コミックシーモア主催の「みんなが選ぶ!!電子コミック大賞2025」は、「次に来るヒット作品はこれだ!」と出版社が推薦したタイトルの中から、一般投票で大賞を選ぶマンガ賞。男性部門、女性部門、異世界部門、ラノベ部門、BL部門、TL部門の6部門が設けられており、その結果発表が今年1月に行われた。
この特集では、男性部門賞、女性部門賞、異世界部門賞を受賞した計6作品を紹介。佐原ミズ「ハネチンとブッキーのお子さま診療録」、雨穴原作による相羽紀行「変な絵(コミック)」、ぱらり「いつか死ぬなら絵を売ってから」、あなしん「運命の人に出会う話」、白乃いちじく原作によるあばたも「華麗に離縁してみせますわ!」、友麻碧原作による藤丸豆ノ介「傷モノの花嫁」について、それぞれの担当編集者にプレゼンしてもらった。
「ハネチンとブッキーのお子さま診療録」
佐原ミズ/医療監修:北岡寛己
コアミックス
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シングルファザーのサラリーマン・羽根田と、奇抜なメイクをした小児科医の青年・琴吹のハートフル医療ストーリー。妻を亡くし、突然育児をすることになった羽根田は、子供の理解不能な言動に日々振り回されている。そんなある日、電車で体調が悪くなった息子を助けたのは、“オバケ”のようなメイクをした琴吹だった。
©佐原ミズ/コアミックス
担当編集者・渡邊慎之介氏(月刊コミックゼノン編集部)コメント
Q. 受賞した感想をお聞かせください。
著者自らが子育てに奮闘する中で、「自分のように不安に思っていたり悩んでいらっしゃる方たちの少しでも役に立つものが描きたい」という思いが、本作を描く原動力になっています。この受賞をきっかけにこの作品に触れていただく方が増え、1人でも多くの方に「自分は1人じゃない」と感じていただければうれしく思います。
普段はクールな佐原先生ですが、受賞をお伝えした際は「素直にうれしい!」と満面の笑みで喜んでおられました。
読者の皆様の投票で選んでいただけた賞なので、喜びもひとしおだそうです。
Q. 「ハネチンとブッキーのお子さま診療録」の推しポイントはどんなところでしょうか。
「こんなお医者さん近くにいてほしい!」と反響をいただいているブッキーのキャラクターと、不器用なシングルファザー羽根田の成長です。
特にブッキーのシンプルだけれど、ストレートに心に刺さる名言の数々は作品の見どころだと思います。
Q. 制作時の裏話や先生との印象的な思い出を教えてください。
小児医療に挑戦しようとなってから、まったく違う主人公、まったく違う物語のネームを何回も作り、ようやく生まれたのが「ハネチンとブッキー」です。ですが、「子供は混沌(カオス)」というテーマは最初からブレずに存在していました。そして振り返ってみると第一稿のネームにはブッキーのようなデスメイクの青年が2人も登場していました。連載当初は、イケメンバージョンのブッキーを描いてほしい編集者とあまり描きたくない著者といった感じでよく揉めていました。
Q. ぜひ読んでほしいというエピソードや話数、シーンはどこでしょうか?
第6話「シャフリングベビー」
シングルファザーの羽根田がなかなか歩かない1歳の娘・いちかに焦りを募らせるエピソードです。思わず周りと比べてしまったり、苛立ってしまったり……子育ての孤独や不安そして、不思議や喜び。そのすべてが詰まった多くの方に共感していただける回だと思います。ラスト、親の心をたった一言で包み込むブッキーの名言にも注目です。
第8話「陳旧性骨折」
ブッキーを闇医者と勘違いして話しかけてきた自称「パチンコおやじ」。彼が隣の部屋に住む親子を心配する理由とは──。ブッキーが珍しく見せる真剣な表情、そして後悔。本当の優しさとは? 痛みとは? 短いページ数の中でさまざまなことを考えさせられます。ストーリーテラー佐原ミズの真骨頂のような担当激推しの1話です!
「変な絵(コミック)」
相羽紀行/雨穴
双葉社
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オカルト好きな大学生・佐々木は、知人の栗原から勧められ、とあるブログにアクセスする。愛する人を亡くした男性が綴るそのブログには、祈りを捧げる女や胎児のような子供など、どこかが様子のおかしい複数の絵が掲載されていて……。佐々木や栗原をはじめとする登場人物が、絵に隠された数々の謎を解き明かしながら、1つの真実に近づいていく。雨穴による同名小説を相羽がコミカライズした作品で、原作の「変な絵」はシリーズ累計120万部、世界30カ国で出版が決定しており、グローバルミリオンセラーとなっている。
©雨穴・相羽紀行/双葉社
担当編集者・工藤氏(第三コミック出版部)コメント
Q. 受賞した感想をお聞かせください。
このたびはまだ作品が始まったばかりにもかかわらず、非常に素晴らしい賞をいただき誠に光栄です。応援ならびに投票いただいた読者の皆様、関係者の皆様、本当にありがとうございます。雨穴先生、相羽先生ともに、一報が届いた際とても喜んでいらっしゃいました。
Q. 「変な絵(コミック)」の推しポイントはどんなところでしょうか。
たくさんあって選ぶのが難しいのですが、例えば「謎解きへの没入感」と「1冊で何度もおいしいミステリー」という点でしょうか。
まず、「謎解きへの没入感」について。ミステリー・謎解きというと難しそうで構えてしまう方も多いと思いますが、好奇心を刺激される仕掛けが多くページをめくる手が止まりません。
登場する「絵」はどれもシンプルなのですが、どこか嫌な気配が漂う不気味な印象を受け、一目で興味を惹かれます。
第1章の佐々木、第2章の保育士・春岡ら登場人物が丁寧に推理していき、その過程を相羽先生がわかりやすく視覚化していただいたことで、置いていかれることなく一緒に謎を解いているような感覚に陥ります。
だからこそ、答えにたどり着いたときの爽快感とそのあと襲ってくる真実を知ってしまったという感覚がたまりません。
次に、「1冊で何度もおいしいミステリー」について。
先ほど少し触れましたが、1章ごとに登場人物の視点が切り替わる群像劇になっており、それぞれが「変な絵」に遭遇します。1つひとつの真相にたどり着いた際の快感については前述しましたが、実は一見関係なさそうなのに、9枚の絵に隠された秘密が最後につながるという仕掛けが施されています。そして2章3章と話がつながっていくごとに快感は増していき、最後につながったときには恐怖と快感が何倍にも膨れ上がっているかと思います。
特に、最初に実感するのはこれから掲載予定の分冊版15巻、第2章「部屋を覆う、もやの絵」のラスト。絵の真相とともに隠されていた真実が明るみになり、ここでまた一段ギアがあがります。
Q. 制作時の裏話や先生との印象的な思い出を教えてください。
マンガを担当されている相羽先生が原作の雨穴先生の大ファンで、今回コミカライズをご担当いただく前から原作本も読み込まれておりました。本作への作品愛に溢れており、連載中も「この演出方法のほうが原作のよさを最大限に生かせるのではないか」「マンガとして楽しむならこの表現で」といった形で原作ファン、そしてコミックで初めて目にする読者の方どちらも楽しんでいただけるよう、持てる力をすべて注ぎ込んでいただいています。
また、雨穴先生もリスペクトを持って監修してくださっています。マンガならではの表現に寄り添っていただいたり、時にはマンガに合わせてセリフや設定を調整していただいたりなど原作ともまた違った体験として楽しめるように邁進されています。
Q. ぜひ読んでほしいというエピソードや話数、シーンはどこでしょうか?
分冊版第4巻、ブログに掲載された「風に立つ女の絵」3枚の絵の真相にいよいよ迫るシーンです。
ネタバレになってしまうので控えめにお伝えすると、実際に絵をプリントアウトし組み合わせていく描写があるのですが、絵が完成した際の質感がまるでそこに本物の絵があるように感じられ、自分が登場人物としてその場にいるように錯覚します。
コミックならではであり、相羽先生の繊細な作画があってこそのシーンといえると思います。原稿をいただいたとき何度も読み込んだシナリオにも拘らず、あまりの臨場感に思わず「うおおっ」とうめき声が出ていました。
その後の考察も含めてぜひご一読ください。