花とゆめ創刊45周年特集 第1回 師走ゆきインタビュー|「キレイに描かなきゃ」という自縄自縛を超え、今は本能のままに!

マンガの面白さ=ギャグの面白さだと考えていたけど……

──「高嶺と花」はコメディ部分の面白さも読者からの人気が高い一因かと思います。作品を描くうえで、ラブとコメディをどれくらいの比率で考えていますか?

「高嶺と花」カラーイラスト

具体的な比率はそんなに考えてないんですけど、前は担当さんに「ちょっとラブが少ない」って言われることが多かったんです。でも最近は「ちょっとコメディが少ない」と言われるようになってきて。まさに昨日も担当さんにネームを送ったら「笑いどころが少ない」と教えてもらって追加しました。そこは連載中に変わったところですね。

──それは高嶺と花の心境が変化したからでしょうか。それとも師走さんが変わったんでしょうか。

私自身の変化も大きいかもしれません。連載当初は“胸キュン”とかよくわからないままに描き始めたんですよ。マンガの面白さ=ギャグの面白さだと考えていて、ギャグが面白ければいいんじゃない?という思いがあった。でも最近は描いていて胸キュン楽しい!って思います。だんだんわかるようになってきました。

──単行本4巻の柱コメントにも「乙女心にうとい」とお書きになってましたね。胸キュンを描くのが楽しくなってきたのは、どのあたりのエピソードからですか?

高嶺の貧乏編くらいからかな。ここで高嶺と花の心が本当に通じ合ったと読者の皆さんも感じてくれたようで、私もこの辺りから恋愛面で真剣な気持ちを描くのが楽しくなってきた気がします。

祖父により口座を凍結された高嶺。自宅も退去させられ、指定された住所に行ってみると単身用のボロアパートが……。師走にとって大切なエピソードだという貧乏編は単行本6巻からスタート。

──それまで高嶺は金にまったく糸目をつけなかったので、財産が凍結されてほぼ無一文になり、花にいつものプレゼントが買えなかったシーンは切なくなりました……。

自信過剰でナルシストな高嶺が落ちぶれて「イエーイ!」って楽しんでくれる方もいれば、「カッコ悪い高嶺を見たくなかった」って方もいて、さまざまな反応がありました。私は楽しい派で、ニヤニヤしながら描いてたんですけど(笑)。

──少女マンガのヒーローが落ちぶれてポジティブな反応があるって、面白いですね。柱コメントにも高嶺について「少女マンガのヒーローにしてはタブーが少ないのでうれしい」と書いていらっしゃいましたが、それと通じるのかもしれません。

そうですね。少女マンガといってもいろいろあるので線引きは難しいのですが、ヒーローのカッコ悪いシーンって限度があるじゃないですか。真っ裸で街を徘徊するとか、鼻をホジホジするとか、ギャグっぽいと許されるかもしれないけど、一線はあるのかなと。でも高嶺はその許容範囲が広いなとは思います。というか、カッコ悪さが初期よりどんどん増しているので、許容範囲もどんどん広がっていっている気もしていて。

──確かに、高嶺はちょっと決まらなかったりおバカな行動を取ったりしても、幻滅せずに「かわいいな」と思っちゃうキャラクターですね。

おでこにキスをされ、ぷんすかしてしまったアラサー男性。

ありがとうございます! そう言ってくれる方が多くて、高嶺は美味しいなって思ってます。逆にカッコ悪い回ほど「もっとやれ!」みたいな感想をいただいたりして、追い風になっている部分も(笑)。

──師走さんご自身も、高嶺を筆頭としたキャラクターたちもどんどん変化していくのが連載の面白いところですね。師走さんが「高嶺と花」における転機だと思っている大事なエピソードはどれでしょうか?

やはり、先ほど話題に挙がった貧乏編ですね。それまではぐらかしていた2人の気持ちが真剣になったのが貧乏編だと思います。

──高嶺はお金がないから花に何をしてあげられるのか悩んだり、花も高嶺が手ぶらで家に来たことを喜んだり、“超金持ちのイケメン御曹司と普通の高校生”ではなく、タイトルの通り“高嶺と花”が向き合うエピソードでしたね。

そう、それまで高嶺ってお金持ち自慢がコミュニケーションの中心にあったんですが、貧乏編を機に変わっていきました。

ドラマの見どころは……低嶺さん

ドラマ「高嶺と花」のメインビジュアル。©師走ゆき/白泉社 フジテレビジョン

──「高嶺と花」はFODオリジナルドラマとして実写化され、3月から配信がスタートしました。4月22日からは地上波でも放送されます。ドラマ化が決まったときの心境はいかがでしたか?

自分の作品がなんらかの形でメディア化するのは昔からの夢だったので、すごくうれしかったです。

──Twitterで撮影現場に見学に行ったと投稿していましたが、現場をご覧になっていかがでした?

めちゃくちゃ驚いたのが、スタッフさんの人数! ドラマの「高嶺と花」って全8話で各回30分なので、そんなに長いドラマではないんです。でもこんなにたくさんの人が関わってるんだということにまずびっくりして。役者さんの演技にしても、ワンシーン撮るのに十何回も撮り直したりして、「なんて大変なんだ……!」と。そこが一番印象に残ってます。

──見学に行ったとき、主演の高杉真宙さんもいらっしゃいましたか?

はい。「なんてキレイなんだ、まるでマンガのキャラみたい」って思いました。キレイな高嶺……。高杉さんって、かわいい系の男の子を演じる役者さんというイメージが私の中で強かったんですが、高嶺役ではスーツでビシッと決めて前髪も上げてて、かなり印象が違いました。花役の竹内愛紗さんもめちゃくちゃかわいくて、リアル高校生に花を演じてもらえることが本当にうれしいです。

──もう映像はご覧になりました?(この取材は3月初旬に行われた)

単行本2巻で初登場した低嶺さん。高嶺は花に鼻っ柱をへし折られると自信をなくして縮んでしまい、低嶺さんになる。

ちょうど1話と2話を観させていただいて、テンポもいいしすごく明るくて楽しかったです。ドラマの見どころは……低嶺(ひくね)さんです(笑)。

──低嶺さん、出るんですか!? どうやって?

ええ、これが絶妙なクオリティで……(笑)。

──高杉さんが低嶺さんも演じるんでしょうか?

いえ、低嶺さんは低嶺さんです。地上波でも放送されるので、観てない方はぜひご覧になっていただきたいです。

花ゆめで一番好きだったのは「Wジュリエット」

──このインタビューは花とゆめの創刊45周年の連載企画の一環でして、花とゆめについても伺いたいと思います。まず、花とゆめを投稿先に選んだ理由を教えてください。

「高嶺と花」カラーイラスト

中高生の頃に花とゆめを読んでいたんですけど、割と少年マンガが好きだったので、最初は少年マンガ誌に投稿したんです。でも箸にも棒にもかからなくて、しばらくマンガを描くことから離れて。「また描いてみよう」と思ったとき、ふと花ゆめのことを思い出して、応募要項を読んだら16ページで応募できたので、それなら描けるかなと。いざ描いてみたら、意外と少女マンガを描くのが楽しいことに気付きました。

──そして第34回アテナ新人大賞の新人大賞を受賞して、デビューに繋がるんですね。師走さんは、子供の頃はどんな作品を読んでいましたか?

中学生のときに連載していた「フルーツバスケット」(高屋奈月)や「花ざかりの君たちへ」(中条比紗也)が好きでした。一番好きだったのは、絵夢羅先生の「Wジュリエット」。やっぱり、コメディが好きだったんだと思います。

「Wジュリエット」ビジュアル

──「Wジュリエット」の主人公の糸さん、男の子みたいですっごいイケメンですよね。

そうそう、眉毛もキリッとしていて! 糸さんがカッコよくて、かなり憧れた記憶がありますね。当時、男女逆転ものの作品がけっこう載っていて、そういう系統が好きでよく読んでいました。

──武藤啓さんの「ネバギバ!」は女の主人公・樹梨がタツキという男性モデルをする話でしたし、男女逆転……とまではいかないかもしれませんが、「世界でいちばん大嫌い」(日高万里)も万葉が男っぽくて杉本がオネエ言葉、「東京クレイジーパラダイス」(仲村佳樹)も主人公の司は男として育てられた少女、と花ゆめはジェンダーフリーな作品が多かったかもしれませんね。師走さんが花ゆめで作品を描くにあたり、大事にしていることを教えてください。

明確に「絶対にこう」と強い意志でやっているわけではないんですが、少なくとも今描いている「高嶺と花」に関しては読者さんの年齢や性別を問わず楽しめるものであったらいいなと思っています。少女マンガなので女性をメイン読者には考えているんですが、男性から見ても楽しめたらいいなとチラチラ思っていて。

──それはどういった思いから?

読者さんからの感想で、母と娘の2世代で読んでいます、という感想があってすごくうれしかったんです。家族で読んで、感想を共有してもらえたら素敵だなと。小学生も読んでくれているようなので、あまり生々しい描写や残酷なエピソードは描かないようにもしています。

高嶺と花。

──家族団欒にも一役買う作品、素晴らしいですね。花とゆめは、師走さんにとってどんな雑誌ですか?

作家として……ということであれば、私は1人で作品を作れないタイプなので、花とゆめがなかったら今の私はない。命の恩人みたいな感じです(笑)。あと、作家たちの自由度が高いのかなと。少女マンガ誌なので連載作の多くは恋愛がベースにあるけど、舞台や設定が現代もの、ファンタジーものとバラエティに富んでいて。しかも例えばファンタジーでも取っつきにくい感じではなくて、間口が広くて読みやすい。これからも、いろいろなジャンルで読者さんを楽しませる雑誌であってもらえたらうれしいなと思います。

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特別ショート:高屋奈月「フルーツバスケット」マブダチ特別編その1

師走ゆき(シワスユキ)
師走ゆき
福岡県出身。2009年、白泉社アテナ新人大賞を受賞しデビュー。現在花とゆめ(白泉社)で「高嶺と花」を連載中。同作は2019年に高杉真宙主演によりドラマ化。

2019年11月20日更新