コミックナタリー Power Push - 「僕だけがいない街」

藤原竜也が見つけた、物語の底にある郷愁 NON STYLE井上が語る悟の中のヒーロー

“大切な人を守る”だけでいい「僕街」のわかりやすさ

──藤沼悟は少年期と青年期を行き来する2人1役のキャラクターです。青年期を演じた、藤原竜也さんはいかがでしたか?

藤沼悟役の藤原竜也が演技指導を受ける様子。

藤原さんの新しい一面を見ましたね。これまで演じてきたキャラクターって、熱い奴ばっかりだったというか、ソウルが強い感じだったじゃないですか。なんというか……。

──叫ぶ感じの役柄が多かったですよね。

今回も、お母さんが殺されたときに「起きろ、リバイバル!」って叫んでましたね(笑)。藤沼悟は、最初クールなキャラだと思っていたんですよ。でも観ていくうちに、奥の奥にある熱さが伝わってきた。一見するとわからないけど、芯の部分にはヒーローの心がある奴なんだなと。そういう部分は新鮮でありつつ、すごく藤原さんにピッタリでしたね。

──クールな部分もあり、熱い一面も持ち合わせている。そのギャップが新鮮だった?

「カイジ」にしても「デスノート」の月にしても「るろうに剣心」の志々雄真実にしても、野望がデカいというか、エゴ剥き出しのキャラだったじゃないですか。悟は“大切な人を守る”それだけを目指しているのも、印象的でしたね。僕が「僕街」をいいなと思ってるのも、そういうよそ見せず話が進むところなので。ほかのタイムリープものって、テーマがでっかくなりがちじゃないですか。

──世界を救うとか、タイムパラドクスがどうとか。

「バック・トゥ・ザ・フューチャー」とかもそうですけど、この手の作品って未来をよくするために、けっこういろんなことをがんばるんですよ。でも「僕街」は“雛月をぜったいに守る”という目標があって、悟もそのためだけに動く。主人公の行動が限定されているから、観ているほうもあっちゃこっちゃ気にしなくていい。歴史改変の面倒臭さがない、新しいタイプのタイムリープ作品だと思いますね。

──黙々とリバイバルを繰り返し1人で静かに戦う悟。それを支えるヒロイン・愛梨の存在も、本作の大事なひとつのキーとなっています。

片桐愛梨役を演じる有村架純が演技指導を受ける様子。

こういう女の子が周りにいたらいいのになって、素直に思っちゃいましたね。悟みたいに壁を作ってる奴にも積極的に絡んできて……。

──配達に行く悟に「ピザ食べちゃダメですよ」と冗談を言うとこですね。

誰にでも、ああいう思わせぶりなことをする子なんでしょうね。それで僕とか、あのバイト先の店長みたいな冴えない奴をどんどん勘違いさせてしまうという(笑)。悪く言えば八方美人ですけど、みんなに優しいんですよきっと。困ってる人は放っておけないし、自分が信じた人を絶対に裏切らない。他人には共有できないリバイバルの孤独を抱えた悟が心を開いたのは、愛梨がそういう慈愛の心を持った女の子だったからなんでしょうね。

リバイバルできることが、本当に幸せかは僕にはわからない

──もし井上さんがリバイバルをできたとしたら、なにかやり直したい失敗はありますか?

歴代の彼女との別れ話をナシにできないか、それしか思いつきませんね(笑)。でも映画を観ていて思ったんですが、そもそもリバイバルしてやり直せるっていうのは本当に幸せなことなんですかね。

──えっ?

最初のトラックに轢かれそうな子を助けるとかも、別に悟がやらなくてもいいわけじゃないですか。刺されたお母さんも、息子があんな大変な思いをしてまで助かりたいとは思わないんじゃないかな。リバイバルをしなかったら、どんな未来が待っていたんだろう。意外と、その未来も悪くはないんじゃないだろうかとか。いろんなことを考えちゃいますね。

──観る人に訴えかけてくるものがある、深いテーマを秘めた作品だと。

難しく観ることもできるし、一方で「あれ、これって実は青春映画?」と錯覚してしまいそうな楽しいシーンや、さわやかなシーンもいっぱいあるし。光と影のコントラストが見事です。メリハリが効いててグングンと引き込んでくれる、いろんな要素がギュッとひとつのストーリーに詰まった映画です。満腹感をいただきました、ごちそうさまです(笑)。

映画「僕だけがいない街」 / 2016年3月19日(土)全国ロードショー
映画「僕だけがいない街」
  • 原作:「僕だけがいない街」三部けい(KADOKAWA/角川コミックス・エース)
  • 監督:平川雄一朗
  • 脚本:後藤法子
  • プロデューサー:春名慶
  • キャスト:藤原竜也、有村架純、及川光博、杉本哲太、石田ゆり子ほか
  • 配給:ワーナー・ブラザース映画
井上裕介(イノウエユウスケ)

1980年3月1日、大阪府生まれ。中学、高校の同級生である石田明とNON STYLEを結成し、兵庫県・三宮駅付近の路上を中心に漫才を行う。2000年、baseよしもとのオーディションに合格、プロデビューを果たす。2006年、第4回MBS漫才アワードで優勝。以後多くの漫才コンクールで新人賞を獲得する。2008年、活動拠点を東京に移す。同年、M-1グランプリで優勝し、4489組の頂点に輝く。2015年3月、日めくりカレンダー「まいにち、ポジティヴ!」が発売された。


2016年4月18日更新