ウラモトユウコが2024年よりカドコミアプリで連載している「くらやみガールズトーク」。ドラマ化された「わたし、定時で帰ります。」の著者・朱野帰子による怪談小説を原作とする本作で、ウラモトは初めての縦スクロールマンガ制作に挑戦している。
「くらやみガールズトーク」の1巻が発売されたことを記念し、コミックナタリーではウラモトと担当編集者の沖垣ひかり氏にインタビューを実施。もともと縦スクロールをほとんど読んだことがなかったというウラモトが、どのように作り方を学び、自分ならではのやり方に落とし込んでいったのかを聞いた。縦スクロールでは珍しい手描きのネームや、スタジオに発注する際の着彩指定など貴重な資料も掲載しているのでお見逃しなく。
取材・文 / 小林聖撮影 / 武田真和
進学、就職、結婚、出産、子育て、親の介護など、人生において訪れるさまざまな節目。その変化の中で、女性たちが誰にも言えず心にしまい込んできた思いがある。「花嫁衣装」では結婚によって名字が変わることへの複雑な思い、「藁人形」では初めての恋愛で露わになり知った自分の本心など、胸の奥深く、“くらやみ”に閉じ込めてきた感情が繊細に描写される。
プロフィール
ウラモトユウコ
1981年生まれ、福岡県出身。2011年、週刊ヤングジャンプ増刊アオハル(集英社)が主催する新人賞・アオハル漫画賞にて、「I Know.」がコミカライズ部門の大賞を受賞しデビューする。主な作品は「椿荘101号室」「彼女のカーブ」「ハナヨメ未満」など。イラストレーターとしても活躍し、数々の書籍の装画を手がけている。2024年、朱野帰子原作による「くらやみガールズトーク」の連載をカドコミアプリでスタートさせた。
沖垣ひかり氏(オキガキヒカリ)
KAODKAWAのタテスクコミック部所属の編集者。これまでの担当作品には「ハルとゲン ~70歳、はじめての子育て~」「タテスクコミック描き方講座 ~原稿用紙の作り方からネーム、着彩のポイントを解説!~」「くらやみガールズトーク」などがある。
縦スクロール×現代女性×怪談×ウラモトユウコという企画が生まれた理由
──怪談というと怖い幽霊のお話というイメージですが、この作品はそれだけではないですよね。生きている女性たちの苦しさや悲しみがあって、そこに怪談の要素が加わっているような。
ウラモトユウコ オムニバス作品なので、いろんな世代の女性が出てくるんですが、原作を読んでいて、育児とか年を重ねることとか自分に近い話題が出てくることで一気に身近に感じるようになりました。誰かの不思議な話というのでなく、「私の話だ!」って。
──コミカライズの最初のエピソード「花嫁衣装」もすごく怖くて切なかったです。怪談部分もそうですが、現実で起こる主人公のあれこれが……。
ウラモト 本当ですか? 男性にそう言ってもらえるのはうれしいです。私も沖垣さんも女性なので、自然に共感できる作品だったんですが、「男性に伝わるかな? わかってもらえるかな?」というのは不安だったので。
──ウラモト先生が縦スクロールマンガを描かれるというのは、なかなかびっくりしました。
ウラモト 縦スクロールマンガについてはだいぶ前に「チーズ・イン・ザ・トラップ」という韓国の作品を読んだことがあったくらいでした。まずフルカラーじゃないですか。「どんだけ手間がかかってるんだ! 韓国にはこんな作品もあるんだ」と驚いた覚えがあります。そのときはまさかのちに自分が描くことになるとは思っていなかったので、お話をいただいたときは「引き受けてもいいけどそもそも縦スクロールマンガってどうやって描くんだろう?」という感じでした。
沖垣ひかり おそらく読者さんも近い感覚があるのかなと思っていまして。マンガが好きでたくさん読んでいる方でも、縦スクロールはまだ馴染みの薄い世界だと感じている方が多いかもしれない。だからこそ、そういった読者さんにも縦スクロール作品を読んでいただいて、面白さを知っていただきたい。間口を広げるきっかけになるような作品を作りたいという思いで企画したんです。
──連載媒体も縦読み専門サイトとかアプリというわけではないんですよね。
沖垣 はい。「くらやみガールズトーク」はカドコミアプリで連載を開始し、昨年10月にスタートしたカドコミ内のCandleA(キャンドレア)という新ブランドにも参加しています。CandleAは社会的あるいは文化的に「いない」ことにされている存在や関係や感情について描かれる作品を積極的に掲載していくコミックブランドで、本作もテーマや内容がマッチしていたため、参加することになりました。「くらやみガールズトーク」がカドコミアプリ上に掲載される最初の縦スクロールマンガだったので、どんな反応が生まれるかドキドキしていたんですが、総合ランキングにも入ったり好評をいただけました。縦でも横でも面白ければちゃんと読んでいただけるんだ、と実感できた作品です。
縦スクロールマンガは異世界だけじゃない
──ウラモト先生にオファーしたのはなぜなんでしょう?
沖垣 もともと私がウラモト先生の大ファンというのも大きいんですが(笑)。人生で一番好きな作品が「椿荘101号室」なんです。朱野帰子先生の原作は、怪談小説というジャンルならではのゾッとしたりハラハラしたりという面白さはもちろんのこと、女性たちがさまざまな困難にぶつかりながらも強く生きていく姿に勇気をもらえる作品でもあります。ウラモト先生もいろんな世代の女性がいろんな立場でがんばっている姿や苦しみながらも進んでいる姿を、ときにポップに、ときにほの暗く描かれているので、作品の世界を鮮やかにコミカライズしてくださるだろうなと思ったんです。加えて、縦スクロール作品なのでやはりカラーが前提なんですが、ウラモト先生はおしゃれな色彩センスによるカラー表現も素晴らしい。ですので、ぜひお願いしたいなと。とはいえ、縦スクロールという形式に戸惑われるだろうとは思っていたので、市場やニーズのご説明をして、具体的な作り方はお話ししながら詰めていきました。
ウラモト まず作例というか、沖垣さんの担当作で縦スクロールの「ハルとゲン ~70歳、はじめての子育て~」という作品を見せていただいたんですよね。それでかなり不安が減りました。こういう柔らかい雰囲気の作品も縦スクロールでやっているんだって。
──縦スクロールというと、異世界ものや令嬢ロマンスなどが強いってイメージはありますもんね。
沖垣 「くらやみガールズトーク」もまさに、縦スクロールに馴染みがある方にも楽しんでもらえつつ、そうでない方には「縦にもこんなジャンルや作品があるんだ」と思ってもらえる作品だと思います。
ウラモト 具体的な実例を見せていただけたのは大きかったです。それでイメージしやすくなりました。その後は具体的なデータの作り方とか、KADOKAWAさんにはマニュアルがあったので、それをいただきながら質問をしていった感じです。
縦スクロールでもネームは紙で
──そもそも縦スクロールマンガのデータってどう作っているんでしょう?
ウラモト 沖垣さんに教えてもらうまで気づかなかったんですが、私が普段使っているマンガ制作ソフトのクリップスタジオにもウェブトゥーン用というフォーマットがあるんです。
沖垣 会社さんや編集部によってもフォーマットは違いがあると思いますが、弊社の場合はこうというフォーマットをお伝えしました。
ウラモト でも、原稿データの前にまずはネームを作らないといけない。私はネームは紙で切っているんですが、縦スクロールの場合どうやって……?と。
──確かに! めちゃくちゃ縦長になりますよね。
ウラモト そうそう。だから伺ったら、「紙で(ネームを)やってる方はいらっしゃらないと思いますー」って(笑)。
──わー!
ウラモト でも、私はどうしても紙で切りたいので、まずは紙でのネームの切り方から考えていきました。ネームの作り方って人によって全然違う。それこそ作家さんの数だけ作り方があると思いますが、私の場合は1話分の流れを目で見てパッと把握したいので、まずノートに小さく帯状に描いていきました。
──絵コンテみたいな感じですね。
ウラモト そうです。原作はこうで、一覧にするとこうなるというのをまとめていきました。
──ノートを見ているだけで何かワクワクしますね。
ウラモト デジタルでできたら楽なんでしょうけどね。私は紙でやらないとダメなんです。
──ストーリーの構成ももちろんですが、規定のページ数に合わせていくというのもネームの重要な役割ですよね。縦スクロールにはページという概念はありませんが、どうしているんですか?
沖垣 ここも会社さんによっていろいろだと思いますが、うちの編集部ではだいたい1話の目安は50コマから60コマになることが多いです。ざっくり1ページ5、6コマと換算して、60コマで1話が約10ページから12ページ分というイメージです。ただ、「60コマピッタリに」としてしまうと表現の幅が狭まるので、あくまで目安としてお伝えして、そのうえである程度自由に作ってもらっています。
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縦読みも横読みもやることは変わらない