コミックナタリー Power Push - ゲッサン1周年記念特別インタビュー あだち充

色褪せることない永遠の少年心 デビュー40年、生涯「ムフ」宣言!

深夜ラジオに変な言い方を探してた

──その「ナイン」の2話目から現在にまで至る「あだちワールド」の魅力について、その魅力の源泉、ルーツみたいなものを教えていただければ。

基本的には高校時代聴いてた、深夜ラジオと落語ですよね。特にその頃の深夜ラジオっていうのは、リスナーからの長ーい手紙を読むんだけど、これがまた面白いんですよ。自分たちの日常とかで起こってることを書いてくるんだけど、上手いんです。

──投稿も上手いし、それを受けてのおしゃべりも?

もちろん。それはすごく頭の中で文章とか会話の勉強にはなりましたね。

──こないだ、とあることで友人に「お前どっちの味方なんだよ」って問われたとき、僕は「どっちも敵だよ」って答えたんですけど、これは「みゆき」の村木のセリフで、当時面白い受け答えだなあと思って覚えていたんです。そういう真似したくなるセリフ回しがいっぱいありました。

変な言い方を探すのが好きなんですよね。ストレートな言い方はとりあえず省きますから。ときどき「これ通じるかな?」って心配になるけど、全員に通じなくてもまあいいかと思うんだよね。

──そういう言い回しを書き溜めてたりはするんですか?

くだらないダジャレとかは書き留めますよ。思いついたときは。

──ネタ帖があるんですね。見せていただけたりは、しない……ですよね……。

インタビュー写真

やなこったい!(笑) 昔、机の上に広げたまま寝ちゃったんですよ。そしたら寝てる間に原稿取りに来た当時の担当が見て、起きたら「先生、『受話器肉踊る』って何ですか」って聞いてくる。勝手に見んな! と。

──(笑)。

誰かに見られたり、他人に喋っちゃうとマンガにする気なくなっちゃうんだよね。

──ごもっともです。高校時代にずっと聴いてた番組なんて覚えてらっしゃいますか?

毎晩聴いてたよ、曜日によってTBSだったりニッポン放送だったり。ずっと喋ってますからねあの頃のラジオは。「オールナイトニッポン」がちょうど始まった頃です。そんでTBSでは「パックインミュージック」というのがあったんです。若者の文化は深夜放送に集まってたよね。いろんな情報とかバカなこととか。

──投稿されたことは? ハガキ職人とか。

そこまではやってないですね。

落語もビートルズもみんな、ラジオが教えてくれた

──落語とはどこで出会ったんですか。

その頃はテレビでもやってたし、ラジオで落語の番組があったんですよ、早朝に。だからそれもラジオだね。録音するもんなんてないから、全部聞き流しですけど。あ、でも高校時代は落語の本とか買ってきて読んでましたね、古典が文章になってるやつとか。

──お気に入りの演目は。

同じ演目でも演者によりますからねえ。

──名手だと思う落語家はいますか。例えば枕ならこの人、みたいな。

家元(立川談志)の枕は好きです。気持ちいいくらい乱暴でデタラメで。もちろん本編も最高です。

──じゃあそこら辺で「あ、この言い方いいな」っていうのがあると、メモ帳や心の中に書き留めて。

そう。マンガに使おうなんて意識はなかったけど。そういうものが積み重なってる感じはすごくするんですよね。

インタビュー写真

──ラジオだと音楽も流れると思うんですけど、音楽のご趣味は。

ビートルズはもちろん、当時の60年代の音楽は好きですよ。ビートルズが出てくる前のオールディーズも小学校の頃から好きでした。テレビでは海外の曲にでたらめな日本語つけて歌ってましたけど、それはそれで味がありました。東京に出てきてからは、時代的にフォークソングですね。

──落語にビートルズと、高校生にしてはなかなかハイブロウな趣味の持ち主です。

それはほんとラジオが大きかった。ビートルズの新曲もラジオでまずかかるし。高校時代はテレビよりもずっとラジオでしたね。逆に言えばいまみたいにいろいろないから、ラジオぐらいしか情報が入ってこないんですよ。

自分の好みはワイルダーなんだな、と

──あとガメラやゴジラ、月光仮面がお好きだったと。怪獣モノや勧善懲悪って、あだちワールドと縁がないように思えるのですが。

それは子供だから(笑)当然でしょ。でも基本的に、映画とか小説は自分の世界とはまったく違ったものが大好きですよ。「仁義なき戦い」とかね。単純に楽しめる、参考にしようとは思わないものが。ガメラ観たところでねえ、極端でなんの参考にもならない。小説とか江戸川乱歩とか大好きだし。

──自分から出てこないようなものが。

そうだね。本当に好きで自分の作風とも似てるのはビリー・ワイルダーぐらいで、他はないものねだりが多いですよね。ワイルダーになると、上手いなー、とか構成演出の影響は受けてますけど。

──僕は近所にレンタルビデオができたとき初めて借りたのが「アパートの鍵貸します」で、それもあだち作品で出てきて覚えていたからです。

「みゆき」より

「アパートの鍵貸します」は、本当に細かいですよねいろんな伏線が。大好きですね。いっぱい振りまいておいて、気持ち良く回収してくれるところが。最初は監督とか気にせず観てましたけど、あとになって面白かったな、と調べるとワイルダーだったんだ。「昼下がりの情事」もそうだし、「第七捕虜収容所」も誰の作品とか気にしないで見てたんだけど、上手いなあと思った。

──「第七捕虜収容所」は打って変わってなかなかタフな物語ですが、どんなところが上手いなあと?

会話してるシーンに、なんかライト(照明)のアップが差し込まれるんですよね。これが大事なところの伏線になってるんだけど、見せ方とかがすごく引っかかってくるんだ。あとになってこれもワイルダーだったんだと知って、自分の好みはワイルダーなんだな、と。

──そういったカット割りとかを気にして映画をご覧になるんですね。

好きなんだよね、工夫されてるのが。あーそうだったんだってなると気持ちいいじゃん。それをちゃんとやってくれると。マンガでも風呂敷広げて回収しないで終わるマンガはすごく嫌なんですね。フリだけかよ、みたいなの。最後はちゃんと店じまいしようよ、という。

ゲッサン少年サンデーコミックス「QあんどA」(2) / あだち充 / 発売中 / 460円(税込) / 小学館 / ISBN: 978-4-09-122239-8

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あらすじ

6年前に事故で亡くなったはずの兄と地縛霊になって再会!?
やんちゃな兄・久の幽霊に高校生活をひっかき回されている弟・厚だったが、さらに厚のことを「初恋の人」と呼ぶ女の子“大内忍”の出現で……春の嵐の予感!?
あだち充が描くちょっぴり切ない兄弟の絆の物語、第2巻!!

月刊少年サンデー「ゲッサン 8月号」 / 発売中 / 500円(税込) / 小学館

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8月号ラインナップ

原作 伊坂幸太郎・漫画 大須賀めぐみ「Waltz」/原作 犬村小六・作画 小川麻衣子「とある飛空士への追憶」/あだち充「QあんどA」/あおやぎ孝夫「ここが噂のエル・パラシオ」/西森博之「いつか空から」/高田康太郎「ハレルヤオーバードライブ!」/森茶「BULLET ARMORS」/村枝賢一「妹先生 渚」/あずまよしお「ぼくらのカプトン」/原作 武論尊・作画 マツセダイチ/四位晴果「よしとおさま!」/原作 和田竜・作画 坂ノ睦「忍びの国」/島本和彦「アオイホノオ」/モリタイシ「まねこい」/ヒラマツ・ミノル「アサギロ~浅葱狼~」/原作 木原浩勝・漫画 伊藤潤二「怪、刺す」/福井あしび「マコトの王者~REAL DEAL CHAMPION~」/吉田正紀「楽神王~vero musica~」/中道裕大「月の蛇~水滸伝異聞~」/荒井智之「イボンヌと遊ぼう!」/ながいけん「第三世界の長井」/アントンシク「リンドバーグ」/横山裕二「いつかおまえとジルバを」/石井あゆみ「信長協奏曲」

プロフィール写真

あだち充(あだちみつる)

1951年2月9日、群馬県生まれ。本名は安達充(読み同じ)。石井いさみのアシスタントを経て、1970年にデラックス少年サンデー(小学館)にて北沢力(小澤さとる)原作による「消えた爆音」でデビュー。その後しばらく原作付き作品の執筆をメインに行い、幼年誌、少女誌での連載を経て、少年サンデー増刊(小学館)にてオリジナル作品「ナイン」を執筆。少女誌での連載経験を活かし、既存の野球漫画にはなかったソフトな作風で人気を博した。続く「みゆき」「タッチ」で第28回小学館漫画賞少年少女部門を受賞。両作品ともアニメ化し、歴史に残る作品として幅広い世代に親しまれている。野球漫画家としても評価が高く、東京ヤクルトスワローズのファンとして球団の宣伝ポスターも手がけている。