「くらやみガールズトーク」ウラモトユウコが縦スクロールマンガを描いたら?担当編集とともに目指す、新たな表現と読者の広がり (2/2)

縦読みも横読みもやることは変わらない

──横の作品と縦スクロールではネームからかなり感覚も違いそうですが、実際切ってみていかがでしたか?

ウラモト 実はやってみると横の作品との違いはあまり感じませんでした。

──そうなんですか?

ウラモト マンガって視線の誘導が重要なんです。で、それが横読みだとページ内をジグザグに読者の視線が動くように作っていくけど、縦だとゆるやかにジグザグに下っていかせる。形は多少変わってもやっていることは同じだな、と。

──読み手としては感覚の違いを感じる部分もあります。横の作品の場合はコマの大きさなどで強弱を感じながら読んでいますが、縦スクロールの場合はスクロールしていくので動画に近い感覚というか、時間のコントロール感が違うなと感じています。

ウラモト なるほど、おっしゃるとおり動画っぽいところはありますね。カメラがズームアップしたりパンしたり、という感覚に近い。あと、顔が映った後にセリフを言うのか、セリフがきた後に顔が映るのかとかも考えます。横読みのマンガの場合は先にセリフだけサッと読んでいく人とか、先に推しの顔だけじっくり見てから読む人とか、いろんな読者がいると思うんですが、縦スクロールは(画面が一定方向に進むので)その辺を作家側がある程度コントロールできるなと思っています。余白の取り方なんかも考えますね。ただ、スクロールするスピードなどはやっぱり読者によってそれぞれだと思うので、スピードをコントロールするというより密度をコントロールしています。あまりギチギチにならないようにしたり、逆に余白が大きすぎて、ラジオで無音状態が続く「放送事故」みたいにならないようにしたり。

──ああ、「(白紙だから)データの読み込みエラーかな」と思われないように。

ウラモト そうです。私も、電子書籍のマンガが出始めた頃、最初に白いページが表示されたんで「データが読み込まれてないんだな」って待っちゃったことがあります(笑)。そうしたら、遊び紙(表紙と本文の間に挟まれる白紙のページ)だったという。そういうトラブルは避けようと意識してます。

沖垣 私たちもネームや原稿はPCだけでなく必ずスマホで読むようにしています。ほとんどの人がスマホで読むものなので、その感覚で考えないといけないので。

ウラモト 横読みとの違いというとフキダシの配置は最初よく指摘されましたよね。横読みの感覚で、右側で話している人のフキダシは右、左側で話している人のフキダシを左というふうに左右に並べたりしていたんですが、「縦に並べてください!」って。

沖垣 スクロールして縦に読んでいくものなので、横に要素が並びすぎるとどうしても詰まって見えてしまうんです。ただそういう基本的なことをお伝えすると、ウラモト先生はすぐに順応してくださって、次にはもう縦スクロールナイズされたものが出てくる。一発でこれが出せるというのはすごいなって思っています。

ウラモト 基本はやっぱり横読みと変わらないんだと思います。だから、少女マンガ家さんとかホラーの作家さんはすぐに縦スクロール作品に順応できると思います。空間の使い方が上手だし、ポエティックなものもハマる形式ですから。私はモノローグを四角でしか囲めないんですけど(笑)、そういうところもいろんなテクニックをお持ちですし。

──確かに合いそう!

沖垣 横読みよりもコマ割りという形に縛られない分、そこが難しいと思われてしまうんですが、ウラモト先生がおっしゃるように縦でも横でも意識するポイント、やることはあまり変わらないんだと思います。1回チャレンジしていただくと、思っていたより逆にやれることが多くておもしろいとおっしゃっていただくこともあります。

重たいテーマでも明るくポップな手触りを与えるウラモトカラー

──一方で縦読みだからハマる表現というのもありますよね。

ウラモト やっぱり画面が下に下に進んでいくものなので、落下する表現とかは合いますね。「藁人形」っていう話の中で、主人公が酢豚をゴミ箱に捨てるシーンがあるんですけど、このシーンの落下は絶対ハマるだろうと思っていました。描いていてもやっぱり気持ちよかったです。

──夜のグラデーションなんかもすごくいいなと思いました。

ウラモト 確かに。縦読みは時間の経過と物理的な落下が得意なスタイルだと思います。

沖垣 今作はウラモト先生の指示をもとに着彩スタジオにカラー化してもらっていますが、その着彩も大きな魅力だと思っています。ジャンルやテーマ的に、例えばロマンスファンタジーのようにガッツリしたカラーでやってしまうと重厚感がありすぎる。逆にモノクロだと暗い印象になってしまう可能性もあったと思います。そこをウラモト先生は抜くところは抜いて、色遣いもすごく考えて指定してくれている。明るさと不気味なところのバランスを色でも取ってくれていて、読みやすさや高い共感性、没入感を作ってくれています。ウラモト先生にお願いして本当によかったと思っている点の1つです!

ウラモト 色数があまり多くなっても画面をまとめきれないので、色数は抑えていこうというのは最初から考えていました。私の画風を知っていて依頼してくださったということなので、塗り方もいつもの感じでいいんだろう、というのもありましたしね。

──着彩の指定も見ましたが、かなり詳細な指示を出されていますね。

ウラモト カラーを人にお任せするということは経験がなかったので、私もどうするのがいいか考えながらでした。今回は最初に(着彩担当の方に)ご挨拶はしましたが、アシスタントさんのように密にやりとりするわけではないので、とにかく少しでも間違いがなくなるように、少しでもやりとりが楽になるようにと思って、できる限り伝わる指示を心がけています。でも、ほかの人がどんなふうにやりとりしているのかわかってないので、知りたいですね。「その手があったか!」ということもあるかもしれないですし。

沖垣 私たちもまだまだ、それほどたくさんの事例があるわけではないですが、なるべくサンプルをお見せしたりしながらサポートしています。ただ、ウラモト先生の指示はすごくわかりやすくて、着彩をお願いしているスタジオさんからも「こんなにわかりやすい指示をしていただいてありがとうございます!」というお声をいただいています。なので、ほかの作家さんがウラモト先生の指示を見て「こうすればよかったのか!」と思うことが多そうな気がします(笑)。

ウラモト 情報共有したいですねー!

沖垣 私たちも作家さんとマンツーマンで作品を作るという部分はたくさんの経験がありますが、作家さんだけでなくスタジオさん、その他関係各所と協力しての作品作りに関しては、いろんな作品を作りながら研究している段階だと思っています。

単行本化にあたり作家自らが横読みに再構成

──縦スクロール作品の作り方自体もいろいろですもんね。今回は作家さんと編集者さんで作る従来の横読み作品のスタイルがベースですが、作品自体スタジオで作るというスタイルも多い。

沖垣 KADOKAWAにもスタジオ形式で制作する作品がもちろんあります。一般的なイメージとして、ウェブトゥーンといえばスタジオ制作、のような印象はまだまだ多いように感じていますが、弊社の縦スクロールマンガは作家性を活かしつつ、ウェブトゥーンとしての面白さを両立するのを目指していることをいろいろな方に知っていただけるといいなと思っています。

──外部スタジオとの協力というところでいえば、横読みマンガへの再構成もありますよね。今作も縦スクロールで作って、単行本化にあたって横読みに組み直しています。

ウラモト 横読みマンガへの再構成も制作スタジオさんにまるごとおまかせもできる工程らしく「(お任せするかしないか)どうしますか?」とご相談をいただきました。それで自分でやる選択肢があるならやってみようかなって思ったんです。

──じゃあ、今回はウラモト先生自身が再構成の指示を? あれ、いろんな作品で横になったものを読んで自然さに驚くんですが、どうやってやるんですか?

ウラモト 私も「で、どうやるの?」って思ってました(笑)。そもそも当初は単行本化する予定はなく、本にする前提では作っていなかったんで。ただ、フルカラーの本でお値段も決して安いわけではないし、縦で読んでいた人が改めて買うだけじゃなく、単行本になったことで初めて手に取る方もいるでしょうから、ちゃんと本として完成度の高い面白いものにしなきゃって気持ちがあって、自分の責任でやらせてくださいとお話ししました。

沖垣 弊社における縦スクロールの作品では、原則的に横読み化は専門のスタジオさんに丸ごとお願いしています。ただ、ウラモト先生のご経験を活かしてご自身で切り直していただいたほうが面白いものになるだろうとは思っていました。なので、労力はおかけしてしまうんですが、ご相談させていただいて、ウラモト先生が再構成の指示を出して、スタジオさんに作業してもらうという形になりました。

──縦と横で変わらないようにしつつ、ちょっと読み味が変わる部分もあるのが面白いですよね。

沖垣 はい。ぜひ読み比べてほしいです。1巻クライマックス近くの、「あること」がきっかけで暗かった部屋がパッと明るくなっていくシーンなんかは、縦スクロールとカラーの魅力がハマったシーンの1つで、私もとても好きなんですが、横になったときもそのドキドキ感が損なわれないようになっています。縦で読んだ方は横でどうなっているか、単行本で読んだ方は縦スクロールだとどういう感じなのか、両方読んでみてほしいです。

ウラモト さっき少し話にも出ましたが、縦読みはこちらがコントロールできる部分も大きいので、「アトラクションをご用意しました!」みたいな気持ちもあります。横読みももちろんですが、縦読みでもぜひ楽しんでもらえればと思っています!

左からウラモトユウコ、沖垣ひかり。

左からウラモトユウコ、沖垣ひかり。

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