コミックナタリー Power Push -「ミュージカル『黒執事』-地に燃えるリコリス2015-」

原作サイドからはどう見えた? 枢やな担当編集が語る「生執事」

枢やな「黒執事」を原作とする「ミュージカル『黒執事』-地に燃えるリコリス2015-」。第1作からセバスチャンを演じてきた松下優也に代わり、古川雄大が主演を務め、2015年11月から12月にかけて大阪、宮城、東京、福岡、そして中国3都市で上演された。Blu-ray とDVDは4月27日に発売されたばかりだ。

コミックナタリーではリリースを記念し、枢やなの担当編集・熊剛氏にインタビューを実施。「切り裂きジャック編」が生まれた経緯や、枢がミュージカルをどう見たかなどを、原作サイドの視点から語ってもらった。

取材・文 / 坂本恵 撮影 / 岸野恵加

「銀髪美少年じゃなくて大丈夫?」マダム・レッド誕生秘話

──「ミュージカル『黒執事』-地に燃えるリコリス2015-」は、単行本2~3巻にあたる「切り裂きジャック編」、いわゆる「赤執事編」が原作となっています。このエピソードは、どう生まれたんでしょうか。

「黒執事」は当初、全1巻で終わる短期集中連載に近い形で始まったんですね。ところが編集部の思惑以上に評判がよく、長期連載にしようという話になって。なので1巻に出てくる、悪いマフィアを執事が1人で壊滅させるというエピソード以外、さほど考えてなかったんですよ。まず舞台設定が19世紀の英国だから、切り裂きジャックの史実を使おうというところから始まって。

──なぜ切り裂きジャック事件を?

マダム・レッドとグレル・サトクリフ。

切り裂きジャック事件は迷宮入りして犯人が捕まっていない事件なので、「執事のくせにそんなものまで捕まえちゃうのかよ」っていう発想からですね。そこから事件の犯人を枢さんなりに、マンガ的にプロファイリングしていきました。被害者が子宮を持ち去られた娼婦で、男性容疑者が複数挙がったのに迷宮入りというところから、犯人は子供が産めない女性なんじゃないかというところに行き着いて、マダム・レッドというキャラクターが誕生しました。Gファンタジーでは、主人公に相対するキャラクターとしては、銀髪で美少年で、というほうがウケるんですけどね。「CV:櫻井孝宏さん」みたいな(笑)。それが、まさかの妙齢の女性キャラですよ。でもプロファイリング的に作っていったので、そこは歪めず。人気は出ないかもしれないとも思っていたんですけど、その代わりパートナーである死神のグレルは、とにかくはっちゃけてくださいと枢さんにお願いしました。ギザギザの歯で、赤い髪で。キャラクターを全面に押し出していますね。

──グレルはオネエの死神という、かなり奇抜なキャラクターです。キャラを作っていくうえで、熊さんのほうから枢さんにアドバイスなどはされたんでしょうか?

見た目に関してはなかったですね。心配だけしていたというか……。先ほども言ったように、「最初にセバスチャンと敵対する人外キャラクターなのに、銀髪ロングヘアー美青年とかじゃなくていいの?」とか、「櫻井孝宏さんが声やってくれそうなキャラにしなくていいの?」とか(笑)。

グレルの「死神の鎌(デスサイズ)」はチェーンソー型。

──ははは(笑)。でも結果的に、ものすごく人気が出たわけですよね。死神は必ずメガネをかけていたり、「死神の鎌(デスサイズ)」の形状もさまざまだったり、その設定の発想も素晴らしいなと思います。

枢さんはキャラクターデザイナーとしての才能がものすごくある方なんですよね。死神は必ず「死神の鎌(デスサイズ)」を持ってるという設定ができたんですけど、死神の鎌だから半円型になっている大鎌を持つという普通の発想ではなくて、「私、チェーンソー描きたい」って(笑)。設定は絶対なんですけど、スタンスとしてガチガチではないというか。

「赤執事編」は「全部乗せ」

──「赤執事編」は、この濃密なエピソードが全2巻というところにも驚きです。

熊剛氏

描けてないんですよ、そういう意味では。当時は僕も枢さんも若かったし必死で。時間もない、でも人生かかってるので、面白要素「全部乗せ」でいこう、と。1回お話を作った後に、さらに盛っていくというか。今考えると、あんまり賢いやり方ではないんですよ。ネームも3回か4回描かないといけないし。作った後に足していくので、ボリューム感としては非常にアンバランスなんですよね。今は僕も枢さんも新人じゃないし、マンガ的演出力とか構成力が付いちゃってるので、「赤執事編」は2冊には収められないです。オイシイところがありすぎて、今描いたら倍くらいの巻数になると思います。もったいない描き方してるので、相当下手なんですよ。ただ、入れ込んじゃってるのでパワーはある。良くも悪くも、下手くそなりのパワーが詰まってるというか(笑)。

──もう9年ほど前のエピソードですし、今見返すと反省点も出てくるんでしょうか。

意図していたことが読者さんに対して効いてなかったりもしますね。例えばグレルは劇場型のハイテンションなオネエというキャラクターができあがっているので、それを明かす前は徹底的に地味にして、あとセバスチャンとは真逆のダメダメな執事という対比にしようと。でもコマ数で数えると全然出てないんですよ。とても小さいコマで「すいません」って謝ってるだけで、「描けてる」と思ってたんですね(笑)。なのでアニメになったときは、脚本の岡田麿里さんにお願いして、有能じゃないダメな執事ということを強調するエピソードを、ほぼオリジナルに近い形で書いてもらいました。

──ミュージカルではグレルのダメダメさがたくさん表現されていました。

だからその辺も文句なしに成功ですよね。あと演劇だと全員が同時に同じ空間で演技をしてるので、コマの大きさに左右されない。舞台はそのリアリティの強さも魅力だと思います。

笑いと交換で情報を提供してくれる葬儀屋(アンダーテイカー)。

──予想もつかないどんでん返しが「黒執事」を読んでいて気持ちいいところでもありますが、葬儀屋(アンダーテイカー)の正体も、11巻から14巻の「豪華客船編」で明かされてきますよね。その辺りの設定はこの時点で考えていらっしゃったんでしょうか?

考えてましたね。そういった裏設定はいろいろ作ってたんですけど、それを伏線として匂わせるようなことを描いて読者に違和感を与えるということは、逆にしないようにしてます。いつ打ち切りになるかわからなかったので(笑)。

──ああ、伏線を回収してないと言われてしまったり。では葬儀屋と同じく情報提供者として登場した劉(ラウ)にも、まだ出てきていない裏設定があったりするんでしょうか……?

うーん、そこは、葬儀屋ほどじゃないけど、って言う感じですかね。

Contents Index
コミックナタリー 枢やな担当編集・熊剛氏インタビュー
ステージナタリー セバスチャン役・古川雄大インタビュー
「ミュージカル『黒執事』-地に燃えるリコリス2015-」発売中 / アニプレックス
「ミュージカル『黒執事』-地に燃えるリコリス2015-」
[Blu-ray+DVD] 8640円 / ANSX-10025
[DVD2枚組] 7560円 / ANSB-10025
本編ディスク(BD/DVD)

東京公演の模様を収録(約160分)

特典映像ディスク(DVD)

稽古場から中国公演まで密着したドキュメント映像/突撃キャストインタビュー企画「アバーラインとハンクスの事件簿」を収録(約135分)

枢やな「黒執事(23)」 / 2016年5月27日発売 / 607円 / スクウェア・エニックス
枢やな「黒執事(23)」

ロンドンで大流行りのミュージックホールに、カルト教団の疑いがかかる。ホールに潜入したセバスチャンとシエルは、名門寄宿学校を追われた元監督生と、飄々とした占い師・ブラバットと出会う。ブラバットはセバスチャンを一目見た瞬間、「人間では無い」と言い当てる…! 大ヒット執事コミック、新章「青の教団編」スタート!!

枢やな(トボソヤナ)
枢やな

1984年1月24日埼玉県生まれ。2004年月刊Gファンタジー(スクウェア・エニックス)にて「9th」でデビュー。2005年、同誌にて「Rust Blaster」を初連載する。2006年からは「黒執事」を連載し注目を集め、2007年にドラマCD化、2008年にテレビアニメ化、2009年に舞台化、2014年に実写映画化を果たした。

熊剛(クマタケシ)

2001年、エニックス(現:スクウェア・エニックス)に入社。同年より月刊「Gファンタジー」編集部に配属される。これまでの主な担当作品に「デュラララ!!」「魔法科高校の劣等生」「ZOMBIE-LOAN」、テレビアニメ「革命機ヴァルヴレイヴ」(副シリーズ構成として参加)がある。


2016年5月18日更新