「MIX」を元野球部・ティモンディが語る|「二度目の高校生活を贅沢に味わっている気分」あだち充が描く、部活にも恋にも全力投球な野球マンガ

あだち充の代表作「タッチ」に登場した、あの明青学園が再び物語の舞台に。あだちがゲッサン(小学館)で連載している「MIX」は、明青学園が甲子園を制したその後を描く青春野球マンガだ。同作の1年ぶりとなる新刊が発売されたことを記念し、コミックナタリーでは高校時代に強豪校の野球部で活躍していたお笑いコンビ・ティモンディにインタビューを実施。野球経験者の目に、同作で描かれるプレイやフォーム、そして選手たちの心の動きはどう映ったのか。現役時代の思い出をたっぷり交えつつ語ってもらった。

取材・文 / ツクイヨシヒサ 撮影 / ヨシダヤスシ

「MIX」作品紹介

左から立花投馬、立花走一郎。

大ヒット作「タッチ」とつながる。再びあの学校が舞台に──

両親の再婚により、同い年の義兄弟となった立花投馬と立花走一郎。彼らは明青学園野球部で、投馬が投手、走一郎が捕手としてバッテリーを組んでいる。約30年前に上杉達也が甲子園優勝を果たしてから、明青学園野球部は中等部も高等部もずっと低迷したまま。果たして2人は明青学園を再び甲子園に導き、かつてのような完全勝利を収めることができるのか。

ティモンディインタビュー

左から前田裕太、高岸宏行。

あだち充作品はやはり「爽やかな青春」

──主人公である投馬と走一郎が高校2年生の夏を迎え、「MIX」がさらに盛り上がっています。ティモンディのおふたりは、作品のどんなところに注目していますか?

「MIX」3巻より。中等部で3年生が引退した後、走一郎は新チームのキャプテンになる。

前田裕太 僕はキャッチャーの走一郎くんの活躍に期待しています。現実の野球ではピッチャーに注目が集まることが多いですけど、キャッチャーは「扇の要」といわれるように、本当に大切なポジション。「MIX」では、その走一郎くんの存在がいかに試合を左右するかということが、とても強調されて描かれていると思います。僕の中では、「MIX」イコール「走一郎くんの物語」と言ってもいいぐらい、魅力的なキャラクターですね。

高岸宏行 僕はもう、登場するキャラクター全員、紡がれていくストーリー全部に興味を引かれていますね。これから物語がどう転がっていっても、楽しめるのは間違いないなと。すでに自分なりの思い入れができてしまっているので、意外な展開が訪れても「おおーっ!」と唸ってしまうだけというか。

前田 確かに、いきなり負けてしまったとしても、それはそれで面白いと思えますよね。

高岸 だから、あだち充先生にはどうかご自身の思いをすべて出し切ってください、とお伝えしたいです。先生なら「やればできる!」。

前田 いや、もう十二分にやってこられている方だから!

──あだち充先生の作品は、これまでどんなものに触れてこられましたか?

前田 僕らが中学生のときに「H2」がドラマ化(※1)されて、同時にマンガも読んでいた感じです。あと同じ年に「タッチ」も、長澤まさみさんの主演で映画化されたので、その2つが僕らの世代には影響の大きい作品ですね。あだち充作品の印象ですか? やっぱり全体的に「爽やかな青春」というイメージです。

※1 2005年に放送されたドラマ「H2〜君といた日々」。

高岸 僕の場合は、けっこうみんなと違いまして、マンガやアニメなどにはあまり触れてこなかったんです。物語の内容を周りの友達から教えてもらうぐらい。「H2」さんとかは、学校の休み時間にみんながよく話していたという記憶はありますね。「タッチ」も「双子が主人公だよね」とか、ところどころ知っているだけで。

前田 当時、まともに読んでいたのは子供の頃にプレゼントされた「巨人の星」だけだったんでしょう?

高岸 そうなんです。小学校へ入る前ぐらいに、初めてのクリスマスプレゼントで「巨人の星」の2巻をもらったんですよ。ええ、1巻じゃなくて(笑)。「MIX」はその「巨人の星」以来、久しぶりにきちんと読んだマンガですよ。

前田 僕は「H2」や「タッチ」以降も、「クロスゲーム」や「MIX」をコミックスで買って読んでいました。野球マンガに限らず、どんなジャンルのマンガも幅広く読むタイプですね。「MIX」に関しては文字通り、あだち充作品のさまざまな要素がミックスされているのと同時に、1つの独立した物語としても楽しめるところが面白いと思います。

済美高校野球部は恋愛禁止だった!?

──ティモンディのおふたりといえば、愛媛県の超強豪校・済美高校の野球部出身であることが有名ですが、経験者の目から見た「MIX」はどんな印象でしたか?

高岸 高校時代に愛媛の田舎で野球をやっていた匂いを思い出させてくれました。大会前の雰囲気だとか、懐かしい気持ちにさせられましたね。

前田 ただ、学校生活の部分は僕らとだいぶ違いますけど。僕らはもう朝から晩まで野球のことしか考えず、勉強なんかは二の次という生活だったので。「MIX」を読むと正直、「こういう学校もあるんだな」と。

高岸 そうですね。でも僕らは自分たちが特殊な環境にいるっていうこともわかっていたので、「MIX」を読んで二度目の高校生活を贅沢に味わっている気分です。

前田 「放課後って、こんなに自由な時間があるんだ」とかね(笑)。僕らは授業が終わった瞬間に、急いでグラウンドへ移動してましたから。

──恋愛に関してはいかがでしたか。野球部は目立つので、モテたと思うのですが。

前田 ウチの監督(※2)がですね、「色恋にかけている時間や労力はない」という方針だったので。入部から引退までの2年4カ月は、とにかく1球でも多く振って、1球でも多く投げることでほかと差が出るんだという。恋愛に時間を割いてもダメだし、女子と話してもいけない。

※2 名将として名を馳せた故・上甲正典氏。

高岸 しかも監督さんが学校内を見に来るので……。

前田 「浮ついている奴はいないか」を確認しにくるんです。学校でもグラウンドでも監督に見られているという、刑務所暮らしみたいな高校生活でした。

高岸 当時、僕らは部活が終わっても、寮生活でしたし。

「MIX」1巻より。運動も勉強もでき、容姿端麗な走一郎は女子にモテる。

前田 だから「MIX」を読んで「いいなあ」と思う部分はありますよ。もし自分たちも恋愛ができていたら、その力を野球に還元するという方法もあったのかなとか。マネージャーも歴代、男子が務めていましたからね。練習が長くて夜の11時ぐらいに終わるので、女子だと帰りが遅くなって危ない、という理由が一応ありましたけど。たぶん、女子マネージャー禁止というのも、監督の方針だったんだと思います。

──ちなみに、寮生活ではマンガを読むことはできるのですか?

前田 寮では、先輩方が残していったものがどんどんと受け継がれていたり、実家へ帰ったときに同級生が持ってきたものが回ってきたりして、マンガを読むことはできました。とはいえ、それほど種類はなくて、僕らが読んでいたのは「ろくでなしBLUES」や「はじめの一歩」など。野球マンガはあまりなかったですね。高校時代は「野球はもう目一杯にやっているから……」という気持ちが強かったです。