「ナイトメア・ファミリー」七野ワビせんインタビュー|救いを求める人々に、幸せを売り歩く“疑似家族”七野ワビせんが問いかける家族の姿、幸せの在り方

メインキャラのベースは、「ハカセの失敗」のキャラ

似てると感じた方もいると思うんですけど、「ナイトメア・ファミリー」の美月は「ハカセの失敗」のハカセ、ペペとキキはクローン、太陽はハリスがベースなんです。なんでそういうふうにしたかというと、先ほどもお話ししたように、テーマが同じでもキャラクターの性格によって歩む人生が変わるんだ、ということが描きたかった。それに、自分は手塚先生のスターシステムみたいな感じが好きなので、キャラクターたちが同じ世界観で暮らしていて、それぞれが実は親戚だったり、何か関わりがある人物同士だったりしたらいいなって思いがあって。

──名前が挙がらなかったところだと、月人様にもモデルがいますか?

七野ワビせんによる描き下ろしイラスト。

「ナイトメア・ファミリー」も「ハカセの失敗」も、10代の頃にラクガキしていたキャラクターたちが下敷きになってるんですけど、それでいうと月人様は、ファンタジーのお話の中の猫でした。今回はそれを、人間にしてみようかなと。私のマンガってイケメンがあまり出てこないので、1人くらいは女たらしがいてもいいんじゃないかなって(笑)。

──造形的な面でのこだわりも教えてください。

ハカセや美月は、自分が10代の頃にハマった、海外アニメのイメージで描いていますね。「Johnny the Homicidal Maniac」(殺人狂ジョニー)や「インベーダー・ジム」で知られる、ジョーネン・バスケスさんが好きなんです。目の上のまぶたの部分をアイシャドウみたいに描いてみるといった、これまでの自分の、昭和のマンガ風のキャラクターの作り方に加えて、新しい刺激としてアメコミ系のテイストを入れています。キャラクターがずっと同じ服を着ているのも、コスチュームみたいな感じで、コミカルに動いてくれたらいいなと考えてデザインしたものです。

──「ナイトメア・ファミリー」のペペとキキ、それから「ハカセの失敗」のクローンと、赤ちゃんや子供の描写がお上手だなと思ったのですが、その辺りも何か参考にされているものがあるんですか?

第4話より。

10歳以上年の離れた弟たちがいて、親戚にも赤ちゃんとかがたくさんいる家で育ったので、その経験ですかね。あとは子供向けのテーマパークで働いていたこともあって、そのときに感じたこと、そこに自分自身が子供のときに感じていたことなんかが入り混じっていると思います。子供って、大人が思っている以上に大人のことを見ていて、一生懸命そこから何かを学ぼうとしているんですよ。大人が未熟だと、子供が上手に学べなかったり、間違って覚えてしまったりすることもありますよね。未知の世界を大人を通じて知ろうとしている、その姿がすごく印象的だったので、そこは上手に描けたらいいなとがんばっています。キキは、まだ作中でしゃべるシーンは少ないんですが、物語が続いていくときっと今以上に重要なキャラクターになると思います。

家族って、永遠じゃないんですよね

──家族をテーマに描かれているということで、ここで改めて、ワビせんさんが“家族”というものをどう考えていらっしゃるかお聞きできますか。

第5話より。

自分はかなり特殊な家庭で育ったので、いわゆるお母さんがいてお父さんがいて、兄弟がいておばあちゃんがいて……という対人関係が、一切ピンと来ないんですよね。マンガの中だけのファンタジーだと思っていたんです。中学生くらいになって、それが一般的なものだと知って驚いたくらい、本当にわからない。そんな自分が「家族ってなんだろう」って考えたとき……私、結婚を一度失敗して、最近2回目の結婚をしたんですけど。私もパートナーも家出をしていて、親戚付き合いもなく、結婚するにしても誰に了承を得るでもなかったんですが、なぜ結婚したかっていうと、ただお互いに、相手が病気になったときに迎えに行ったり、身の回りの世話をしたり、そういうことを法律的に責任を持ってできるようになりたかった。そして、そういうふうに思える相手が家族だと思うんです。この感覚、伝わりますかね?

──何かあったときに責任を取りたいと思える関係かどうか、ということを重視されている?

そうですね、生死に関わる責任を持ち合う人間同士が家族。今の法律じゃ認められない部分もあると思いますが、同じ屋根の下で暮らしているかとか、血がつながってるかどうかとか、本当の子供かどうかとか、性別が男と女かどうかとか、そういうのは全部無意味だと思います。反対に、世の中には虐待を受けていても、「家族だから」と離れられない人もいるじゃないですか。それも自分の感覚からするとおかしいと思うんですよね。「家族じゃない」と出ていく権利ももっと認められてほしい。公的なところに頼ったりできるようになるのが理想ですけど、「家族になる」「家族をやめる」というのが、気軽にじゃなく、きちんと重みを持ったものとして、誰でも選択できるようになってほしいですね。

第1話より。「ナイトメア・ファミリー」では貧困、家庭内暴力、病など、さまざまな問題を抱える家族の姿も描かれる。

──家族をやめてもいい、という考えは興味深いです。

だって、もし相手が自分と一緒にいるのがつらいと言うのなら、離れてあげるのも責任じゃないですか。子供が巣立って行くのなら、例え自分がそばにいてほしくても、相手を愛しているのなら、見送ってあげるのも責任。だから、家族って永遠じゃないんですよね。私も家族というものに対する執着心は強いので、「自分を救ってくれる家族がいたら……」って願う気持ちはあるんですけど、でも、それが救いにならないってこともわかっているつもりです。最後まで一緒にいる存在って、結局自分なので。