コミックナタリー PowerPush - コミックシーモア

志磨遼平がコミックシーモアからチョイスした理想のヒーローが登場する7作品

「ごっこ遊びも許してもらえないのか」っていう絶望

──「パタリロ!」は小学校入学前。小学校に入学すると……。

「燃える!お兄さん」1巻

「燃える!お兄さん」ですね。当時のジャンプは全部読んでましたけど、今でも思い出す、いちばんのヒーローはお兄さん。一生でいちばん笑ったマンガかもしれない。そして最初に絶望みたいなのを味わったのが「燃える!お兄さん」なんです。

──絶望(笑)。ギャグマンガでしたけど……。

ギャグマンガでしたけど、あまりに憧れて、僕、空手を始めるんです、小学校1年生で。お兄さんみたいになりたかったんですよ。単純にかっこいいと思ったんでしょうね、すごい強くて。さすがに道着で登校はしないまでも、校舎の壁を指でタタタタッて登って窓から登校したい。あと壁とか殴ったら破壊できるくらいに。

──お兄さんめちゃくちゃ強いですからね。山で拳法の鍛錬をしまくったせいで。

そういう風になりたくて空手を習ったのに……小学校6年間ずっとやったんですけど、いつまでたっても素手で校舎の壁が登れない。これとかめはめ波が出ないってので現実を、挫折を知りました。大人の階段を上った気がしますね。「マンガのようにはなれないのか」っていう。「ごっこ遊びも許してもらえないのか」っていう。

──まあ普通は6年かからずに気づくかもしれませんが(笑)。

ええ(笑)。そして中学校に入って、とうとう「行け!稲中卓球部」に出会ったんです。

ごっつと稲中を学生時代にダイレクトにくらった僕らの世代

「行け!稲中卓球部」1巻

「稲中」はほんと衝撃の出会いでしたね。最初に僕が掲げたヒーロー観にはまったく当てはまらないかもしれなんですけど、なんというか、時代を作ったヒーローでしたね。

──時代、というのは。

その頃TVでは「ダウンタウンのごっつええ感じ」が放送されていて、リアルタイムで新しい笑いが誕生しているわけじゃないですか、あそこで。ひと言でいうと「サムい」っていう概念ね。

──それまでのズッコケの笑いとか、新喜劇みたいな様式美と違う。

熱くなってる奴に対して「サブッ」って指さして笑う。それがマンガの世界でいうと、稲中なんですよ。TVで「ごっつ」やっててマンガでは稲中が連載されてるというあの時代、あれを青春期に体験した僕らの世代って、もう一生熱くなれないのかもしれない。部活で熱くなってる奴とかに対して、「サブッ」ってすぐ思ってしまう。

──前野・井沢は「死ね死ね団」に象徴されるように、アンチヒーローですよね。

そうですね。しかも僕は原体験として「パタリロ!」があるから、さらに輪をかけてシニカルになってしまうんです。バンドマンを見てても、僕らよりひとつ下の世代の子たちはけっこう熱くなれたりするんですよ。学生時代に稲中をダイレクトにくらった自分たちだけが、一生「サブッ」を背負っていくのかもしれない(笑)。

志磨遼平

──ごっつ、稲中のあの頃だけが、特異点みたいな時代だったのかもしれませんね。

そう、だってあれ以降また反転が起こるんで。それは僕もそうだし、時代の空気でもあるんですよ。

──その反転というのが次の、「エアマスター」ですね。

稲中からの、このギャップね……。エアマスターと出会ったときってすごい覚えてるんですよ。ペラペラって雑誌をめくってたら、ページがものすごい発光してる。ページとかコマからもう、ミンミンミンミンって何か出てるんですよ。これ絶対、僕、好きになるやつやな、ってわかるんですよね。マンガ読みだけが持つアンテナというか。ストーリーとか脈絡じゃなく、開いた瞬間の光で。

「カワイコちゃんには弱いけど」系のヒーローって、だいたい必殺技が蹴り

──それってどのあたりですか。

「エアマスター」1巻

深道ランキング編の後半くらい、ジュリエッタとマキちゃんが戦うところだったと。

──だいぶ連載も後半じゃないですか。

ええ。それで1巻から集めるんですけど、最初それほどでもないというか、助走にけっこうかかるんです。けどやっぱり10巻過ぎたあたりから超絶に面白くなって。ここまで熱いマンガもないってくらい熱いですからね、なんかマンガというものが自分の中で、何て言えば良いのか、返り咲いた!

──シニカルから反転して。

「エアマスター」は言ってみればヒーローしかいないようなマンガなんですけど、中でも僕にとってのヒーローは坂本ジュリエッタなんです。そしてジュリエッタと、次に挙げた「バタアシ金魚」のカオルくんというのは、僕の中で同じ種類のヒーローなんですよね。ツボというか。

──そのツボをもう少し説明してもらえますか。

志磨遼平

「カワイコちゃんには弱いけど」系、とでも言うかな。それこそがヒーローなんです僕の。エアマスター当時だから20代前半かー、こういう風に生きたいなって思ってた。ジュリエッタも平気でギャルを蹴飛ばしたりするんですけど、好きな子にはめっぽう弱くて……、あの、ちょっと話逸れていいですか?

──ええもう。

「カワイコちゃんには弱いけど」系って、「ONE PIECE」でいうとサンジなんですよね。「クローズ」「WORST」なら花木九里虎。サンジ、九里虎、ジュリエッタってみんな必殺技が蹴りなんですよ。だからこれ僕の持論なんですけど、くっそ強くて好きな子の尻を追いかけ回すタイプは、だいたい必殺技が蹴り。

──おお、目からウロコが。

これ世紀の大発見でしょ。サンプル数3かもしれないけど(笑)。

コミックシーモア
累計利用者数2000万人を突破した国内最大級の電子書籍配信サイト。 NTTグループのNTTソルマーレが運営し、2014年8月16日にオープンから10周年を迎えた。 22万冊以上の品揃えを誇り、「ブラックジャックによろしく」など、無料で読めるコミックも700冊以上提供している。 また常時100本以上の特集やキャンペーンを開催している。
志磨遼平(シマリョウヘイ)

毛皮のマリーズのボーカルとして2011年まで活動、翌2012年1月1日にドレスコーズを結成。同年7月にシングル「Trash」でデビューを果たした。12月に1stフルアルバム「the dresscodes」、2013年11月に2ndフルアルバム「バンド・デシネ」を発表したのち、2014年4月にキングレコード内レーベル・EVIL LINE RECORDSへと移籍。9月にリリースされた1st E.P.「Hippies E.P.」をもってバンド編成での活動を終了。以後、ドレスコーズは志磨遼平のソロプロジェクトとなり、12月10日に現体制になって初のフルアルバム「1」をリリースした。2015年4月1日にはライブDVD「"Don't Trust Ryohei Shima" TOUR <完全版>」が発売される。