ドラマ「海月姫」|ドラマ化記念!東村アキコ×少女マンガ芸人・別冊なかむらりょうこ対談 「海月姫」をめぐる恋愛と、女の子の生き方

尼~ず並みに、ハマってます!

──最近おふたりが尼~ず並みにどハマリしてることはありますか?

東村 ある。茶道を始めたわけ。

なかむら ええー!

「雪花の虎」1巻 ©東村アキコ/小学館

東村 今「雪花の虎」っていう歴史マンガを描いとって、日本の歴史を辿っていくと茶の湯文化の話になってくるんよね。それで、取材せんといかんけど、習いに行く暇もないから茶道の本でも読もうかなと思ってたときに林真理子先生と対談して。林先生に「茶道は習ったほうがいい」って言われて、翌週、林先生の通ってる茶道教室に連れてってもらったの。そしたらもうハマっちゃって。その日、家帰ってさ、「洋食器全部捨てたろかい!」って思ったほど。

なかむら (笑)。すっかりハマったんですね、美しい和の世界観に。

東村 そうそう、茶を点てるというよりも、ガワ(外側)にもハマったんだよ。もう家の中も全部「和」にしてやろうかな、みたいな感じで断捨離始めるほど。山田芳裕先生の「へうげもの」を読んでたらわかるけど、茶道の空間に入ったら、時代の流れは関係ないんですね。戦国時代も現代も一緒。茶室に入る前には携帯も置いてくし。普通に生活してたら、精神と時の部屋みたいなものに入るっていうことないでしょ?

なかむら ない! 確かに。

東村 だから人生で初めて、戦国時代も現代も変わらん空間に数時間身を置いたのよ。そうすると、もう「コーヒーとか飲んでたの、なんだったのかな……」ってくらいになってしまって。

なかむら (笑)。

東村 だからいつか茶道マンガ描くと思う。りょうこちゃんは、何かハマってる?

別冊なかむらりょうこ

なかむら 私は、ものを作ることがすごい好きで、今は石粉(せきふん)粘土というものにハマってます。丸めて形にして色を塗って、自作のダルマを作ってます。

東村 (笑)。手芸女子なの?

なかむら どちらかというと工作女子ですね。編み物とかプラ板も好き。「これをお手本にして作ってください」とかじゃなく、自分で最初からデザインして作るほうですね。ダルマのバッジを作って芸人に配ったりしてます。

東村 (笑)。なんでダルマなの?

なかむら 実はこの前、石川に東村先生の原画の展示を見に行った帰りに、石川県のゆるキャラで、ダルマに似た「ひゃくまんさん」っていうマスコットキャラ(実際にはダルマではなく、石川の郷土玩具である「加賀八幡起き上がり」がモチーフ)に出会ったことがきっかけで……。

東村 なんで? 金沢に用事があったの?

なかむら いや、展示がメインの目的で……(笑)。

東村 ほんとに? 風景画を何枚か飾ってるだけなのに。うちに来たら見れるがな。

「かくかくしかじか」1巻 ©東村アキコ/集英社

なかむら (笑)。ちょっと情報を見間違えてしまって。Twitterを見て「あ、原画展やってんだー」と思ったんです。実際に先生の母校の金沢美大に行って、生徒の方に案内していただいたら、6枚しか飾ってなくて、見てるのも私だけで(笑)。でも、帰りに(金沢発祥の)ゴーゴーカレー食べて、先生が「かくかくしかじか」で描かれている坂で1人で写真撮って、その帰りに「ひゃくまんさん」に出会ってしまって……。

東村 それでダルマに目覚めたん?

なかむら そうです(笑)。それをきっかけに、3カ月くらいずっと石粉粘土でダルマを作ってました。

東村 変わった子ですわコレ。オタクですよオタク。

なかむら (笑)。

「女の子はみんなお姫様」のもう1つの意味

──「海月姫」は、月海が修と蔵之介のどちらを選ぶのか、という三角関係の物語でもありますが、もしなかむらさんが月海だったら、どちらを選ぶと思いますか?

ドラマ「海月姫」より。

なかむら まず私「海月姫」ってふたつの意味で女の子が成長する物語だと思っていて。月海ちゃんが成長すればするほど、蔵之介を選ぶんだろうなと思うんです。というのも、大体どの少女マンガでもそうだけど、女の子には常に変身願望があって、「キレイになりたい」「変わりたい」「誰かに愛されたい」と思っている。でも、この願望に加えて「そのままの自分を愛してほしい」「ありのままの自分を受け止めてほしい」という願望もある。このふたつの願望が同時に成長していって、最終的にどちらかが勝って、どちらかに統合される。「海月姫」には、女の子のそういう過程も描かれていると思うんです。

東村 その通りやね。

なかむら でも、生き方でいうと、人から愛されて明るく生きていくという生き方がある一方で、大人になればなるほど、自分が生涯をかけて何かを突き詰めていく生き方というのも出てくる。このふたつの生き方の、月海ちゃんがどっちに行くのか? という、そんな物語でもあると思うんです。

東村 よく読み込んでくれてるね。アーティストは……月海ってアーティストなわけじゃない? アーティストとか、クリエイターの女の子はね、男なんかどうだっていいんですよ、マジで。たまにデートできればいいくらい。「男の人と結婚しとるから幸せにしてもらおう」なんていう考え方がそもそもなくって、作品を作ってれば100%幸せ。それが評価されようがされまいが、それが生まれてきた意味だから「私は作る」と。もちろん女だけじゃなくて、ゴッホだって誰だってそうでしょ。だから「海月姫」は、クリエイターにとっては恋人なんてどうでもいいのよ、というのが一応テーマなの。特にラストはね。

なかむら なるほど。

マンガ「海月姫」より。

東村 とはいえときめきたいしね。だからデートしたり、素敵な王子様が周りをちょろちょろしててもいいじゃない、とも思う。だから目白先生(尼~ずたちの住む天水館に暮らすBLマンガ家)のいう「男を必要としない人生」というのはそういう意味で、別に尼~ずやから必要ないとか、男に免疫がないからいらんと言っとるのではなく、ものを作る人間というのは、男なんていらないんですよ、というテーマでもあるんだよね。まあどっちか選べと言われたら、私も蔵之介を選ぶね。

なかむら (笑)。

東村 蔵之介のほうがたくましいというか。

なかむら 自分でどんどん切り拓いていくところがたくましい。

──先ほどのなかむらさんの説でいくと、蔵之介はそのままの月海も愛してくれるし、キレイになった月海ももちろん愛してくれるし、何者かになろうとする月海も引き上げてくれる人物でもあるわけだから、そういう意味では月海が蔵之介を選ぶマンガのラストには、まさに東村さんのテーマが表れているんですね。

東村 そうですね。りょうこちゃんはやっぱりよく理解してくれてる。

なかむら よかった。ハッピー!

東村 (笑)。なかなかそこまで読み込んでる人はおらんからね。

左から別冊なかむらりょうこ、東村アキコ。

なかむら だから「海月姫」のドラマですごくいいなと思ったのが、月9だし、女装男子・蔵之介と童貞エリート・シュウシュウの兄弟と、オタク女子の月海という、今まで見たことない三角関係ということで、恋愛の要素を存分に出すような展開になっていくのかなと思ったら、尼~ずたちの強さがほとばしっている。そこに私はめちゃくちゃ感動しました。私が好きな「海月姫」のいいところが全面に出ていて、素晴らしいなと思って。最終的に月海が兄弟のどっちを選ぼうが、尼~ずたちは強くなって終わったね!となったら素敵だなと思っています。

東村 要するに、世の中の男はみんな、お姫様の家来なのよ。

なかむら (笑)。

東村 「(風の谷の)ナウシカ」でもクシャナが一番カッコよかったでしょ? 「焼き払え」って言うあの人が一番カッコいいじゃない。まわりにかしづいてる男の人たちも、なんかうれしそうじゃん。

なかむら (笑)。

東村 「もののけ姫」でもエボシ御前が一番かっこいいじゃない。だから女帝でいいのよ。日本には卑弥呼という女が治める時代もあったわけだし。だから私は強い女子には彼氏がいっぱいいてもいいと思う。今さ、週刊誌でいろんな人が不倫を暴かれてるけど、もういいじゃないと思うよ。女の子はお姫様で、強くていろんなことを生み出す存在で、1人の男の人に人生を捧げなければいけないという考え方はもう捨てていいんじゃないかなと。

ドラマ「海月姫」
ドラマ「海月姫」
フジテレビ系毎週月曜21:00より放送中
スタッフ
原作:東村アキコ「海月姫」(講談社「Kiss」所載) 
脚本:徳永友一
編成企画:渡辺恒也
プロデュース:小林宙
演出:石川淳一、山内大典
制作:フジテレビ/共同テレビ
キャスト
倉下月海:芳根京子
鯉淵蔵之介:瀬戸康史
鯉淵修:工藤阿須加
ジジ様:木南晴夏
ばんばさん:松井玲奈
まやや:内田理央
千絵子:富山えり子
稲荷翔子:泉里香
花森よしお:要潤
鯉淵慶一郎:北大路欣也
ほか
東村アキコ(ヒガシムラアキコ)
東村アキコ
1975年10月15日生まれ、宮崎県出身。1999年、ぶ~けDX NEW YEAR増刊(集英社)にて「フルーツこうもり」でデビュー。2001年、Cookie(集英社)で「きせかえユカちゃん」の連載を開始。ファッショナブルな登場キャラクターとライブ感のある話作りで人気を集める。2006年、モーニング(講談社)にて自身の家族のエピソードにフィクションを交えて描いた「ひまわりっ~健一レジェンド~」の連載を開始。代表作に「ママはテンパリスト」「海月姫」「かくかくしかじか」「東京タラレバ娘」などがある。現在はココハナ(集英社)にて「美食探偵 明智五郎」、ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて「雪花の虎」を連載中。
別冊なかむらりょうこ(ベッサツナカムラリョウコ)
別冊なかむらりょうこ
1986年5月6日生まれ、新潟県出身。ワタナベエンターテインメント所属。少女マンガ好きを生かしたあるあるネタや、「現実では見たことないが少女マンガにはよく見るシーン」などの少女マンガネタで人気を集める。2016年より「るんるん!少女漫画っ子サミット」を開催。2017年には中村涼子名義で「女芸人No.1決定戦 THE W」の決勝に進出した。