コミックナタリー Power Push - 創刊5周年記念 月刊ヒーローズ

"3カ月連続企画 第3回 白井勝也×高橋留美子 対談

“読者”だった高橋留美子が語るあの頃のマンガ、描き続けたいもの

「めぞん一刻」という傑作とともに

──そのスピリッツから「めぞん一刻」というヒット作が生まれました。

白井 「めぞん一刻」のヒットの手ごたえは、1話目からありました。アパートの奇抜な住人たちと、主人公の五代くんに未亡人の響子さん。練りこまれた設定で、1話目から“持っていかれる”感じがありました。新しい世界に連れて行ってくれる感覚ですね。傑作と一緒に仕事できるというのは身に余る光栄でした。これだけの青春ものの傑作は、もう出ないのではないでしょうか。

高橋留美子

──高橋さんは連載にあたって、「めぞん一刻」のストーリーはどこまで考えていましたか?

高橋 方向性はぼんやりと考えていたと思いますけど、具体的にどうこうというところまでではなかったですね。手さぐりでやっていたので。終盤の展開は、終わる1年前くらい前から見えてきたというか、だんだんこうなってくるんだなと、描いていてわかってきた感じです。

──五代くんの青春記の形になりましたね。

高橋 結果的にそうなりましたよね。もともとはアパート人情ものをやりたかったんですが、結局のところは青春ものが正解だったのかなって思います。人情ものを描くにはあまりにも子供というか、経験値が少なかったですから。

本をめくる面白さを大切にしたい(高橋)

──高橋さんがこれからのマンガに期待することは、どんなことでしょうか。

高橋 私は好きな作品は単行本で買いますし、(「境界のRINNE」の)連載誌のサンデーも結構読んでいるほうだと思うんです。

白井 今でもたくさんマンガを読んでますよね。

高橋 読んでおります(笑)。やっぱり、若手の面白い人が出てくるのが楽しみだというのもありまして。青年誌も送っていただいたものはなるべく目を通しているんですけど、どの雑誌も必ず読みたくなるマンガがあるんです。やっぱり、紙媒体であることが私にとっては大切で。“本をめくる”っていう面白さ、それを自分の中で大切にしていきたいなあって思っているんです。

白井勝也

白井 雑誌で「自分のライバルを潰しておかなくちゃ」って思うことはありますか?

高橋 直球の質問ですね(笑)。うーん……ないですねえ。“潰す”という方法がわかりません(笑)。一介のマンガ家にどれほどの権利があるものか。たまにいるじゃないですか、「潰してやる」とか言う作家。どの口が言ってるのかと(笑)。どの程度のものを描いてる作家が言うのかなと思ってしまいますね。私は作品を見ると読者になっちゃうほうです。

白井 ライバル視するよりも。

高橋 でも、他社の作品のほうが楽ですね。競争しなくていいので気楽に読めます。

“るーみっくわーるど”のヒーロー像

月刊ヒーローズ2017年1月号。12月1日より全国のセブン‐イレブンにて販売される。

──月刊ヒーローズはさまざまなヒーローを輩出する雑誌というコンセプトがありますが、高橋さん自身のヒーロー・ヒロイン像はどのようなものでしょう。

高橋 子供のときから考えると、「あしたのジョー」の矢吹丈は永遠のヒーローですね。自分が描くヒーローとなるとやっぱり、なんというんですかね……「ヒーローらしからぬ」というか、“外してる”ヒーローになるんですよね。

白井 誰かを救うために一直線に突っ走る、というものではなく。

高橋 自分が完璧な人間を描けないのもありますが、どこか足りない人が愛せるんです。

白井 キャラクターを立てるときには、ウィークポイントを定めるのも大事ですからね。

高橋 そういう部分があったほうが描きやすいですし、おそらく私のマンガを読んでいる人はそういうのを求めてくれていると思っています。「いつボケるんだ」と。

白井 ははは(笑)。

高橋 それは大切なことなので(笑)。立派な人を描き続けるのは難しい。特に、主役として描き続けるのは大変かも。

左から白井勝也、高橋留美子。

白井 今の時代のヒーローって、「これだ」と言いづらくなってるけど、必須の要素ってあるじゃないですか。例えば「あしたのジョー」だったら矢吹丈の持っている一匹狼的な野性、孤独、ふと見せる子供たちへの優しさ、ボクシングへのストイックさ、プロフェッショナルな精神……。そういうヒーローにとっての大切な要素って、今の時代にも変わらずありますよね。

──共通するものがあるかもしれません。

白井 あと要件としては自己犠牲も入るかな。時代を超えたヒーローって、最初から作ろうとしてできるものでもない。ジョーのように、「うる星やつら」や「めぞん一刻」の主人公たちのように、長く愛されることが大切ですよね。もしかするとサザエさんだってヒーローかもしれない。「長く愛されたものが、結果としてヒーローになる」っていうこともあるかもしれませんね。ヒーローズでもいつか執筆をお願いして、高橋先生なりのヒーロー像を描いてもらいたいですね。

月刊ヒーローズでは、円谷プロの作品を愛する作家が描き下ろしたカラーイラストをポスター化する企画「総天然色 円谷オールスターズ」を展開。高橋留美子は「ウルトラQ」に登場する怪獣たちを執筆した。

高橋 ええ、機会があれば(笑)。ヒーローズは「ウルトラマン」や「仮面ライダー」のシリーズが掲載されているので、自分の世代のヒーローがいる感覚があって、手に取りやすいと思います。私は「ウルトラマン」でなくその前の「ウルトラQ」世代なんですよ。以前、円谷プロのポスター企画で参加したときは「ウルトラQ」を描きましたね。(参照:「P2!」の江尻立真がヒーローズ登場、高橋留美子の「ウルトラQ」ポスターも

白井 あのときはお世話になりました。高橋先生は今後こう描いていけたら、という理想像はありますか?

高橋 願わくば少年マンガをできるだけ長く続けたい。最後まで描いていたいなあ、と思っています。

月刊ヒーローズ創刊5周年特集 Index
第1回 糸井重里×白井勝也
第2回 樹林伸×白井勝也
第3回 高橋留美子×白井勝也
「月刊ヒーローズ1月号」/ 2016年12月1日発売 / 200円 / 小学館クリエイティブ
「月刊ヒーローズ1月号」
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高橋留美子(タカハシルミコ)
高橋留美子

1957年10月10日新潟県生まれ。日本女子大学卒業。大学在学中の1978年に「勝手なやつら」で第2回小学館新人コミック大賞少年部門佳作を受賞し、同作が週刊少年サンデー(小学館)に掲載されデビューとなった。同年、同誌にて連載を開始した「うる星やつら」で、1981年に第26回小学館漫画賞、1987年には第18回星雲賞コミック部門を受賞。同作はテレビアニメ化もされ大ヒット、ヒロイン「ラムちゃん」は時代を超えて愛され続ける人気キャラクターとなった。また、劇場版となる「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」は押井守監督の出世作としても高い知名度を誇る。以降も「めぞん一刻」「らんま1/2」など歴史に残る人気作を数多く生み出し、代表作の殆どが映像化され、いずれも不動のヒットを記録している。2002年、「犬夜叉」にて第47回小学館漫画賞少年部門を受賞した。2009年より最新作「境界のRINNE」を執筆中。

白井勝也(シライカツヤ)

1942年生まれ。小学館最高顧問。1968年に小学館に入社し、少年サンデー編集部に配属され、「男組」(雁屋哲・池上遼一)、「まことちゃん」(楳図かずお)などを担当する。ビッグコミック副編集長を経て、1980年にはビッグコミックスピリッツの創刊編集長に就任。「めぞん一刻」(高橋留美子)、「美味しんぼ」(雁屋哲・花咲アキラ)などのヒット作を手がけ、創刊5年足らずで100万部雑誌に押し上げた。2016年、株式会社ヒーローズ代表取締役社長に就任。