「ナイトメア・ファミリー」七野ワビせんインタビュー|救いを求める人々に、幸せを売り歩く“疑似家族”七野ワビせんが問いかける家族の姿、幸せの在り方

上手に立ち上がれるなら、宗教もいいじゃないか

──「ナイトメア・ファミリー」では、家族とはまた違う“つながり”として、宗教というものも描かれますよね。「ハカセの失敗」にはなかった要素でもあるかと思うのですが、これについても考えをお話しいただけますか。

第2話より、美月が月人会の思想を語るシーン。

自分としては、神様がいるとしても見えないし、見えないものは確認しようがないからわからないって持論があるんですけど、じゃあ神様って何かという部分を突き詰めたとき、それは人間そのものだと思っていて。小さな宗教も、世界中に広がっている大きな宗教も、もとを辿ればある人間の語りを信じているだけだと思うんですよ。目に見えない偉大な存在があるとか、とある石が素晴らしいんだとか、内容や呼び方はいろいろですが、誰かそれを言い出した人がいて、それを信じるのかってだけな気がします。極端な話、オタクと呼ばれる人たちが「推し」と言ってアイドルやキャラクターを崇拝するのも、ある意味では宗教じゃないですか。神様に対して何かを捧げることで、幸福感や救いを得る。もちろんいろんな考え方があるので、あくまで自分にとってはですけど。

──「幸せになる」「救われる」といった側面をもう少しお聞きしたいです。

自分が苦しかったり、迷ったりしているときに、誰かに「こうしたらいいよ」って言ってもらえたら、楽になれるじゃないですか。そのとき誰の言葉に耳を傾けるのか、何を信じるか、宗教もその選択肢の1つですよね。人間は自然界の動物たちとは違う脅威に囲まれているので、それから逃れようとするときに、人と人で寄り添って孤独を癒やすことは必要だなって思うんです。宗教って言われると、それだけでちょっと悪いイメージを持ってしまったり、どこか構えてしまったりするところもありますよね。でも上手に頼って、上手に立ち上がることができるなら、それでいいんじゃないかと思います。

第6話より。

──なるほど。うまく利用するぶんにはいいものであると。

ただ、世の中にはそれを悪用する人もやっぱりいるわけですから、信じ過ぎて盲目的になってしまうのは危険ですよね。でもそれは宗教に限らず、人を信じることってリスキーな部分はあると思います。甘い言葉には気を付けようっていう、それだけの話ですよね。

ぜひ「ハカセの失敗」と、見比べて楽しんで

──最後に、まだ「ナイトメア・ファミリー」を読んだことがない人に、メッセージをいただけますか。

もちろんいろんな人に読んでほしいんですけど、ぜひ手に取っていただきたいと思っている人のタイプが2つあって。まず1つは「ハカセの失敗」を読んでくれた人。キャラクターの思想も造形も、「ハカセの失敗」と近いキャラクターが出てきつつ、違う物語になっていきますので、照らし合わせながら読んでほしいです。もう1つは、モヤモヤするものに対して、何かを言いたい人。「ナイトメア・ファミリー」の登場人物は、不完全で心が弱い人ばかりなんですよね。マンガの中ではキャラクターがニコニコ笑っていたり、いい話みたいに描かれていたりする部分も多いんですけど、読む人によっては「そんなのは偽善だ」とか、「これってよくないんじゃないの」とか、いろんな意見があると思うので、それを思い切りぶつけてもらえたら。マンガを通して、幸せってなんだろうか、家族ってなんだろうかって、自分の考えを確かめたり、深めたりする作業ができたらって思っています。

──ありがとうございます! ちなみに2巻ではどんな展開が待っているんでしょうか。

読者の「こうかな?」という予想を、いい意味で裏切っていくと思います。「えっ、こうなるの?」と驚くような展開になると思うので、ぜひ楽しみにしていてほしいです。

1巻のカバーに使われたイラスト。

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