コミックナタリー Power Push - マーガレットコミックス特集 あの頃も、これからも!一生少女マンガ宣言 第14回 いくえみ綾「I LOVE HER」「バラ色の明日」「太陽が見ている(かもしれないから)」
人間を鋭く切りとるいくえみ節
テンポが悪いのが一番嫌
──先ほどセリフでネームを作っていくとお話しされていましたが、キャラ同士の会話が口語的というか、テンポがとてもよいのもいくえみ作品の魅力ですね。
テンポが悪いのが一番嫌なんです。無駄なセリフとか、無駄なコマとか、無駄なモノローグとか……。つっかからないように、同じことを言わないように。無駄なことを言わないように作ってますね。
──ご自身が鑑賞する側でも、テンポのいい作品が好きですか?
そうですね。映画でもテレビでも、モタモタしていると嫌になります。映画は「ブルース・ブラザーズ」「シャイニング」「セブン」がすごく好きですね。
──サスペンスやホラーもお好きなんですね。
ホラー好きなんですけど、いちいち怖がってるシーンが多かったりすると、途中で観るのをやめてしまったりもします。あとは「アマデウス」が大好き。3時間くらいあるけど、あっという間に観れちゃうんです。無駄がないから。日本のTVドラマだと、最近では「デート~恋とはどんなものかしら~」がすごく面白かったです。
──杏さんと長谷川博己さんの掛け合いのテンポが、とてもよかったですね。
同じ脚本家さん(古沢良太)の「リーガル・ハイ」もよかったですねえ。無駄なことが何ひとつない。
──いくえみ先生の頭の中では、ほっといてもキャラクターたちが勝手にしゃべってくれる感じでしょうか?
そうですね。割としゃべってます。ネーム直すときも、セリフは最初に描いたままなことが多いかな。
──しゃべり方もそうですが、描かれる若者の服装や雰囲気もいつもリアルというか、時代にマッチしていますよね。最新作「太陽が見ている(かもしれないから)」も高校生男女3人が主体になっていますが。
でも最近の学生の感じとか流行は、よくわかってないですよ。ファッション誌も前はいろんなの買ってたんですけど、最近は1誌に絞っていますね。私SNS関係丸っきりやってないんですけど、そこらへんでギャップが出てきちゃうよなあと思って。難しいです。
──LINEはしっかり出てきますね。
自分は全然使ってないんですけどね。「LINEの画面ってどんなの?」って、家族に見せてもらったりします。でも私の描く高校生は、高校生にしては大人っぽいと思いますよ。「高校生、こんなこと言うのかな。考えるのかな。でもそうしないと話が進まないしな」って(笑)。大学生になると、途端にちょっとつまらなくなりますよね。
──つまらなくなる、というと?
私あんまり、大学生のマンガって好きじゃなくて。なんだろう、縛りがなくなるからなのかな。
──「朝がくる度」や「潔く柔く」の亜衣編など、大学生を描いた名作も残してらっしゃるのに。
「朝がくる度」懐かしい。あれも男の子主人公だったんで、自分でも割と楽しく描いたんですけど、あんまりウケなかったですねえ(笑)。
私が求めても、キャラクターが許してくれない
──「太陽が見ている(かもしれないから)」に出てくる高校生たちは、確かにこれまでのいくえみ作品の高校生たちよりは大人っぽいなと思います。妙に冷めているというか。
第1話の修学旅行のシーンは、自分の実体験を描いちゃいました。修学旅行がすごく嫌だったんですよ。「行かない」って言ったら友達が「行こうよ、行こうよ」って言うから行ったんですけど、案の定つまんなくて。で、作中と同じように女子同士のケンカとか始まるんですよ。ホントに「大変だなー」と思いながら見てましたね。
──そもそもこの作品は、フラットハウスを描いてみたいというところから始めたんですか?
フラットハウスは後付けなんです。女の子2人を描こうかなってところからですね。女の子2人だったら、やっぱり男の子を取り合うのかな?と膨らませていって。本当はこのタイトル通りに、もっと「お天道様が見てるよー!」というようなイケナイことをいっぱい描きたかったんですけど、やっぱりなかなかできなかった。Cookieだしな、と。
──自主規制している。
なんとなくできない。私が求めても、キャラクターが許してくれないんですね。
くらもち先生のマンガで、話の作り方がわかった
──それではここからは、思い出のマーガレット作品について伺っていければと思います。
昔の別マだと、やっぱり私にとっては美内すずえさんなんですよね。幼稚園の頃、4つ上の姉が別マを買っていたので、それを読んでいて。
──幼稚園児で別マを!?
別マとりぼん(集英社)となかよし(講談社)と……いろいろ買ってて、その中でも別マが一番好きでした。どっちが先に別マを読むかで絶対私は負けて、しょうがなくりぼんを読んでたんですけど(笑)。美内さんは「ジュリエッタの嵐」に「魔女メディア」、「みどりの炎」とか。絵がとにかくかわいかったし、話がすごく面白くて。ホントに大好きでしたね。
──別マは投稿を始めるまで、ずっと読んでいたんですか。
ずーっと読んでましたね。発売日が楽しみでしょうがなくて。くらもちふさこ先生は読み切りを毎月、たぶん6カ月連続で描いていたことがあって、それを楽しみにしてたのをよく覚えてるなあ。「スターライト」とか「赤いガラス窓」「糸のきらめき」とかも、ワクワクして読んでました。
──いくえみ先生のペンネームも、くらもち先生の作品に由来してるんですよね。
「いく」の響きと「綾」の漢字が「小さな炎」っていう読み切りの綾瀬幾っていう男の子、「えみ」は「アイドルシリーズ」の笑ちゃん、「りょう」は「糸のきらめき」の良から。小学6年生だったので、なんとなく好きなキャラを挙げていって「これいいんじゃない?」と。紙に書いて、姉に見せた記憶がありますね。
──その名前とこんなに長く付き合うとは。
ねえ。全然思わなかったです(笑)。あと「おしゃべり階段」は私がデビューする前の中学2年生、加南と同じ歳のときに始まったのでよく覚えてる。毎回カラーページが美しくて、真似していろいろ描いてました。すごく長く感じたんですけど、2巻分しかないんですよね。くらもち先生が出てきた頃、「こんなの見たことがない。しかもすごい上手だ」って思って。そして「話ってこうやって作るんだ」って、くらもち先生のマンガを読んで初めてわかったんですよね。それはそれは勉強になりました。
──くらもち先生も、いくえみ先生と同じく連作短編をよく描かれますよね。「駅から5分」もそうですが。
あー、そうですね。あれもすごく込み入っていて。Cocohana(集英社)で相関図を見ましたけど、それでも難しかった(笑)。でもくらもち先生は全部好きですね。「東京のカサノバ」も、とにかくちぃちゃんがカッコよくて。始まったときに、昔の雰囲気に戻れたような感覚を感じて、うれしかった思い出があります。
──昔の雰囲気?
なんでしょう、この作品が出た80年代って、デザイナーズブランドとかが流行ってきて、オシャレな感じになった時代で。自分も大人になっていって、それがだんだん変わっていくんだ、みたいな感じもあったんですけど、私たちが小学校、中学校くらいのときの雰囲気が出ていたので、そのときの空気感を思い出しましたね。
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- 第16回 八田鮎子
- 番外編 マーガレット&別冊マーガレット編集長インタビュー
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- いくえみ綾「太陽が見ている(かもしれないから)」2巻
- いくえみ綾「太陽が見ている(かもしれないから)」3巻
いくえみ綾(イクエミリョウ)
1964年10月2日北海道生まれ。1979年、別冊マーガレット(集英社)にて「マギー」でデビュー。短編を得意とし、時代とマッチした感性の作品で20代女性を中心に人気を得ている。2000年「バラ色の明日」で第45回小学館漫画賞を受賞。奥田民生のファンとして知られ、その楽曲をマンガでトリビュートした単行本「スカイウォーカー」を発表している。2004年よりCookie(集英社)にて「潔く柔く」を連載。同作は2009年、第33回講談社漫画賞少女部門を受賞する。2010年にCookieにて「プリンシパル」を、2011年にcomicスピカ(幻冬舎コミックス)にて「トーチソング・エコロジー」を連載開始。2015年現在は、Cookieにて「太陽が見ている(かもしれないから)」、Cocohanaにて「G線上のあなたと私」、フィール・ヤング(祥伝社)にて「あなたのことはそれほど」「そろえてちょうだい?」、月刊バーズ(幻冬舎コミックス)にて「私・空・あなた・私」、月刊!スピリッツ(小学館)にて「おやすみカラスまた来てね。」と6本の連載を抱えている。
2016年1月22日更新