コミックナタリー Power Push - マーガレットコミックス特集 あの頃も、これからも!一生少女マンガ宣言 番外編 マーガレット&別冊マーガレット編集長インタビュー
まだまだ少女マンガを卒業させない
マーガレットも別マも、主人公は全員高校生
──この特集で16人のマーガレット作家さんにインタビューを行ってきて、いくえみ綾先生に影響を受けた方がものすごく多いんだなと実感しました。脈々と受け継がれる系譜があるんだなと。
河野 皆さん、いくえみチルドレンですよね。マーガレットの作家さんでもすごく多いですよ。
今井 いくえみさんの影響はやはり絶大ですよね。
──マーガレットは受け継がれているものってあるんでしょうか。
河野 実はマーガレットは別マほどはない気がします。というのも、マーガレットってそのときどきの時代を反映したマンガが多かったと思うんです。初期は「ベルサイユのばら」「エースをねらえ!」と、いわゆる大河ロマンにスポ根。その後は「花より男子」ですよね。「花男」もいじめとか学級崩壊とかが問題になってた時代に出てきたお話で。尾崎南先生の「絶愛-1989-」や「BRONZE」もその時代の空気をいち早く取り入れて、新しい形の純愛を描いた作品でした。別マは脈々たる別マイズムがありますけど、一方でマーガレットは割と軽やかに、その時代に合わせてきた雑誌だと思っています。
今井 別マも遡ればなんでもありでしたけどね。美内すずえさんや和田慎二さんとか。ただ花とゆめ、LaLa(ともに白泉社)ができて本来別マにあったファンタジーや大河ロマン的な要素は全部そっちに移って、その後に、くらもちふさこさん、それから紡木たくさん、いくえみ綾さん、多田かおるさんと、“ミニマルな恋愛エンターテインメント”を追求していく作家さんが残り、それが今の別マイズムになっていったんじゃないかと思います。
──別マを読んでいると、全部が高校を舞台にした恋愛ものなのに、ここまで多彩な作品があるのって、本当にすごいと思います。
今井 皆さんびっくりするんですよ。「全員高校生なんですか!?」って。彼らみんな同じ学年に生きてるんですよ。大体、高校2年生とか(笑)。
河野 実はそれ、マーガレットもそうなんですよ。
──マーガレットにはもっと中学生がいるイメージでしたが、いないんでしょうか?
河野 今連載している作品はすべて高校生ですね。それこそ、私が編集長になってから変えた点です。今までは中学生を意識して作っていたところがあったんですけど、それを高校生に引き上げました。
──理由をお伺いしてもいいですか。
河野 Seventeenをやってきた経験からなんですけど、基本的に女の子って、2個上の学年を憧れの対象として読むんです。中学生を描くと、小中学生は読んでくれても、高校生になると卒業しちゃうんですよ。10代って大人になりたい年代だから、自分がそこに達したと思った瞬間にその雑誌を捨ててしまう。だけど高校生って普遍性を持っていて、高校生の主人公だと、その世界を気に入った人は割と大人になっても読んでくれるんです。別マなんて、私の40代の同級生が泣きながら読んでますから(笑)。
──確かに、大人でも別マを購読している人は多い印象です。
河野 そう、主婦が読んでいたりするじゃないですか。それは別マの世界を気に入ってくれているからですよね。そういう読者を掴みたいなと思って、ちょっと年齢を上げたところはあります。「まだまだ卒業させないよ」と(笑)。そう言いながらも女の子は大人に憧れるものなので、小学生の読者からもアンケートハガキがたくさんきますよ。読者層が上にスライドしたというよりは、下はそのままで上が広がった感じです。「メイちゃんの執事DX」が意外と小学生に人気なんですよ。
付き合ってからを描くのが、今の少女マンガのトレンド
──なるほど。今のマーガレット作品のトレンドはあるんでしょうか?
河野 マーガレットはちょっと甘めですね。女の子が女の子らしく存在して、全体の世界観がちょっと甘くて、あと、あんまりつらい思いをしない(笑)。私が昔読んでた頃の少女マンガと今の少女マンガが違うなって一番思うところは、割と早く両思いになるんです。それか、最初から付き合っているか。昔の少女マンガって、片思い期間がすごく長かったじゃないですか。もう苦しい苦しいって言って、彼が別の女の子を好きだったりとかして、つらい思いをいろいろしてからやっと結ばれてエンド。だけど今は、最初からくっついていて、そこからの展開を描く。読者は、マンガでつらい思いをしたくないんだなって思うんです。
──つらいことなんて、現実でいっぱいいっぱいですよね(笑)。
河野 そうなんですよ。アンケートを見ていても、主人公がつらい思いをするとガッと下がりますから(笑)。別にアンケートに振り回されているわけじゃないけど、そこの気持ちは汲んであげたいなと思います。今の高校生なんて、つらい思いして生きてる子もいっぱいいるじゃないですか。ちょっとでも楽しい思いをさせてあげたり、希望を与えたりできるかっていうところが、マンガの役割だと思うので。あとマーガレットには、ちょっとだけ女の子らしいとかガーリーとか甘さとか、そういう要素を自分としては入れていきたいなと思っているので、表紙のデザインを変えてみたりもしてますね。別マとは違う立ち位置で、マーガレットもがんばっていきたいので。私の中で、別マはさわやかで透明感があるイメージです。吹き抜ける風と光、みたいな。
──別マ作品の傾向はいかがですか。
今井 先ほど河野が言ったような、すぐくっついてデレデレするのが好き、というのはたぶん変わらないですね。じれったい関係って手間だし。みんな忙しいから(笑)。
ラブラブの究極の形は、一緒に住む系マンガ
──ははは(笑)。わかりやすいものが好まれるんでしょうか。
今井 マンガって即物的で、ある種、現実逃避のエンターテインメントなんですよね。読んでいる間だけはいい思いをさせてほしいという。ただ、ハッピーエンド、ラブラブな関係は全然ありだと思いますが、その中で人間の感情をしっかり描くというのは必要かなと。別マは最近はなんとなく、同棲もの、あるいはそれに近いものが増えてきていますね。
河野 あ、マーガレットも結婚ものをやりたいんですよ。
今井 結婚までいくとマーガレットの世界観な気がしますけど、ラブラブのわかりやすい究極の形は、やっぱり一緒に住むことですよね。
河野 マーガレットでは「椿町ロンリープラネット」もそうだし、下宿ですけど「ショートケーキケーキ」もそうですね。あとは「ケダモノ彼氏」や「婚約生」も。一緒に暮らす系の話は少女マンガ界全体で好調ですね。
──一緒に住んでいればすれ違うことがないですもんね。携帯がなかった頃の少女マンガって、大体すれ違ってますし。
河野 今は携帯があるから、すれ違うのが難しいんですよね。どんどん障害がなくなってる。そういう苦しい恋って、今はBLで描かれているじゃないですか。男同士だから隠さないといけない。男女の恋愛だと障害がほぼないんですよね。今の時代って、親も別に厳しくないし。
今井 だからBL読者が増えるのはわかるよね。昔の少女マンガ的なものをBLに求めてる。
河野 BL読んでると「昔の少女マンガだ!」ってすごく思います。少女マンガってリアルとか共感もすごく大事ですけど、それ以上に憧れを描いてあげるのが大事だと思っていて。特にこれから人生の荒波に漕ぎ出す子たちが多い、10代の雑誌では。大人になると絶対わかるんですよ。初恋の人とはほぼ結ばれないし、好きになった男は大体自分を好きになってくれないし、付き合えたとしてもいろいろあってうまくいかなかったり、まず結婚できないとか、あるじゃないですか(笑)。こんなマンガの出来事は起こりえないってわかるけど、これから先どこかで人生つらい思いをしたときに、若い頃に読んで抱いた、綺麗な気持ちが核になって乗り越えられるんじゃないかと。
──ええ。
河野 30代が読者層のCocohanaのときは、作家さんに「女の人の人生に寄り添うような、横で一緒に歩いてあげるようなお話を描いてください」って言っていたんです。一方でマーガレットでは「こっちだよ」って光のあるほうに引っ張っていけるような話とか、背中を押してあげるような話を描いてほしいとお願いしていますね。
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