コミックナタリー Power Push - ゲッサン1周年記念特別インタビュー あだち充

色褪せることない永遠の少年心 デビュー40年、生涯「ムフ」宣言!

「タッチ」がいまだに読まれてるのは心強い

──だからといって、実際それで新作を出し続けられている人ってそうそういません。秋本先生はずっと両さんだし、水島先生もずっとドカベンだから新作とは違う。となるとあだちさんと高橋留美子さんくらいしか。

いないよね。その辺は偉いかもしれない(笑)。

──それができたのは、少年誌ではいまこれが人気だろう、と常に時代にアジャストしてきたからなんでしょうか。

いや、読者がどんどん入れ替わっても、変わらないものがあるだろうと。「タッチ」がいまだに読まれてるのは非常に心強いですよ。あれが通じてるんだと思うと、そんなに意識しなくても少年誌を描ける。

──なるほど。確かに少年期の感情は一種普遍的で変わらないものかもしれません。ナニナニちゃんが好きだけど好きって言えない、みたいなのは。

あと、なんでしょうね。時代無視してますからね、ずっと。それは意識的に避けてます。もう携帯電話描くときすごく困った。いよいよ描かざるをえなくなりましたけど。

──でも携帯電話は持ってても、服のシェイプがその年の流行だったりはしないですよね。たとえば男の子のボトムスはいつでも、いわゆる「あだちズボン」です。

いわゆる「あだちズボン」

それも意識的にやってますねずっと。死んでもルーズソックスは描かないと決めてましたからね。このファッションはないわ、と思って。何年後かに見たら絶対にダメだろうと。バカ短いスカートとかガングロとかも。

絵は、求めればいくらでもいけます

──一方で絵は古びないどころか常に新しくなってますよね。何度もモデルチェンジなさっています。

この間「クロスゲーム」が終わったときに藤田和日郎先生から届いたFAXに「今の絵が一番好きです」って書かれてて。60歳近くになって描いた絵を一番好きだといってくれたのはうれしいです。

──僕も今の絵がいちばんモダンだし洗練されてると思います。それってご自分で絵柄を変えようと意識してきた結果なんですか。

意識はしてないですね。絵は自然と変わっちゃいますから。特に週刊の流れの中で描いてると、思わぬ変な癖が強まっていって、あとで見返すと「何だろうこの絵は」ってことが何度もありました。それをまた引き戻して引き戻して、って感じです。

──あ、引き戻すときは意識して「こっちへ」って。

それはもう。変な癖が付いていくんですよね、何年か周期で。その微調整はしながらきてると思う。なるべく自分の好きな絵に近づきたいなと。

──その「こっち」方向とか自分の好きな絵っていうのは、脳内にあるものなんですか?

ですよね。きっとね。

インタビュー写真

──そこから上手に取り出せてるときと、上手に取り出せてないときがあると。

線が少ないマンガ家だから、1本、頬の線が内側に入っちゃっただけで、全然違っちゃう。影とか付ければごまかし効くんですけど、線が単調でしょ、目とか鼻とか。だから微妙なとこで変わってっちゃう。アニメにしづらい絵だなと思ってます。

──ああ、子供心にあだち作品のアニメ、「なんか違う……」と思って観てました。

でしょ? お目が高い子供だ(笑)。ほんと絵は微妙ですよね。まだ活版だったらホワイト使えるけど、4色となるとパソコン使わない人は一発勝負ですからね。大変なんですよ。

──まだその脳内の理想に近づいていく道半ばという感じですか。

絵はね、いくらでもいけますよね。求めていけばね。

一生ムフ、ムフ、ですよ

──説教臭くならず、エヴァーグリーンなテーマを扱い、絵柄は更新され続けている。なんとなくあだち先生が少年誌で活躍し続けてきた理由が見えてきた気がします。

というかね、いったん青年誌に行っちゃうと戻ってこれないんだよね。

──戻ってこれないものですか?

戻った人はいないよね基本的に。描けないよ、1回青年を描いちゃったら少年誌は。

──それはつまり、いったんセックスを描いてしまったら、手をつなぐくらいじゃ……。

それはものすごくそうだよね。ドキドキ感っていうのはね。

「QあんどA」より

──確かに、あだち充のすごさっていうのは、いつまでもパンチラを描き続けてることだと思います。いまはもう、たとえばGoogleに「モロ」って2文字入れて叩くだけでそのものが見れてしまう世の中です。その世界でパンツが見えて大騒ぎって感覚は、ほんとに大切なことで。

そうですよ。ブラ透けなんてもう、大変なことですよ。

──しかもあだち先生のパンチラを見ると、我々も、その布の中に何が入ってるかっていうのを知らなかったときの、あのときめきが取り戻せるという。

わはは(笑)。

──そこをキープできてるってのはなんなんでしょう。何かを失ってないんですよね。僕らがパンツの中身や、その後を知ってしまったことで失ってしまった何かを。

永遠に中学生のままという。だからきっと一生偉くもなれないし権威にもなれないんですよ。それでいいんです。そうありたい。

──チラっと見えたらムフって言い続けて。

そうそう。一生ムフ、ですよ。

ゲッサン少年サンデーコミックス「QあんどA」(2) / あだち充 / 発売中 / 460円(税込) / 小学館 / ISBN: 978-4-09-122239-8

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あらすじ

6年前に事故で亡くなったはずの兄と地縛霊になって再会!?
やんちゃな兄・久の幽霊に高校生活をひっかき回されている弟・厚だったが、さらに厚のことを「初恋の人」と呼ぶ女の子“大内忍”の出現で……春の嵐の予感!?
あだち充が描くちょっぴり切ない兄弟の絆の物語、第2巻!!

月刊少年サンデー「ゲッサン 8月号」 / 発売中 / 500円(税込) / 小学館

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8月号ラインナップ

原作 伊坂幸太郎・漫画 大須賀めぐみ「Waltz」/原作 犬村小六・作画 小川麻衣子「とある飛空士への追憶」/あだち充「QあんどA」/あおやぎ孝夫「ここが噂のエル・パラシオ」/西森博之「いつか空から」/高田康太郎「ハレルヤオーバードライブ!」/森茶「BULLET ARMORS」/村枝賢一「妹先生 渚」/あずまよしお「ぼくらのカプトン」/原作 武論尊・作画 マツセダイチ/四位晴果「よしとおさま!」/原作 和田竜・作画 坂ノ睦「忍びの国」/島本和彦「アオイホノオ」/モリタイシ「まねこい」/ヒラマツ・ミノル「アサギロ~浅葱狼~」/原作 木原浩勝・漫画 伊藤潤二「怪、刺す」/福井あしび「マコトの王者~REAL DEAL CHAMPION~」/吉田正紀「楽神王~vero musica~」/中道裕大「月の蛇~水滸伝異聞~」/荒井智之「イボンヌと遊ぼう!」/ながいけん「第三世界の長井」/アントンシク「リンドバーグ」/横山裕二「いつかおまえとジルバを」/石井あゆみ「信長協奏曲」

プロフィール写真

あだち充(あだちみつる)

1951年2月9日、群馬県生まれ。本名は安達充(読み同じ)。石井いさみのアシスタントを経て、1970年にデラックス少年サンデー(小学館)にて北沢力(小澤さとる)原作による「消えた爆音」でデビュー。その後しばらく原作付き作品の執筆をメインに行い、幼年誌、少女誌での連載を経て、少年サンデー増刊(小学館)にてオリジナル作品「ナイン」を執筆。少女誌での連載経験を活かし、既存の野球漫画にはなかったソフトな作風で人気を博した。続く「みゆき」「タッチ」で第28回小学館漫画賞少年少女部門を受賞。両作品ともアニメ化し、歴史に残る作品として幅広い世代に親しまれている。野球漫画家としても評価が高く、東京ヤクルトスワローズのファンとして球団の宣伝ポスターも手がけている。