コミックナタリー Power Push - 「僕だけがいない街」

藤原竜也が見つけた、物語の底にある郷愁 NON STYLE井上が語る悟の中のヒーロー

マンガ、アニメ、小説、そして映画……「僕街」の勢いは止まらない!
「僕だけがいない街」1巻 ©Kei SANBE/KADOKAWA

先の読めないストーリー展開に、糸井重里、スガシカオ、山田悠介、法月綸太郎など、多くの著名人も絶賛の声を上げている「僕だけがいない街」。「マンガ大賞」に3年連続ノミネート、「このマンガがすごい!」オトコ編にも3年連続でランクイン、フジテレビ「ノイタミナ」でのテレビアニメ化も注目を浴びており、3月28日にはニトロプラスの作家・一肇が執筆する小説版も刊行と、怒涛のメディアミックス展開を見せている。

エンタメ界のトップランナーとして注目を浴びる中で、去る3月4日に原作マンガがついに完結。単行本最終8巻の発売は5月2日に予定されており、6月には外伝作品がスタートすることも明らかになった。本特集の実写映画も3月19日ロードショーと「僕街」熱はまだまだ冷めることはなさそうだ。

この人も「僕街」を応援! NON STYLE井上裕介インタビュー

雛月の死んだ目を生身の人間がやると、痛々しさがリアルになる

──「僕だけがいない街」はマンガから始まり、アニメ化、そして実写映画化と複数のメディア展開がされています。井上さんは、どういったきっかけで本作に出会ったのでしょうか?

僕はアニメから入ったクチで。ちょいちょい原作の評判は耳に入ってたんですが、アニメ化されると知った段階で読むのは我慢していたんです。なのに、この取材のために映画を観てしまったので……知りたくなかったことをいっぱい知ってしまった。それだけが非常に残念でしたね(笑)。

──楽しみを奪うようなことをして申し訳ありません! ……ちなみにマンガを我慢してアニメの放送を待った、ということは、井上さん的には「アニメ>マンガ」という図式なんでしょうか。

マンガもアニメも実写も、僕は別個に楽しみたいんですよ。マンガを先に読むと、声優さんの声が自分の想像と違ってしっくりこないことってあるじゃないですか? だから中途半端なタイミングでは読まないでおこうと思って。それぞれに違った良さがあるのに、自分の中のイメージとリンクしないってだけで楽しめなくなるのはもったいないから。

──映画はいかがでしたか? 別個のものとして楽しめましたか?

映画「僕だけがいない街」より、藤沼悟(藤原竜也)と片桐愛梨(有村架純)の登場シーン。

アニメを観る感覚とは全然違いますね。ひとつの作品として、2時間で完結するよう物語が組み立てられていた。実写は物語との距離が近いというか、自分に置き換えて物事を考えるシーンがすごく多かったですね。あえて比べるとしたら、全体のトーンは映画のほうが明るく感じたかな。マンガやアニメは生気がないぶんダークというか、もうちょっと画面からドライな印象を受けるけど。

──映像という意味では同じメディアですが、実写には生気を感じる?

アニメの雛月は、生きてる目をしていないんですよね。それは「子供らしからぬ表情」という表現をとってるからなんですけど。そういう心を殺した演技を人間がしたときに、生っぽさが残るぶんリアルに痛々しさが出るというか。演じてる方のバイタリティが役に乗っかる感じは、実写ならではのみなぎるパワーじゃないですかね。

──キャラクターを演じる役者の息づかいが感じられるのも、実写の魅力と。

そうですね。あと雛月は口癖の「バカなの?」も実写のほうがかわいかった! 言葉の奥にある愛情が、隠しきれず漏れ伝わってくる感じがしました。鈴木梨央さんの演技力もあるのでしょうけど、これぞ生身の人間だから出る繊細な表現だと感じましたね。

見た目は子供、頭脳は大人、演技力が問われる藤沼悟の少年期

──特に注目して観ていたキャラはいましたか? 目立っていた役者さんとか。

うーん、やっぱり子役の2人じゃないですかね。

──実写化が決まったときも「実は子役が重要な映画になるんじゃないか?」という意見が、ファンの間では出ていました。

特に中川(翼)さんが演じるのは、見た目は子供だけど、中身はリバイバルしてきた大人の藤沼悟という役どころじゃないですか。こうやって口で説明するのは簡単だけど、非常に演技力が問われるキャラだと思いますよアレは。大人っぽい表情を見せられるとドキッとして「すごい子役がいるもんだ」って、圧倒されちゃいましたね。

──実際に子役が演じていると、絵で見るよりキツいシーンも多いですよね。母親に虐待されている描写とか。

雛月の母親はリアリティありましたね。アニメでは子供に無関心な親って感じで、殴るとか面倒なこともしなさそうなイメージでしたけど。映画では、実際にDVしてそうな雰囲気が出てた。いい意味で、ひどい親だったな。

──顔が殴られて赤黒く腫れていたり、雪が降る寒い日に小屋に追いやられていたり……。

(左から)鈴木梨央演じる雛月加代、中川翼演じる藤沼悟。

表現の規制とか、暴力的なシーンを見せない作品もありますよね。でも目を背けたくなるような虐待が起きていることを描かないと、それを救おうとしてる悟の気持ちが伝わらない。変にぼやかさずキツいところはちゃんとキツく、突っ込んで描いてたのが僕はいいと思いましたね。

──そのほか、特に印象に残ったシーンなどはありましたか。

バスの中でババ抜きしてるシーンがよかったですね。最初は悟やみんなに対して心を閉じていた雛月が、楽しく笑っている風景にジーンときて……。悟は、雛月を守ると決意を固めたときに見せる男の顔がいいんですよ。「救うためだけにやんねん」「ヒーローになりたいねん」みたいなのはグッときましたね。

映画「僕だけがいない街」 / 2016年3月19日(土)全国ロードショー
映画「僕だけがいない街」
  • 原作:「僕だけがいない街」三部けい(KADOKAWA/角川コミックス・エース)
  • 監督:平川雄一朗
  • 脚本:後藤法子
  • プロデューサー:春名慶
  • キャスト:藤原竜也、有村架純、及川光博、杉本哲太、石田ゆり子ほか
  • 配給:ワーナー・ブラザース映画
井上裕介(イノウエユウスケ)

1980年3月1日、大阪府生まれ。中学、高校の同級生である石田明とNON STYLEを結成し、兵庫県・三宮駅付近の路上を中心に漫才を行う。2000年、baseよしもとのオーディションに合格、プロデビューを果たす。2006年、第4回MBS漫才アワードで優勝。以後多くの漫才コンクールで新人賞を獲得する。2008年、活動拠点を東京に移す。同年、M-1グランプリで優勝し、4489組の頂点に輝く。2015年3月、日めくりカレンダー「まいにち、ポジティヴ!」が発売された。


2016年4月18日更新