しているファンも多いだろう。次の展開に期待したい。

原作の再パッケージ化

「美少女戦士セーラームーン」完全版1巻

「美少女戦士セーラームーン」の完全版が、2013年から2014年にかけて全10巻で刊行された。これまでの単行本よりひと回り大きいA5判で、すべての原稿にデジタルリマスターを施して連載当時のカラーページも再現。表紙イラストは武内直子が新たに描き下ろしている。2019年には完全版を底本とした待望の電子書籍版が、日本語を含む世界10言語で配信スタート。このほか武内直子文庫コレクション版、オールカラー版とさまざまな形態で刊行されており、「美少女戦士セーラームーン」の発行累計部数は紙・電子含めて4600万部を突破している。

20周年プロジェクトの挑戦・開拓

ここからは、20周年プロジェクトおよび25周年プロジェクトが10年かけて挑戦・開拓してきた事柄を6つピックアップして解説。ナタリーが配信してきた記事も併せてお届けする。

1. 大人女子向け市場

劇場版「美少女戦士セーラームーンEternal」とANNA SUIがコラボした「伝説の聖杯 ペンダント」と「ペガサス立体リング」。

今では当たり前となっている、「美少女戦士セーラームーン」とさまざまな大人女子向けブランドのコラボレーション。20周年プロジェクトが始まった2012年当時は大人女子向けブランドとコラボしていたマンガ・アニメがほとんど見当たらず、「手探り状態からのスタートだった聞いています」と松浦は言う。「そもそも大人女子に向けて『セーラームーン』グッズを作って売れるのかデータが何もなくて、ご一緒した各社の方々も上層部の人たちともかなり議論になったそうです。でもプロジェクトのメンバーにセーラームーン世代も多かった。最初は担当者みんなでフラットに意見を出し合って、座談会の延長で商品開発をされていたと聞いています。ブランドへの問い合わせも、当時はアニメ・マンガ作品とのコラボをやったことがないブランドさんなども多く人脈もなかったので、問い合わせ窓口に電話したりメールしたりしたこともありましたが、やはりいろいろな場所にセーラームーン世代の方がいらっしゃって。その方たちの熱意もあり、さまざまなコラボレーションが拡がっていった形ですね」。

そんな中、2013年に「美少女戦士セーラームーンR」の変身アイテムをモチーフにした大人向け本格コスメ「ミラクルロマンス シャイニングムーンパウダー」が発売に。これが大ヒットを記録した。

2013年6月4日 セーラームーンの本格コスメシリーズ誕生、第1弾の予約開始
「ミラクルロマンス シャイニングムーンパウダー」

松浦は「プロジェクトの方向性は“大人女子に向けた展開を”とある程度はまとまっていたんですが、この商品の大反響を受けて『この道で合ってるんだな』と方向性が定まり、『美少女戦士セーラームーン』が終わってから15年待ってくれていたファンに向けて、もっともっと20周年プロジェクトを充実させていこうと、みんなで一気にアクセルを踏んだのです」と語る。同じく2013年に、1990年代の放送当時に40万個以上を売り上げた本格なりきり玩具「ムーンスティック」を、20代女性をターゲットにリニューアルしてリリース。小佐野からは20周年プロジェクトの展開について「運が良かったのは、商品化の先陣を切った化粧品類とフィギュアが幸先の良いスタートを切れたことです。90年代の2大稼ぎ頭がなりきりグッズとお人形でしたが、それが大人向けになったわけです。往年の“小さいお友達”が大人になって帰ってきました」と感慨深いコメントが届いた。

2013年10月17日 「セーラームーン」のムーンスティックが大人向け玩具に
「PROPLICA ムーンスティック」※画像はイメージ

その後、ANNA SUIやサマンサグループ、資生堂のマキアージュなど人気ブランドとコラボを展開。マンガ・アニメコンテンツによる大人女子向け市場を開拓していった。

2015年3月19日 セーラームーン×伊勢丹、ANNA SUIやサマンサベガとの豪華なコラボアイテム並ぶ
美少女戦士セーラームーン×ISETAN 期間限定ショップ「GIRLS SPARKLE LOVE ~ LET’S PRISM POWER MAKE UP ! ~」
2017年1月25日 セーラームーン25周年!資生堂やサンリオコラボ、原画集の発売など多数発表
美少女戦士セーラームーン×資生堂「マキアージュ」コラボレーションコスメ

2017年には「美少女戦士セーラームーン」の常設専門店「Sailor Moon store」がオープンしたことも、大人女子向け市場の開拓が功を奏したことの表れだろう。「Sailor Moon store」は東京のラフォーレ原宿に店を構え、オリジナルグッズや先行発売アイテム、数量限定の再販商品などを多数ラインナップ。10代のファン層や外国人観光客も取り込んでいる。

2017年9月23日 「Sailor Moon store」本日オープン!ピンクとブルーの2区画で世界観を表現
「Sailor Moon store」の店内。

また2012年の20周年プロジェクトスタート時から約10年が経過し、当初は20代と位置付けていたコア層もともに年齢を重ねた。キッズ向けなど次世代に向けたアイテムが登場し、ファンのライフステージの変化にも敏感に対応している。

2021年3月8日 セーラームーン×mezzo piano、セーラー衿やリボンがキュートなキッズ&ベビー服
「劇場版『美少女戦士セーラームーンEternal(エターナル)』× mezzo piano」

2022年2月10日更新