押切蓮介「でろでろ」

青押切蓮介の初連載作、新装版刊行!ホラーギャグや押切流女の子のルーツ語るインタビュー

「でろでろ」ほど愛された作品もなかなかない

ヤングマガジンGAG増刊神回に掲載された描き下ろしは、「でろでろ」新装版1巻に収録。

──新作「でろでろ 2杯目」は、10月末に出たヤングマガジンGAG増刊神回にも発表されましたが、来年の10号からヤンマガでも7回連載されるそうで楽しみです!

僕がゴネたんですよ。「新装版に描き下ろし収録じゃなくて、宣伝も兼ねてヤンマガに載せてくれ」って。雑誌に掲載されれば原稿料ももらえますしね!(笑)それが……いやあ、こんなに苦労するとは。

──凱旋帰国じゃないですか。

やっと古巣に帰ってこれたのにぜい肉ついちゃって、泳ぎ方忘れちゃった感じですよ。でもね、やっぱりプレッシャーがあるんですよ、ヤンマガって。

──デビューした雑誌でもありますし、特別な存在ですか?

そうですね。昔のヤンマガを見返して、いまでも「なんで俺、載ってるんだろう」って思ったりしますし。260回も載ってるんだけど。それでも実感湧かないくらい。

──連載終了のときは、さぞかし感慨深かったことと思います。

正直、その頃は仕事量的に限界だったんです。「でろでろ」と、「ミスミソウ」「ゆうやみ特攻隊」「ぼくと姉とオバケたち」「ピコピコ少年」「プピポー!」を並行して描いていて……。

──信じられない仕事量です!

押切蓮介

よくやってましたよね。しかもまったく休まなかったし。正直「やめたい」と喉まで出かかってたんですけど、自分から言い出せるわけがない。その頃、ちょうどヤンマガの編集長が代わったタイミングで、「このあたりでひと区切りつけましょう」と言われたんです。内心「やったー!」と思いながらも、やっぱり寂しかったですが。

──「でろでろ」への愛着は別格のものがあるでしょうね。

僕自身、「でろでろ」で、本当の意味でマンガ家になれたと思うし。後にも先にも、自分の作品でこんなに愛されたものはないですよ。

──読者からの反響でもそれを感じますか?

当時、サイン会などでずいぶん手作りのプレゼントをもらいましたよ。妖怪のキャラクターカードとか、フィギュアとか。もちろん全部保存してあります。 「連載、やめないでください」って、わんわん泣いてくれた女の子もいたなあ……。いまでもサインで「でろでろ」のキャラをリクエストされることが多いし、やっぱりこれが僕の代表作だと思ってる。だから新装版が出るのはとてもありがたいです。

怖いのに笑える押切流“ホラーギャグ”のルーツ

──ホラーギャグというジャンルは、「でろでろ」以前から描いていましたよね?

好美のぼる「妖怪屋敷」を手に取り解説する押切。

そこはコンセプトとしてひとつ持っていましたね。発想のきっかけは、70年代や80年代のホラーマンガなんです。昔のホラーって本当におもしろいんですよ。立風書房のレモンコミックスとかね。特に好美のぼる先生が大好きなんです。怖がらせようとしてるのに笑っちゃう。

──「恐怖と笑いは紙一重」とはよく言いますが、これは……(笑)。

ギャグにしか見えないでしょ!? これを現代に活かせないかと考えたのが、僕のルーツになっていますね。

──この好美先生のマンガ、確かに怖くなくて笑っちゃうんですけど……不気味なものの描写に、土着的な安心や懐かしみを感じる部分もありますね。そこはまさに、押切先生のマンガにも共通すると思います。

押切蓮介

「でろでろ」にはそれがあったかもね。だから人を惹きつけたのかも。

──「ハイスコアガール」にしても、「ミスミソウ」にしても、作風は違っても心地よい郷愁感みたいなものをすべての作品に感じます。

そう思ってもらえるのはうれしいです。みんなが身に覚えがあるようなことを描こうという意識は、昔からあって。僕なんか本当に一般的な男だから(笑)。思春期をこじらせて童貞丸出しの青春を過ごしてきて……それをありのまま描いたら受け入れられた、という思いはありますね。

押切作品に主人公に姉や妹が多い理由

──ところで、押切先生はお姉さんか妹さんがいるんですか?

「でろでろ」より、耳雄とその妹・留渦。

いえ、兄貴が1人。でも「お姉ちゃんコンプレックスなんですか?」とか「妹好きなの?」って、よく言われますね。

──「でろでろ」以外でも、主人公に姉か妹がいる作品が多いですよね。

実は初期ほど、主人公を単体で描けなかったんですよ。

──つまり、留渦は「主人公に対するヒロイン」ではなくて、主人公群の1人というとらえ方、ということでしょうか。

そうですね。血をわけた兄弟や家族くらい近しい存在だと、何人かでひとつの主人公という感じで動かしやすい。ダメなお兄ちゃんとクールな妹、「でろでろ」でいえばそこにオバケに弱いサイトーさんも加えてひとつの主人公、みたいな。そのほうが話を転がしやすかったんです。

2003年から2009年までヤングマガジンにて連載されたホラーギャグマンガが新装版として復活! 霊感体質のため、奇っ怪現象に出くわしやすい悪ガキ中坊・耳雄が、なぜかオカルト耐性 が異常に高い耳雄の妹・留渦と、お化けに弱い耳雄の愛犬・サイトーさんとともに、悪霊や妖怪をバッタバッタとブッ倒していく。各巻に描き下ろしも収録。

2巻は2月6日、以降毎月6日に発売。さらに2月3日発売のヤングマガジン10号にて集中連載「でろでろ 2杯目」スタート!

押切蓮介(おしきりれんすけ)

押切蓮介

1979年9月19日生まれ、神奈川県川崎市出身。1998年に、ヤングマガジンにて「マサシ!!うしろだ!!」でデビューし、「でろでろ」などホラーギャグの分野で人気を博す。代表作に「ミスミソウ」「椿鬼」「ピコピコ少年」など。現在は月刊少年シリウス(講談社)にて「ゆうやみ特攻隊」、漫画アクション(双葉社)にて「焔の眼」を連載。月刊ビッグガンガン(スクウェア・エニックス)では、格闘ゲームを題材にした青春作品「ハイスコアガール」を連載している。