コミックナタリー PowerPush - コミックシーモア

志磨遼平がコミックシーモアからチョイスした理想のヒーローが登場する7作品

「サブッ」って空気が反転しての「いやいやガンバリズムでしょ」

「バタアシ金魚」1巻

──すごい新説が出たところで「バタアシ金魚」に戻りまして。「バタアシ金魚」は1985年から88年の連載で、時代的には稲中よりだいぶ前ですよね。

そうなんですけど、僕は「エアマスター」のあとなんです。稲中・ごっつ時代の「サブッ」って空気が「エアマスター」で反転しての、そこでバタ金の「人生ってガンバリズム」っていう熱さがぴったりきたっていうか。

──「バタアシ金魚」の名セリフですね。「若さってガンバリズムだっ」だったかも。

そう。「いやいやガンバリズムでしょ」って。そうして次の「宮本から君へ」になると、もうリアリズムじゃないですか。宮本なんて必殺技もなく、強い奴にボコボコにされて、で、正義感だけはあって。割と自分のその頃の葛藤と近かったのかな。マンガみたいに、お兄さんみたいに生きてみたいけれど、どうにも現実は厳しいな、っていう。

──ジュリエッタ、カオルくん、宮本と、強さはそれぞれですが、みっともないところがある系のヒーローが続いたと思うんです。ところが最後に「蒼天航路」って書いてあって。曹操ってサイヤ人みたいな、超絶ズバ抜けた破格の存在だと思うんですが、これはどういう。

志磨遼平

なんかよく「◯◯に救われた」みたいなのってあるじゃないですか。苦しいときに誰々の曲で救われました、とかって。正直そういうの、僕ぜんぜん言える経験がなくって。救われたことなんてあるのかなって思っちゃうんですよね。

──わかります。救いを得られるほどの絶望なんて体験してないよな、って感じですよね。

ええ。でも「蒼天航路」だけは、救われたと言ってしまいそうになる。言っていいんじゃないかという気になっているんです。

──何があったんですか(笑)。

ずっと曹操みたいにゴロゴロしていよう

「蒼天航路」1巻

20代ね、僕20代ってただ腐っていたんです。発酵していたくらいで。何も起こらない、ドラマもない、ライブやったって客も増えない、絶望もない。

──絶望もないんですね。

自分の作るものをいいなとは思ってるんですよ。だから才能ないと思ったこともない。才能あるけど、暇やな、っていう。「明日なにしよ」っていう、それがずっと続く。それがずっと続いていたときに、待てたんですよ。焦らなかった。それは曹操の初陣がね、30のときなんですよ。

──(笑)。

黄巾の乱、いやもっと前か、20代に一度兵を任されそうになるんですけど、それで空を見て考えるんですよ、曹操。そうすると空に何の兆しもない。それでなんか「蒼天にいまだ我が道は見えず」とか「ならばよし!」とかって言って結局「いや兵はいいっす」って断るんですよ。で、またブラブラする。30まで。

──兆しが見えるまで。

志磨遼平

うん、ずっとゴロゴロして、で30になっての、曹操を曹操たらしめる快進撃っていう。だからほんと「蒼天航路」のおかげで焦らなかったんですよ。「ならばよし」って言って、ずっと曹操みたいにゴロゴロしていよう。そのうち兆しが見えるでしょ、ってただ何かが来るのを待っていた。あのとき焦っていたら、変に打算的なことになったりとか、何かがうまくいっていなかったかもしれない。ロックの、それこそBEATLESとかそういう時間感覚で生きてると、26、7で晩年ですからね(笑)。

──ジミヘンの死んだ歳を超えちゃった、みたいな。

そうそう、そこを回避できたんですよ、ロックやってるくせに(笑)。それはすごく救われたかもな、っていう。

ひと晩で全巻読破して、次の日から置き場所どうするんやー、って

──といったところで、読み返しながら7作品を語っていただきましたが、いかがですか、実際にタブレットで読んでみた感じは。

電子書籍ってこれまで人のを少し触らせてもらったくらいだったんですけど、これはこれでいいですね。思ったのが、魔夜先生の絵は液晶が合うなー、と。すごい白黒なのが。

志磨遼平

──ベタと紙色のコントラストが強く出るというか。確かにそうですね。

あと拡大してみてみると、意外な描き込みっぷりに驚かされたり。それはやっぱり紙ではできないことだし。あと「燃える!お兄さん」とか絶版ですもんね。古本屋なんかでも見かけなくなってきてるんじゃないかな。

──そうですね。「バタアシ金魚」みたいな名作ですら、紙で揃えようと思ったら意外と大変で。ネット古書店だと届くまで待たなきゃならないし。

そういう作品が読みたいときにすぐ買って読めるのはいいですね。

──旧作もだいぶ電子化されてきてるみたいです。あと古本と違って作者の方にお金が行くんで、そこもちょっと気分が違いますよね。

ああ、なるほどー。あと置き場所の問題は思いました。マンガって同じ作品を、そう何度も何度もリピートして読むことってそんなないじゃないですか。なのに全巻セットとか買っちゃう。ひと晩で全巻読破して、それで次の日からどうするんやー、っていう(笑)。

──わかります。

それが端末の中に全部入っちゃうってなると、本格的に導入を検討してもいいかもしれない。なるほどね、って思いました。

コミックシーモア
累計利用者数2000万人を突破した国内最大級の電子書籍配信サイト。 NTTグループのNTTソルマーレが運営し、2014年8月16日にオープンから10周年を迎えた。 22万冊以上の品揃えを誇り、「ブラックジャックによろしく」など、無料で読めるコミックも700冊以上提供している。 また常時100本以上の特集やキャンペーンを開催している。
志磨遼平(シマリョウヘイ)

毛皮のマリーズのボーカルとして2011年まで活動、翌2012年1月1日にドレスコーズを結成。同年7月にシングル「Trash」でデビューを果たした。12月に1stフルアルバム「the dresscodes」、2013年11月に2ndフルアルバム「バンド・デシネ」を発表したのち、2014年4月にキングレコード内レーベル・EVIL LINE RECORDSへと移籍。9月にリリースされた1st E.P.「Hippies E.P.」をもってバンド編成での活動を終了。以後、ドレスコーズは志磨遼平のソロプロジェクトとなり、12月10日に現体制になって初のフルアルバム「1」をリリースした。2015年4月1日にはライブDVD「"Don't Trust Ryohei Shima" TOUR <完全版>」が発売される。