ドラマ「海月姫」|ドラマ化記念!東村アキコ×少女マンガ芸人・別冊なかむらりょうこ対談 「海月姫」をめぐる恋愛と、女の子の生き方

「尼~ず」はじめ、女優たちの怪演

──ドラマでは、尼~ずを演じている女優さんたちの再現度の高さが素晴らしいと話題になっていますね。

東村 なんかもう、申し訳ないよね。

なかむら 申し訳ないってどういうことですか?

東村 だって、別にドラマになるって思って描いてないからさ。もう、申し訳ない、ほんとに、申し訳ない。

なかむら (笑)。

ドラマ「海月姫」より、左から松井玲奈扮するばんばさん、木南晴夏扮するジジ様、富山えり子扮する千絵子、内田理央扮するまやや、芳根京子扮する月海、瀬戸康史扮する蔵之介。

東村 みんなすごいけど、とくに、まやや役のだーりお(内田理央)ちゃん。あんなキレイな人がさ。あんな高い声、どっから出るんけ?

なかむら 声も表情も動きも、すごいですよね。ご本人と全然違う。

東村 あと、ジジさま役の木南(晴夏)さんって、映画「20世紀少年」の小泉役の女優さんでしょ? 私、あの人がすごく好きで。ほんとに浦沢先生の絵みたいな顔してて、小泉役に抜擢されたときに、「顔のタッチが浦沢タッチやんけ!」って思ってたんやけど、今回はちゃんと私のタッチになってるから、不思議だよね。

なかむら あと、千絵子さん役の富山えり子さんのハマりっぷりもすごい。

マンガ「海月姫」より。

東村 うまいよねーあの人も。で、ばんばさんが松井(玲奈)さんでしょ。うちの母親がさ、「(元)AKBの子どれ!?」って、すんごい聞いてきて(笑)。「いや、ばんばさんらしいよ?」って言ったら、「えええー!」って。

なかむら (笑)。あと、芳根京子さん演じる月海が美しく変身するシーンあったじゃないですか。私、あれ、ドラマ史上一番無理のない変身シーンだなって感動しました。変身の度合い、マンガ通りですよね。

東村 そうやねん! 無理がなかったよね。

なかむら ちょうどいい飛躍度合いというか。マンガにちゃんと再現度を合わせるんだな、って、私めちゃくちゃ感動しました。

──蔵之介の部屋から飛び出した月海を見るシュウシュウの顔がまたよかったですよね。

なかむら シュウシュウっぽいというか、マンガっぽいリアクションでしたよね。

東村 映像もすごいキレイよね。やっぱ月9はカメラがすごいんかな(笑)。ちょっと画面に色がついてて、それもまたマンガっぽくていいんよね。

ドラマ「海月姫」より、泉里香扮する稲荷翔子と、工藤阿須加扮する鯉淵修。

なかむら あと私、稲荷さん役の泉里香さんが大好きなんですけど。

東村 あの方も演技が上手やね。稲荷の性格の悪さが全面に出てる。泉さん、これから女優さんとしてもブレイクするんちゃう? やっぱ悪女枠っちゅうのは、菜々緒ちゃんもそうやけど、ガーンといくからね。

マンガ取材のために服飾業界に潜入

なかむら ずっと聞きたかったんですけど、東村先生は「海月姫」に描かれているような服飾業界についてどうやって調べたんですか?

左から別冊なかむらりょうこ、東村アキコ。

東村 あのね、これには有名なオチのある話があって……。私、連載中に洋服のブランドを実際にやったん。

なかむら えっ!

東村 もともと私も洋服を縫ったりはできるんやけど、さすがに突っ込んだ業界の話は「わからん!」ってなって。そんなときにたまたま、某ブランドに勤めてた大学の友達が独立することになって、「それ、私も混ぜてよ」ってお願いしたの。お金は全部出すから、そのかわり取材させてって。それでずっと横で見てたのね。結果、めっちゃ借金ができる、っていう。

なかむら 恐ろしい(笑)。

東村 ブランドがこけて、すぐ畳んで。やっぱりめっちゃお金かかるわけ。でも展示会に出して、売れなくて、とかそんな過程を近くで全部見てたから、実際に自分が経験したことを描いてたのよ。

なかむら マンガでもまさにそのシーンがリアルで。

東村 展示会やっても人が全然来なくて。「あ、こんなに誰も買わないのね」って、そんな感じですよ。

──実体験なんですね。マンガだと、生地を扱うお店のインド美人、ニーシャが出てきて、アパレル業界のリアルを蔵之介に教えてくれますよね。

東村 そうそう。いま、生地も縫製も、飾りのチロリアンテープとかも、作ってるのはインドが多いんよ。だからインド人のキャラクターを出したんです。

マンガ「海月姫」より。

なかむら 読んでいてすごく自然で、違和感がないのは実体験だったからなんですね。

東村 でもさ、「海月姫」では月海と蔵之介が「Jellyfish」を起ち上げるわけなんだけど、現実ではファストファッションが盛り上がっていたし、あんだけ安くてかわいいお洋服がいくらでも街で売ってたら、わざわざ高い洋服なんてみんな買わないわけ、お金ないし。だからそこの矛盾をどうしようかな、というのは作品の中でもずっと考えてた。

なかむら 確かに手作りしてても、布が高くて「もう既製品のほうが安いじゃん」っていう場合ありますもんね。手作りは趣味として作ってる時間が楽しいって割り切らないとやってられないのはよくわかります。

東村 あと私、デザイナーとして(ココ・)シャネルが好きなんです。シャネルはいわゆる貴族階級のドレスを終わらせて、コルセットから女性を解放した人。初めてシャネルが作ったのは職業婦人のための服で、伸び縮みするジャージー素材でスーツを作ったのね。ジャージーはそれまでは男の人の素材だったのに、あえて使った。今シャネルは、銀座のお姉さまとか、美人が着るブランドみたいに思ってる人が多いけど、実はすごいパンクなブランドやったんね。マンガではそのあたりも参考にしつつ描いてました。

左から別冊なかむらりょうこ、東村アキコ。

なかむら なるほど。働く女の人たちのための、リアルに生きる人たちのための服だった。「海月姫」のテーマそのものだったと。すごい。

東村 最初に「海月姫」を描きはじめたときから、ずっとシャネルのことが頭にあって。私もたまにね、清水の舞台から飛び降りるつもりでシャネルを買うの。「たっけーなー!」と思いながら。でも買ったらずっと着続けるわけよ。で、私ケチだから「この服、10年着たとして……」って、月割りとかで計算すんの。そしたら月に2、3000円なのよ。そうなってくると2、3000円のセーター買ってワンシーズンで捨ててるわけだから、どっちが高いのかと。

なかむら たしかに、そうなりますよね。

東村 別に全部が高い服じゃなくていいんだけど、一張羅という言葉があって、それをみんな持つべきじゃないかって、描きながら思ったんだよね。それが1枚もない人生はつまんない。やっぱり10年着てる服がタンスに1、2枚あるような人生のほうがいい。私も普段はジャージとかトレーナーとかばっかり着てるけど、ここぞというときはね。

なかむら 素晴らしい。

ドラマ「海月姫」
ドラマ「海月姫」
フジテレビ系毎週月曜21:00より放送中
スタッフ
原作:東村アキコ「海月姫」(講談社「Kiss」所載) 
脚本:徳永友一
編成企画:渡辺恒也
プロデュース:小林宙
演出:石川淳一、山内大典
制作:フジテレビ/共同テレビ
キャスト
倉下月海:芳根京子
鯉淵蔵之介:瀬戸康史
鯉淵修:工藤阿須加
ジジ様:木南晴夏
ばんばさん:松井玲奈
まやや:内田理央
千絵子:富山えり子
稲荷翔子:泉里香
花森よしお:要潤
鯉淵慶一郎:北大路欣也
ほか
東村アキコ(ヒガシムラアキコ)
東村アキコ
1975年10月15日生まれ、宮崎県出身。1999年、ぶ~けDX NEW YEAR増刊(集英社)にて「フルーツこうもり」でデビュー。2001年、Cookie(集英社)で「きせかえユカちゃん」の連載を開始。ファッショナブルな登場キャラクターとライブ感のある話作りで人気を集める。2006年、モーニング(講談社)にて自身の家族のエピソードにフィクションを交えて描いた「ひまわりっ~健一レジェンド~」の連載を開始。代表作に「ママはテンパリスト」「海月姫」「かくかくしかじか」「東京タラレバ娘」などがある。現在はココハナ(集英社)にて「美食探偵 明智五郎」、ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて「雪花の虎」を連載中。
別冊なかむらりょうこ(ベッサツナカムラリョウコ)
別冊なかむらりょうこ
1986年5月6日生まれ、新潟県出身。ワタナベエンターテインメント所属。少女マンガ好きを生かしたあるあるネタや、「現実では見たことないが少女マンガにはよく見るシーン」などの少女マンガネタで人気を集める。2016年より「るんるん!少女漫画っ子サミット」を開催。2017年には中村涼子名義で「女芸人No.1決定戦 THE W」の決勝に進出した。