コミックナタリー Power Push - ゲッサン1周年記念特別インタビュー あだち充

色褪せることない永遠の少年心 デビュー40年、生涯「ムフ」宣言!

2005年から続いた「クロスゲーム」の連載を終え、週刊少年サンデーからゲッサン(ともに小学館)に仕事の軸足を移したあだち充。「ナイン」以来37年ぶりの月刊連載「QあんどA」2巻の刊行とゲッサンの創刊1周年を記念して、コミックナタリーはロングインタビューを敢行した。

40年近い歳月を少年誌で過ごし、これからもずっと「少年誌マンガ家でいたい」と語るあだちの、第一線でサバイブし続ける極意とは。中野区の住宅街にあるあだちプロにお邪魔して、2時間にわたりたっぷり話を聞いた。

取材・文・撮影/唐木 元

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大変なんだよ月刊は月刊で

──「クロスゲーム」を終えられて、月刊のお仕事がメインになるのは37年ぶりと伺いました。ひとつ、マンガ家人生における大きな節目になるのではないかと思いますが。

インタビュー写真

そう……なるんでしょうか? 何の区切りだかよくわかんないけど(笑)。

──お仕事のペースはだいぶ変わるんじゃないですか?

それはかなり変わります。まだ月刊のペースに慣れてないんだよね。時間の無駄使いがどうにも多いような気がする。

──週刊のときは、1週間をどのように使われていたんでしょう。

ネームは、ざっと考える日があって、あと2日ぐらいでまとめるという感じですね。だから全部で3日くらい。絵も3日って感じですね。最後の3日目は徹夜だから、それで7日を使い切って、ほとんど休みなしです。

──これが月刊になると?

これが、休みがあるんですよ(笑)。

──なんと1カ月は4週間半もありますが。

いやいや、何言ってんだよ、大変なんだよ月刊は月刊で(笑)。ページ数は倍だし! 理想としてはね、2カ月で3本……月刊ふたつに読み切りひとつをどっかで描く、という形でやっていこうかと考えてます。いまはまだそのペースになってないんだよね。コミックスの単行本作業とか、週刊誌の後始末があったので。

──読み切りは基本的にサンデーに載るんでしょうか?

たぶん、まあいろいろと、どうなるか、はて、さて……。

──2カ月で3本ということは、20日で1本。週刊に比べれば……。

週刊ペースに比べればいいんですけどね。もうあんまり無理もできないし。うん、休みは必要ですんで。

──ほとんど休まれていないですよね、30何年。今回の節目で、1年くらい休ませてくれよ、とかおっしゃったりはしなかったんですか。

もう(「QあんどA」をゲッサンで)始めちゃってたからねぇ。休めませんでした。

どこだろうと絵が描ければよかった

──その30年とか40年って期間を第一線で走り続けるという、長い季節をサバイブしてきたことに、何か秘訣みたいなものがあるのか、ってことが今日は伺えたらいいなと。

ないから、そんなの(笑)。基本、マンガ家なんてのはずっと綱渡りですから。何年後はどうとか考えながら働いたことはないですよね。とりあえずは25歳までマンガ描けたらいいな、というので(東京へ)出てきて、25過ぎた段階であとは儲けものという感じでやってたんでね。

──ずいぶんと儲けものの期間が長くなってしまいましたが。

長いですよねえ。ここまで来るとは思わなかったです、まったく。

──デビューして最初の頃は、原作付きを描かれていました。

19歳でデビューして、ほぼ10年間くらい描いてましたね。オリジナルは読み切りだけだった。

──原作付きの頃、例えば自分のストーリーを描きたいと思ったり、好きに描かせてくれよ、みたいな不満はありませんでしたか。

インタビュー写真

まったくなかったんですよ、これが不思議なくらい。絵が描ければよかったんだ。絵で食えれば、本当にそれでよかったの。

──その頃、少年誌から少女誌に行くという、割と大きな転機があったと思うんですが、それはご自身としては感慨があったのでは。イヤだなあとか仕方ないとか。

それも一緒で、どこだろうと絵が描ければいいやという気持ちだったから、何もなかったですよ。少年誌で柱になってやろうとか、売れてやろうみたいな気持ちはまったくなかった。

──俺の作家性を世に問うてやる、みたいのは。

ないない(笑)。とりあえずマンガを描けて食えればいいなと。まあ、どうせそんなものはそんな長く続かないだろうし、という感じで。

──そんな、ビートルズみたいなことを。

マンガの歴史自体がね、50歳過ぎてもマンガ描けてるなんて人、いなかったもの。現在の大物たちが30代の頃ですからね。そっから先もマンガ描けるなんてことは思いもよらなかった。

──不安になったりはしませんでした? 食いっぱぐれるんじゃないかとか。

最初からその覚悟はできてたんで。だから食えてる時点でもう、儲けものだったんですよ。食えなくって当たり前って思ってたから、マンガ家なんて。まあ20代で売れなくてよかったってのは本当に思いますけどね。

ゲッサン少年サンデーコミックス「QあんどA」(2) / あだち充 / 発売中 / 460円(税込) / 小学館 / ISBN: 978-4-09-122239-8

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あらすじ

6年前に事故で亡くなったはずの兄と地縛霊になって再会!?
やんちゃな兄・久の幽霊に高校生活をひっかき回されている弟・厚だったが、さらに厚のことを「初恋の人」と呼ぶ女の子“大内忍”の出現で……春の嵐の予感!?
あだち充が描くちょっぴり切ない兄弟の絆の物語、第2巻!!

月刊少年サンデー「ゲッサン 8月号」 / 発売中 / 500円(税込) / 小学館

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8月号ラインナップ

原作 伊坂幸太郎・漫画 大須賀めぐみ「Waltz」/原作 犬村小六・作画 小川麻衣子「とある飛空士への追憶」/あだち充「QあんどA」/あおやぎ孝夫「ここが噂のエル・パラシオ」/西森博之「いつか空から」/高田康太郎「ハレルヤオーバードライブ!」/森茶「BULLET ARMORS」/村枝賢一「妹先生 渚」/あずまよしお「ぼくらのカプトン」/原作 武論尊・作画 マツセダイチ/四位晴果「よしとおさま!」/原作 和田竜・作画 坂ノ睦「忍びの国」/島本和彦「アオイホノオ」/モリタイシ「まねこい」/ヒラマツ・ミノル「アサギロ~浅葱狼~」/原作 木原浩勝・漫画 伊藤潤二「怪、刺す」/福井あしび「マコトの王者~REAL DEAL CHAMPION~」/吉田正紀「楽神王~vero musica~」/中道裕大「月の蛇~水滸伝異聞~」/荒井智之「イボンヌと遊ぼう!」/ながいけん「第三世界の長井」/アントンシク「リンドバーグ」/横山裕二「いつかおまえとジルバを」/石井あゆみ「信長協奏曲」

プロフィール写真

あだち充(あだちみつる)

1951年2月9日、群馬県生まれ。本名は安達充(読み同じ)。石井いさみのアシスタントを経て、1970年にデラックス少年サンデー(小学館)にて北沢力(小澤さとる)原作による「消えた爆音」でデビュー。その後しばらく原作付き作品の執筆をメインに行い、幼年誌、少女誌での連載を経て、少年サンデー増刊(小学館)にてオリジナル作品「ナイン」を執筆。少女誌での連載経験を活かし、既存の野球漫画にはなかったソフトな作風で人気を博した。続く「みゆき」「タッチ」で第28回小学館漫画賞少年少女部門を受賞。両作品ともアニメ化し、歴史に残る作品として幅広い世代に親しまれている。野球漫画家としても評価が高く、東京ヤクルトスワローズのファンとして球団の宣伝ポスターも手がけている。