コミックナタリー Power Push - 「僕だけがいない街」
藤原竜也が見つけた、物語の底にある郷愁 NON STYLE井上が語る悟の中のヒーロー
悟の抱える葛藤は、年齢や職業に関係なく誰もが共感できる
──藤沼悟を演じるにあたって、具体的に意識されたことは?
うーん……どうだろう。大人になってからの悟って、「リバイバル」との遭遇も含めて、自分の力ではどうしようもない巨大な流れに巻き込まれていくキャラクターなんですよ。だから、変な言い方だけど、今回はその流れに乗って楽に演らせてもらった気がする(笑)。あまり深く考えず、目の前で起きてる事象に必死で対処していく感覚。むしろ片桐愛梨というキャラクターを演じた(有村)架純ちゃんのほうが、ずっと大変だったと思います。彼女は「リバイバル」という現象の仕組みをまったく理解してないまま、それでも悟に手を差し伸べ、真実に向かって一緒に突き進んでいく役柄なので。それだけに現場で悩むことも多かったと思うんですよ。
──たしかに、もし自分が「リバイバル」現象をまったく考慮せず藤沼悟に出会ったとしたら、きっと変人にしか思えない。どういう表情で接していいかわかりませんよね。
端で見ていても、架純ちゃんはその難問にすごく誠実に向きあっていて。2006年(作品中における現在)のパートでは、僕はむしろ彼女に引っ張ってもらっていました。その意味では隣にいて安心感があったし。わからない箇所は監督と納得いくまで話し合う意志の強さも持ち合わせているし……。初共演でしたが、すごく素敵な女優さんだと思いました。
──物語序盤の悟は、なかなか作品が世に出せないマンガ家の卵。29歳という年齢もあって強い焦りを感じています。そのあたりの表現は、とてもリアルに感じました。
きっとそこは、年齢や職業は関係なく、誰もが共感できる部分なんでしょうね。悟の場合、子供の頃から自分なりに確固としたヒーロー像を持っていて。正義とは何かって、ずっと自問自答してきた。それが大人になってマンガを描くモチベーションにもなっているわけです。でも現実には、その一歩を踏み出せないままで29歳になってしまった。そんなどっちつかずの青年が母親の殺害事件と「リバイバル」現象をきっかけに、否応なく行動を起こさざるを得なくなる。そこに至る変化は、僕自身、演じていてもすごく面白かったです。
妥協せず細かく撮る“素材マニア”な監督との信頼関係
──「リバイバル」で時間が巻き戻ると、もとのシチュエーションに戻されてしまいます。その微妙な差異を表現するのは難しくありませんでしたか?
まったく同じシーンを、表情だけ微妙に変えつつ何度も撮らなきゃいけませんからね。現場でもよく「これ、繋がったらどんな感じになるんだろう」って話し合ってました(笑)。結局、完成形のイメージは平川(雄一朗)監督にしかわからないので。そこはもう全面的に信頼するしかない。ありがたかったのは、平川監督は演出の指示が細かくて具体的なんですよ。それを聞きつつ、あとは架純ちゃんや(石田)ゆり子さんと現場で作っていった感じです。
──そういえば事前に公開されたメイキング映像でも、倒れた母親を悟が発見して絶叫するシーンで、声の上げ方について平川監督と細かく打ち合わせする様子が映されていました。
我ながら、けっこういろんな叫び方をトライしてますね(笑)。平川監督はちょっと“素材マニア”なところもあって。「藤原くん、今のテイクすごくよかったです。でも、こっちのパターンも撮ってみて構わないかな?」って提案してくれる。時間のない中でも妥協せず細かく撮られる方でしたね。僕もそういうのは嫌いじゃないから、いろいろ試せて楽しかったですよ。
──原作では見開きページを縦4コマに割って、悟の表情が呆然から悲嘆、絶望に変わっていくのを表現していました。演じていてあのページを思い出したりしませんでしたか?
いえ、あそこの場面に限らず、撮影中コマを思い出したことは一切ありませんでした。これまでのマンガ原作ものでは、シーンによっては「どんな表情だっけ?」と比べたりもしたんですけど、今回はひたすら現場に集中してました。おそらくSF的な要素も含みつつ、たぶん「僕だけがいない街」がどのマンガ原作よりも、日常と地続きの世界観を持っているからだと思います。
──だからこそマンガの印象に似せるより、リアルな青年として演じる必要があったと。完成版をご覧になってシンプルな感想はいかがでした?
まさにシンプルに面白かったです! 現在と過去が交差する複雑なストーリーラインを力強く、しかも幅広い層が受け容れやすい形で提示した平川監督は素晴らしいなと。あとは何より、中川翼くんや鈴木梨央ちゃんをはじめ1988年パートに出演している子供たちがみんな輝いていたこと。今回、まず僕らが1カ月ほどかけて千葉県船橋市を中心に現在のパートを撮ったんですね。その後、今度は長野県でさらに1カ月ほどかけて過去のパートを撮っている。ただ、僕らが撮影している最中も、その横で子供たちが平川監督から演技指導でしごかれてるのを見てましたから(笑)。泣きながら食い下がったがんばりがスクリーンからよく出てましたし、映画を観ていて素直に悟の少年時代だと思えました。それが一番うれしかったかな。上質なエンタテインメントに仕上がっていますので、原作ファンの方もそうでない方も含めて、ぜひ多くの人に観ていただけたらと思ってます。
──ありがとうございます。最後に、もしも藤原さんが「リバイバル」現象に遭遇できるとしたら、どんなことをやってみたいですか?
ははは、そうだなあ、今の意識のまま小学校に戻れたら、それだけで大満足ですけどね(笑)。給食を食べて、昔の友達と思いきりサッカーして……1日遊んでまた戻ってこれたら最高でしょうね。
- 原作者・三部けい「藤原流・悟を観られて感激」
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悟役が藤原竜也さんに決まって、とても嬉しかったのを昨日の事のように思い出します。
藤原さんは演技によって、空気を「作る」「変える」事に長けた役者さんだと思います。
それはマンガの主人公にも通ずる部分で、自分はいつもそこに惹かれ、勉強させてもらっています。
自分の予想を超えて素晴らしい藤原流・悟を観られて感激しています!
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- 原作:「僕だけがいない街」三部けい(KADOKAWA/角川コミックス・エース)
- 監督:平川雄一朗
- 脚本:後藤法子
- プロデューサー:春名慶
- キャスト:藤原竜也、有村架純、及川光博、杉本哲太、石田ゆり子ほか
- 配給:ワーナー・ブラザース映画
©2016 映画「僕だけがいない街」製作委員会
藤原竜也(フジワラタツヤ)
1982年生まれ、埼玉県出身。蜷川幸雄に見出され、「身毒丸」のオーディションに合格し、ロンドンで初舞台を踏む。以降、舞台、映画、TVドラマ、CM など幅広く活躍する。主な出演 作に、「バトル・ロワイアル」「DEATH NOTE デスノート」「カイジ 人生逆転ゲーム」「インシテミル 7日間のデス・ゲーム」「カイジ2 ~人生奪回ゲーム~」「I’M FLASH!」「藁の楯 わらのたて」「サンブンノイチ」「MONSTERZ モンスターズ」「るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編」など。
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© 福本伸行・講談社/2011「カイジ2」製作委員会 - 「DEATH NOTE デスノート」
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©2006「DEATH NOTE」FILM PARTNERS - 「DEATH NOTE デスノート the Last name」
©大場つぐみ・小畑健/集英社
©2006「DEATH NOTE」FILM PARTNERS
2016年4月18日更新