ナタリー PowerPush - バニラビーンズ
トラック? 火ばさみ? ワキ丸出し!? ちょいワル社長と振り返るバニビ史
「アーチドル」だっけ?
──このタイミングで少しずつライブを行なう機会も増えてきましたよね。バニラビーンズの大きな特徴のひとつとして「動きの少ない振り付け」があると思います。このスタイルも最初から?
社長 それはデビューの前から決めていて。あまり動かない、むやみにはしゃがない、表情を作らない。この頃もまだ「ステージで笑うな」って言ってたんだよな? あくまで“人形”というスタイルでやろうと。
──そのスタイルには何かモデルがあるんですか? 例えば1960年代のヨーロッパのアイドル、フランス・ギャルやそういう時代のアイドルのイメージとも重なるのですが。
社長 いや、特にモデルにしていたものはないです。
──みんな元気で飛び回って、ニコニコと笑顔で挨拶しているのが当然という今の日本のアイドル業界において、バニラビーンズの存在は完全に異質ですよね。
社長 僕はアイドルはおろか邦楽もあまり詳しくなくて。だからあまり既存のものは意識せずに、彼女たちをどうブランディングするかだけを考えてました。
──「アイドル」と「女性アーティスト」、バニラビーンズはどちらに立っていてもおかしくない世界観を持っていますけど、今は「アイドル」の枠にカテゴライズされてると思うんですね。この住み分けについては意識していますか?
社長 もともとは新しいかたちのアーティスト育成だと考えてました。アートの要素を入れたりね。だからあまりアイドルアイドルしたものは考えてなかったです。途中でその両方の要素が入った……「アーチドル」だっけ? そんなコンセプトを考えたりね。
レナ しょーもな!
社長 レナが作った言葉じゃないか(笑)。そんなこともあったんですけど、最近はもう彼女たちもアイドルという枠の中で自分たちのポジションを作ってきているので、それはそれで表現方法としていいかなと思ってます。
「とりあえず火ばさみだけ持ってきてくれ」
◎バニラビーンズがマイ火バサミで琵琶湖をキレイに(2008.8.14)
リサ アイドルであれアーティストであれ、琵琶湖でゴミ拾いはしないですよね(笑)。
レナ 私の地元、FM滋賀のキャンペーンだったんです。
社長 意味わかんないですよね。
リサ 現場に行くまでこっちもどういうイベントかわかってなかったんですよ。「とりあえず火ばさみだけ持ってきてくれ」って言われてて。
──ははははは。
リサ マイ火ばさみを持って。だったら赤いポップなやつがいいかなーって。精一杯のおしゃれですよ。
◎バニラビーンズ、衣装の穴あきにめげず新曲配信(2008.8.27)
──事務所から穴の開いた衣装の写真が送られてきたときは驚きました(笑)。
レナ デビューからずっと着てたんでね。「穴あきにめげず」って別にめげてないですよ!
掟ポルシェとバニラビーンズ
◎バニラビーンズのおしゃれサウンドをポルシェが破壊(2008.11.26)
──2008年には配信限定シングルが立て続けにリリースされました。この時期に、バニラビーンズの歴史を語るうえで外せないキーパーソン、掟ポルシェ(ロマンポルシェ。)さんと出会っていますね。掟さんはもともとアイドルに造詣が深いうえ、ちょっとおかしな活動状況についても的確にその良さを拾い上げてくれる方ですし、この出会いは大きいですよね。
レナ 最初は高円寺のライブハウスに、お客さんとして来てくれたんですよ。私は芸人さんだと思ってたんですけどね。あの、川をまっすぐに歩く……。
──テレビでレギュラー放送されていた「男は橋を使わない」ですね。
レナ 「アレ? 今日は服着てるじゃないですか」って。
リサ みんなから「これからここに来る人はとても大事な人だから、しっかりご挨拶しなさいよ」って言われて、誰が来るのかと思ったら、変なおじさんで(笑)。
──スーツ姿のセレブっぽい人が来るのかと思ったら、セーラーズのスウェットを着た人が。
リサ でも、すごく気さくなやさしい人で安心しました。最初は説教されるのかと思いましたもん。
──この辺で「私たち、何かヘンな方向に来てるな」という自覚はありませんでしたか?
リサ 気付いてなかったですねー(笑)。言われるがまま。
──特に、もともとアイドルに憧れていたレナさんにとっては、自分がずっと見てきたアイドルの王道とは明らかに違う道を歩んでる実感はありますよね。
レナ 「ちょっとサブ(カルチャー)だな」みたいな(笑)。でも、アイドルは「言われたことを何でもする」ものだと思っていたので、「あー、こういうところでトークショーとかもやるんだなー」って、ロフトプラスワンで。
──(笑)特に疑問には思わず。
レナ この頃はまだ思ってなかった(笑)。
──しかし、アイドル業界の風向きもこの数年で少し変わりつつありますよね。これまでテレビや遠いステージでしか眺めることのできなかったアイドルが、Ustreamでプライベート感満載のトークを配信したり。このアイドルが“降りてくる”ような流れについて、2人はある意味先駆者とも言えますよね。社長の思惑としてはどうですか?
社長 おっしゃるとおり、あの段階では確かに「地下に潜りすぎたかな」という気持ちはぶっちゃけありました。でも最初からアイドルというだけでなくカルチャーのほうにも触れてきたので、サブカルチャーであろうがそれは面白いなと思ってましたね。
CD収録曲
- KIDS [オリジナル:MGMT]
- 100万回のSMK
- D&D
- 東京は夜の七時 [オリジナル:ピチカート・ファイヴ]
- LOVE&HATE
- 恋のセオリー
- サカサカサーカス
- ニコラ
- a little crying (レナ&リサVer.)
- U ♡ Me (レナ&リサVer.)
- ガムラスタン <ALL WE WANT TO DO IS ROCK>
<BONUS TRACK>
- 百人一首 君がため ver.
- 百人一首 今来むと ver.
- 百人一首 ひさかたの ver.
- 百人一首 有明の ver.
バニラビーンズ
庶民派でアイドル研究が趣味のレナ(キノコ頭担当)と、日本で正月を過ごしたことがないセレブのリサ(外はね頭担当)からなる実験型次世代アイドルユニット。北欧の風に乗ってやってきたという設定で2007年に「U ♡ Me」でデビューし、翌2008年に初期メンバー脱退後第2期メンバーとしてリサが加入。現在のメンバー構成となる。スウェディッシュポップを意識したサウンドとレトロなビジュアルで渋谷系ファンなどから高評価を得る一方で、近年では自由奔放なトークや「ガラス張りトラック生活」などの風変わりな活動でも注目を集めている。2010年にロート製薬「メンソレータム リフレア D&D」のCMに出演し、CMソングとして「Def & Def」を提供。同年9月に初のベストアルバム「VaniBest」をリリースした。